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腐侍女の発病
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その日、殿下は会合のご予定があり、私は仕事の出来過ぎる侍従・出来過ぎ君(ヒューバート様)の補佐のお仕事をしておりました。
保管書庫で年度を超えた書類などを整理すると云う、事務方あるあるの地味な作業です。
コレがなかなか大変なのです。
収納箱は抱えられる大きさですが、びっしりと書類の詰まった箱は重いのです。
紙のくせに重いなんて。恐るべし、紙!
以前いらした護衛さんが、偶(たま)に殿下の許可を得て運搬を手伝って下さっていたのですが、何処ぞの部署に異動されたのでアテに出来ません。
地味に二人、地味な二人が、薄暗い書庫で作業する。腐りまくりですね。
※ヒューバート様は大人の落ち着きのある穏やかな見目のお方です。どちらかと云うと美丈夫です。ヒューバート様の名誉の為に、態々付記する私って親切な腐侍女ですね。心根までは腐り切ってはおりません。
地味な私にぴったりの地味な作業を終えて執務室へ戻る途中、出来過ぎ君(侍従)の後ろを付いて歩いていると、前方右斜め30度1時の方向に殿下発見。
テラスでお茶を楽しまれていらっしゃいます。
ご令嬢と一緒に。
そうなのです。
本日殿下は、婚約者候補のご令嬢とのお茶会なのです。
婚約者候補の筆頭でいらっしゃる、侯爵家令嬢マリア様。
まるで、殿下とお揃いに設えたような燦めく金の髪に蒼い瞳。
優れているのは容姿ばかりで無く、勉学も優秀でいらして、聡明可憐と評判のご令嬢です。
お名前まで神々しいなんて、神が二物も三物もお与えになったのですね。
王太子妃として、未来の王妃として、正にマリア様ほど適任のご令嬢は、国内にはマリア様御本人しか居られないことでしょう。
気付かぬ内に見つめ過ぎていた様です。
「あまり見るな。」
出来過ぎ君(侍従)に注意を受けてしまいました。
でも、何だかそのお声が優しくて、慰められている様な切ない気持ちになりました。
いつもはどっこい無視をしておりますが、今日ばかりはお心遣いに応えようと、
「有難うございます」と、
何故かお詫びではなくお礼を言ってしまいました。
ふっ、と出来過ぎ君(侍従)がお笑いになったような、やれやれ仕方がない部下だな的な微笑みで私をご覧になりました。
ほんの僅かな時間をそうして見つめ合う形になってしまいました。
ふと視線を感じて、そちらを見やりますと、
殿下。
殿下と視線が合ってしまいました。
こんな奇跡、こんな幸運、滅多に無いことです。死んでもいい!
ですが、何故か胸がチクリと痛みました。
嬉しいのに胸が痛むなんて。心の臓の病なのでしょうか。腐り過ぎて、とうとう死んでしまうかも!
また医師様のお世話にならねばなりません。
保管書庫で年度を超えた書類などを整理すると云う、事務方あるあるの地味な作業です。
コレがなかなか大変なのです。
収納箱は抱えられる大きさですが、びっしりと書類の詰まった箱は重いのです。
紙のくせに重いなんて。恐るべし、紙!
以前いらした護衛さんが、偶(たま)に殿下の許可を得て運搬を手伝って下さっていたのですが、何処ぞの部署に異動されたのでアテに出来ません。
地味に二人、地味な二人が、薄暗い書庫で作業する。腐りまくりですね。
※ヒューバート様は大人の落ち着きのある穏やかな見目のお方です。どちらかと云うと美丈夫です。ヒューバート様の名誉の為に、態々付記する私って親切な腐侍女ですね。心根までは腐り切ってはおりません。
地味な私にぴったりの地味な作業を終えて執務室へ戻る途中、出来過ぎ君(侍従)の後ろを付いて歩いていると、前方右斜め30度1時の方向に殿下発見。
テラスでお茶を楽しまれていらっしゃいます。
ご令嬢と一緒に。
そうなのです。
本日殿下は、婚約者候補のご令嬢とのお茶会なのです。
婚約者候補の筆頭でいらっしゃる、侯爵家令嬢マリア様。
まるで、殿下とお揃いに設えたような燦めく金の髪に蒼い瞳。
優れているのは容姿ばかりで無く、勉学も優秀でいらして、聡明可憐と評判のご令嬢です。
お名前まで神々しいなんて、神が二物も三物もお与えになったのですね。
王太子妃として、未来の王妃として、正にマリア様ほど適任のご令嬢は、国内にはマリア様御本人しか居られないことでしょう。
気付かぬ内に見つめ過ぎていた様です。
「あまり見るな。」
出来過ぎ君(侍従)に注意を受けてしまいました。
でも、何だかそのお声が優しくて、慰められている様な切ない気持ちになりました。
いつもはどっこい無視をしておりますが、今日ばかりはお心遣いに応えようと、
「有難うございます」と、
何故かお詫びではなくお礼を言ってしまいました。
ふっ、と出来過ぎ君(侍従)がお笑いになったような、やれやれ仕方がない部下だな的な微笑みで私をご覧になりました。
ほんの僅かな時間をそうして見つめ合う形になってしまいました。
ふと視線を感じて、そちらを見やりますと、
殿下。
殿下と視線が合ってしまいました。
こんな奇跡、こんな幸運、滅多に無いことです。死んでもいい!
ですが、何故か胸がチクリと痛みました。
嬉しいのに胸が痛むなんて。心の臓の病なのでしょうか。腐り過ぎて、とうとう死んでしまうかも!
また医師様のお世話にならねばなりません。
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