ラピスラズリの夢

sweet martini

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第2章

再会

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ピンポーン。
ナタリーは屋敷のベルをならした。
「はい。」
若い男性が出てくる。
そして彼女を見て驚きの表情を浮かべた。
今はちょうど2時前。
若い女性が一人でたずねるのにはおかしい時間なのだ。
「ナタリー・トレロンといいます。ヴァニラ伯爵に会わせて下さい。」
彼女は出来る限り落ち着いた声で言った。
「お待ち下さい」と言い残し、インターホンが切れる。
彼女は祈るように手を握りしめた。
まだ寝ていないといいのだけど。

そのせいで、ナタリーは執事の出てきたのに気付かなかった。
「ミズ・トレロン」
彼女は慌てて振り向く。
「ご案内します。」

門から屋敷までの距離は意外と長かった。
執事は黙って前を歩いている。
ナタリーは周りを眺めた。
かつて美しかった庭は、汚いとは言わないものの、無難に手入れがしてあるだけだ。
ヴァニラ伯爵が急に亡くなったのは2年前。
後を追うように夫人も亡くなり、今はギルバートが家主である。
彼は庭に興味がないのだろうか。
自分が初めて彼と出会ったのが庭であっただけに、ナタリーはこの庭に思い入れがあった。
まだあの樹は残っているだろうか。
あのベンチも、彼の好きだったミモザも。

そんなことを考えているうちに、2人は屋敷に着いてしまった。
皆寝ているのか廊下以外は真っ暗で、ナタリーは小さな部屋に通される。
ここはきっとギルバートの書斎なのだろう。
立ち並ぶ本を眺めていると、靴音がした。
彼女は立ち尽くして扉を見つめる。
ガチャ。
ノブが回され、ギルバートが入ってきた。

4年ぶりの再会だった。
ナタリーはつい彼に見入ってしまう。
青みがかった黒髪も、深青の瞳も、どこか冷たそうな薄い唇も、あの時と変わらない。
しかし、いつの間にか背も伸び、体つきもがっしりとしていて、正真正銘の大人であった。
こんなに男っぽくなるなんて。
ドアを締める、その手の動きさえもどこか気品が漂うっている。
これが、私の好きな人か。
そう思うと彼女は顔のほてるのを感じた。

そういうナタリー自身も、4年前とはかなり変わっていた。
昔は広がって大変だったくせ毛は今や柔らかくカールし、肩にかかっている。
上気した頬も軽く噛んだ口元も、とても愛らしい。
母親似の美少女へと成長していた。

沈黙を破ったのは、ギルバートだった。
「久しぶりだな。」
ナタリーは緊張して何も答えられない。
真夜中に訪問してしまった恥ずかしさもあって、俯いてしまう。
「それで、何の用事が?」
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