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departure 1-8
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その扉は何の変哲もない木の板に、取手が付けられただけの簡素な作りであった。
飾りや模様もなく塗装もニスすらも塗っていないのだろう、あちこち欠けていて触ると木片がパラパラと落ちてきた。
試しにノブを回してみるが、ガチャガチャと空回りするだけでまるで飾りのようだった。
「ぶち破れそうな雰囲気ではありますが…止めておきますか。たぶんもう誰か試したでしょうし」
シャルルは目に魔力を込めて改めて扉を見る。
あまり術者のような事は得意ではないが、それでも薄らと真ん中に赤い魔法陣があるのが見えた。
素人にも分かる程に強力な仕掛けということなのだろう。
「う~ん、これは専門家でないと無理ですね。中が気になるところですが、諦めましょう」
解除を試みる事もなくあっさりと諦めた。
本来の目的は開けることではないのだ。扉を見に来たのでさえ単なる好奇心でしかない。
シャルルは再び店の方に戻り、真ん中辺りで片膝を付いてしゃがんだ。
「全部終わったらまた飲みにきますね。今度は仲間を沢山引き連れて」
そう言い訳をして床に手を付き目を閉じる。
数秒の後、ゴゴゴゴと地響きと共に建物がギシギシと危うげな音を立てて揺れた。
揺れは段々と大きくなり、カウンターの酒やグラスが落ち壁や天井から木屑や木片が降ってくる。電灯も振り子のように揺れ動き床板には亀裂が入った。
そして隙間からジワジワと水が溢れ出してきた。
「おや、やり過ぎたかな?」
うっかり、とでも言いたげな軽い口調で独りごちてシャルルは立ち上がった。
揺れは尚も続き水も勢いを増していく。
水嵩が膝程の高さになり、もう入り口も裏口も扉を開けることは出来なくなった時、一際大きな地鳴りがした。
そしてシャルルの足元から噴水の如く大量の水が吹き出した。
水はボロい天井を文字通り木っ端微塵に粉砕し更に高く吹き上がる。
店内の水嵩は2mを超え、入り口の扉がその水圧に耐えられるはずもなく、水は津波のように外へと流れて行った。
バーから突然噴き出した水に、近隣住民も道行く人も頭が追いつかないらしい。
ある者は膝まで水に浸かったまま立ち尽くし、ある者は二階から呆然と下を覗き込み、またある者(主に酔っ払い)は酔い醒ましと称して水浴びをし始めた。
深夜で飲み屋街という事もあり小さな子供がいなかったことが幸いだ。
そんな様子をシャルルは隣家の屋根から見下ろしていた。
「はははー……やはりやり過ぎみたいですねー……えっと、ごめんなさい」
にこやかで控えめな謝罪の言葉は誰にも届くことはなく、海のような青い髪が揺れる夜空を誰も見る事はなかった。
飾りや模様もなく塗装もニスすらも塗っていないのだろう、あちこち欠けていて触ると木片がパラパラと落ちてきた。
試しにノブを回してみるが、ガチャガチャと空回りするだけでまるで飾りのようだった。
「ぶち破れそうな雰囲気ではありますが…止めておきますか。たぶんもう誰か試したでしょうし」
シャルルは目に魔力を込めて改めて扉を見る。
あまり術者のような事は得意ではないが、それでも薄らと真ん中に赤い魔法陣があるのが見えた。
素人にも分かる程に強力な仕掛けということなのだろう。
「う~ん、これは専門家でないと無理ですね。中が気になるところですが、諦めましょう」
解除を試みる事もなくあっさりと諦めた。
本来の目的は開けることではないのだ。扉を見に来たのでさえ単なる好奇心でしかない。
シャルルは再び店の方に戻り、真ん中辺りで片膝を付いてしゃがんだ。
「全部終わったらまた飲みにきますね。今度は仲間を沢山引き連れて」
そう言い訳をして床に手を付き目を閉じる。
数秒の後、ゴゴゴゴと地響きと共に建物がギシギシと危うげな音を立てて揺れた。
揺れは段々と大きくなり、カウンターの酒やグラスが落ち壁や天井から木屑や木片が降ってくる。電灯も振り子のように揺れ動き床板には亀裂が入った。
そして隙間からジワジワと水が溢れ出してきた。
「おや、やり過ぎたかな?」
うっかり、とでも言いたげな軽い口調で独りごちてシャルルは立ち上がった。
揺れは尚も続き水も勢いを増していく。
水嵩が膝程の高さになり、もう入り口も裏口も扉を開けることは出来なくなった時、一際大きな地鳴りがした。
そしてシャルルの足元から噴水の如く大量の水が吹き出した。
水はボロい天井を文字通り木っ端微塵に粉砕し更に高く吹き上がる。
店内の水嵩は2mを超え、入り口の扉がその水圧に耐えられるはずもなく、水は津波のように外へと流れて行った。
バーから突然噴き出した水に、近隣住民も道行く人も頭が追いつかないらしい。
ある者は膝まで水に浸かったまま立ち尽くし、ある者は二階から呆然と下を覗き込み、またある者(主に酔っ払い)は酔い醒ましと称して水浴びをし始めた。
深夜で飲み屋街という事もあり小さな子供がいなかったことが幸いだ。
そんな様子をシャルルは隣家の屋根から見下ろしていた。
「はははー……やはりやり過ぎみたいですねー……えっと、ごめんなさい」
にこやかで控えめな謝罪の言葉は誰にも届くことはなく、海のような青い髪が揺れる夜空を誰も見る事はなかった。
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