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「やあ、御両人。久しぶりだね。執務を放り投げての婚前旅行は楽しかったかい?」
何故貴方様が此処に。
「ああ、クリスティナ可哀想に。顔色が全く冴えないね。夜も寝かせてもらえなかったと見える。狭量な男は独占欲も強くて見苦しいね。」
此処は私の生家なのですが。
「クリスティナ。君は何も心配せずとも大丈夫だよ。陛下は君の身を案じておられた。悪い男に捕まったとね。安心してくれ。これからは君の兄が側にいる。勝手な事は許さないからね。」
黙っていればいつまでもネチネチネチネチ嫌味を(主にローレンへ)連発し続けるフレデリック殿下。
その後ろには兄のトーマスとアラン様が侍っている。てか、殿下。貴方もう公国からお戻りに?
行き成りの声掛けに挨拶のタイミングを失って、どこで礼の姿勢を取って良いのか迷いに迷って、クリスティナはローレンを横目で見た。
駄目ですよ、上司にそんな顔しては!
顎が上がってますよ、少しは笑って下さいな!
「殿下、そろそろ二人にも座ってもらいましょう。」
流石はお父様!殿下のネチネチネチネチをすっぱり断ち切って下さった。
「お、お父様。」
一体何から説明すれば良いのだろう。
説明?いや、詫び?
「クローム領は如何だった。」
父はローレンとの関係よりも何よりも、クリスティナの当初の目的であったクローム領への旅について問うて来た。
クリスティナはそこで気持ちが切り替わる。
「ええ、素晴らしい旅になりました。クローム領はとても豊かな大地でした。山々も大河も風景も、男爵家一族領民全てが温かく力強く懐深く、再び縁を得られたことに感謝して参りました。」
「そうか。それは何よりであった。男爵は達者であったか。」
「ええ。何処か懐かしく思えるお顔立ちをなさっておられました。お人柄もお優しくて、突然伺いましたのにお心を尽くして饗して下さいました。お父様へとお土産を頂戴して参りましたの。」
「ほう、私には?」
そこで兄が割り込んだ。フレデリックの後ろに控えながら。
「も、勿論ですわ。沢山頂きましたの。」
「ほう、私には?」
殿下!何故貴方も参戦する?
「も、勿論ですわ。沢山頂きましたの。」
「皆様失礼。私の妻を、余り虐めないで頂きたい。」
ローレン様!何故貴方も参戦する?
それにまだ妻ではありませんよ!
「そうだ、クリスティナ。お前、大丈夫なのか!ローレンに無理矢理「よさないか、トーマス。」
「しかし父上、」
「クリスティナ。」父がクリスティナを見つめる。
「不安な思いをさせたな。相談出来ぬ父であったのが悔やまれる。」
父の眦は下がり気味でクリスティナの胸も苦しくなる。
「幸せにしてもらいなさい。」
「勿論ですとも、お義父上。」
ですから、ローレン様!何故貴方が参戦なさる?
「ところでクリスティナ。ローレン殿は早急の婚姻を望んでおられる。お前もそれで相違ないのか?」
「え!」
「相違ありません。」
ですから、ローレン様!何故貴方がお答えに?!
「ああ、クリスティナ。妻帯者用の宿舎なら断って「ご心配は無用です、義兄上。」
「貴様...」
「ほう。婚約式もまだであるのに婚姻だと?」
「それもこれも殿下、貴方の為です。来年の婚礼の儀には、クリスティナ共々夫婦でお仕えする所存。」
ローレンは向かって来る敵をバッサバッサと切り捨てる。
「ああ、義兄上。」
「まだ義兄では無い。」
「もうすぐ義兄上。」
「っ...」
「キャサリンは幸せにしております。」
「「何!キャサリンだと「姉上が」」
遅ればせながらアラン参戦。
「ええ、騎士に余りに懐くものですから置いて参りました。」
「「何処の??!!」」
「北の」
「「何だって!!!」」
最後は悲鳴に聴こえた。
「お兄様、馬のキャサリンですわ。キャサリン様ではございません。」
トーマスとアランが二人同時に深く息を吐く。
真逆本当にキャサリン嬢を北の騎士にくれてやったと思ったのか。
愛って全てを盲目にする。
「クリスティナ。婚約の誓約書は既に神殿へ届けられている。陛下が御認めになったからな。セントフォード伯爵も意義無しとの事だ。私はお前の気持ちを確かめてはいなかった。事後であるから何とも出来ぬが、それでもお前の口から聞きたい。
ローレン殿と将来婚姻を結ぶ事を望むか?」
「はい。お父様。」
父はそこで「そうか」と小さく頷いた。
兄はキャサリン嬢が無事であるのが分かって、もう愛馬キャサリンが北の領地にやられたのは良いらしかった。
ローレンによれば、先に大きなインパクトを与えて後出しで本来の交渉事を伝えるなら、大抵最初のインパクトに誤魔化されて結果は望む通りになるのだと言う。
流石は策士。
クリスティナはまだ知らない。
キャサリンは牝馬である。
寒さに強く山野を駆け巡り健脚で肺機能も頗る優れた仔馬達が、このあと次々と生まれることを。
勿論、夫(馬)は護衛騎士ではない。
フレデリック殿下とアランはその後、しれっと極上ウイスキー片手に帰って行った。
一体何しに此処へ来た。
「嵐が去ったな。」
「お兄様は殿下に付いて行かなくてよろしいの?」
「もうすぐ邸を出る妹と、少しばかり家族の団欒を過ごさせてもらっても良かろう。
ああ、ローレン。仕事溜まってるぞ。お前、早く戻れよ。」
「あれしきの執務で溜め込むとは情けない。果たしてその体たらく、殿下の側近が務まりますかな?」
ネチネチ合戦は続いていた。
✳誤字修正致しました。
婚姻の誓約書→㊣婚約の誓約書です。
41話の段階でクリスティナは婚約中です。
何故貴方様が此処に。
「ああ、クリスティナ可哀想に。顔色が全く冴えないね。夜も寝かせてもらえなかったと見える。狭量な男は独占欲も強くて見苦しいね。」
此処は私の生家なのですが。
「クリスティナ。君は何も心配せずとも大丈夫だよ。陛下は君の身を案じておられた。悪い男に捕まったとね。安心してくれ。これからは君の兄が側にいる。勝手な事は許さないからね。」
黙っていればいつまでもネチネチネチネチ嫌味を(主にローレンへ)連発し続けるフレデリック殿下。
その後ろには兄のトーマスとアラン様が侍っている。てか、殿下。貴方もう公国からお戻りに?
行き成りの声掛けに挨拶のタイミングを失って、どこで礼の姿勢を取って良いのか迷いに迷って、クリスティナはローレンを横目で見た。
駄目ですよ、上司にそんな顔しては!
顎が上がってますよ、少しは笑って下さいな!
「殿下、そろそろ二人にも座ってもらいましょう。」
流石はお父様!殿下のネチネチネチネチをすっぱり断ち切って下さった。
「お、お父様。」
一体何から説明すれば良いのだろう。
説明?いや、詫び?
「クローム領は如何だった。」
父はローレンとの関係よりも何よりも、クリスティナの当初の目的であったクローム領への旅について問うて来た。
クリスティナはそこで気持ちが切り替わる。
「ええ、素晴らしい旅になりました。クローム領はとても豊かな大地でした。山々も大河も風景も、男爵家一族領民全てが温かく力強く懐深く、再び縁を得られたことに感謝して参りました。」
「そうか。それは何よりであった。男爵は達者であったか。」
「ええ。何処か懐かしく思えるお顔立ちをなさっておられました。お人柄もお優しくて、突然伺いましたのにお心を尽くして饗して下さいました。お父様へとお土産を頂戴して参りましたの。」
「ほう、私には?」
そこで兄が割り込んだ。フレデリックの後ろに控えながら。
「も、勿論ですわ。沢山頂きましたの。」
「ほう、私には?」
殿下!何故貴方も参戦する?
「も、勿論ですわ。沢山頂きましたの。」
「皆様失礼。私の妻を、余り虐めないで頂きたい。」
ローレン様!何故貴方も参戦する?
それにまだ妻ではありませんよ!
「そうだ、クリスティナ。お前、大丈夫なのか!ローレンに無理矢理「よさないか、トーマス。」
「しかし父上、」
「クリスティナ。」父がクリスティナを見つめる。
「不安な思いをさせたな。相談出来ぬ父であったのが悔やまれる。」
父の眦は下がり気味でクリスティナの胸も苦しくなる。
「幸せにしてもらいなさい。」
「勿論ですとも、お義父上。」
ですから、ローレン様!何故貴方が参戦なさる?
「ところでクリスティナ。ローレン殿は早急の婚姻を望んでおられる。お前もそれで相違ないのか?」
「え!」
「相違ありません。」
ですから、ローレン様!何故貴方がお答えに?!
「ああ、クリスティナ。妻帯者用の宿舎なら断って「ご心配は無用です、義兄上。」
「貴様...」
「ほう。婚約式もまだであるのに婚姻だと?」
「それもこれも殿下、貴方の為です。来年の婚礼の儀には、クリスティナ共々夫婦でお仕えする所存。」
ローレンは向かって来る敵をバッサバッサと切り捨てる。
「ああ、義兄上。」
「まだ義兄では無い。」
「もうすぐ義兄上。」
「っ...」
「キャサリンは幸せにしております。」
「「何!キャサリンだと「姉上が」」
遅ればせながらアラン参戦。
「ええ、騎士に余りに懐くものですから置いて参りました。」
「「何処の??!!」」
「北の」
「「何だって!!!」」
最後は悲鳴に聴こえた。
「お兄様、馬のキャサリンですわ。キャサリン様ではございません。」
トーマスとアランが二人同時に深く息を吐く。
真逆本当にキャサリン嬢を北の騎士にくれてやったと思ったのか。
愛って全てを盲目にする。
「クリスティナ。婚約の誓約書は既に神殿へ届けられている。陛下が御認めになったからな。セントフォード伯爵も意義無しとの事だ。私はお前の気持ちを確かめてはいなかった。事後であるから何とも出来ぬが、それでもお前の口から聞きたい。
ローレン殿と将来婚姻を結ぶ事を望むか?」
「はい。お父様。」
父はそこで「そうか」と小さく頷いた。
兄はキャサリン嬢が無事であるのが分かって、もう愛馬キャサリンが北の領地にやられたのは良いらしかった。
ローレンによれば、先に大きなインパクトを与えて後出しで本来の交渉事を伝えるなら、大抵最初のインパクトに誤魔化されて結果は望む通りになるのだと言う。
流石は策士。
クリスティナはまだ知らない。
キャサリンは牝馬である。
寒さに強く山野を駆け巡り健脚で肺機能も頗る優れた仔馬達が、このあと次々と生まれることを。
勿論、夫(馬)は護衛騎士ではない。
フレデリック殿下とアランはその後、しれっと極上ウイスキー片手に帰って行った。
一体何しに此処へ来た。
「嵐が去ったな。」
「お兄様は殿下に付いて行かなくてよろしいの?」
「もうすぐ邸を出る妹と、少しばかり家族の団欒を過ごさせてもらっても良かろう。
ああ、ローレン。仕事溜まってるぞ。お前、早く戻れよ。」
「あれしきの執務で溜め込むとは情けない。果たしてその体たらく、殿下の側近が務まりますかな?」
ネチネチ合戦は続いていた。
✳誤字修正致しました。
婚姻の誓約書→㊣婚約の誓約書です。
41話の段階でクリスティナは婚約中です。
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