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「私は素直なお前が好きだぞ。そうやっていつも素直でいる事だな。」
キャスリーンには、頼れる人間は僅かしかいない。
侯爵家のことであればフランツが筆頭であるが、流石に彼には頼めなかった。
何よりこの男は入手先を知っている。おまけに困ったら頼れと言われていた。
人に頼ることに慣れていない。物欲もそれほど無ければ、そもそも動物の入手先など分らない。
「万事私に任せておけ。」
だからアンソニーに文を出した。
王太子に文など出せる筈も無い。伝があった。古語の教師に託したのである。
アンソニーは、今も教師の教えを受けている。彼は驚くほど勤勉で努力家なのである。
「して、その小鳥、どうやって育てる気だ?」
「...」
「真逆と思うが。真逆お前、それを解らず欲しいと言っているのか?」
「...」
「考えられんな。相手は生き物だ。命がある。お前にはそれを守る責任がある。」
「...」
「ええい!ぽんぽん小憎たらしい口を叩かぬお前など全くもって詰まらんな。仕方が無い。私に任せろ。手配しよう。」
「有難うございます。」
「それだけか!それしか言えんのか!」
「有難うございます。」
「お前こそオウムにでもなってしまえ!」
鸚鵡返しにもじったらしいアンソニーは、ダジャレを決めて得意気な顔を晒す。それになんと返して良いのか分からずに、「有難うございます。」と答えれば、ああ!もう詰まらんな!とアンソニーは焦れに焦れていた。
「此度は先触れがございましたね。」
「ええ、殿下は賢しいお方ですから。三度目にはお解りになるのでしょう。」
キャスリーンは真面目に言ったつもりなのだが、何故かフランツは珍妙な顔をしたのであった。
キャスリーンがアンソニーに小鳥を頼んだ一連の話しを、アルフォンは全く知らずにいた。
キャスリーンは、夫人が私室で飼う小鳥の事などアルフォンの耳に入れても仕方が無い些事と思い話さなかった。
フランツには夫人の私費を使うことから何れ話そうと思っていたが、それも小鳥を迎える時で構わないだろうとのんびり考えていた。
勤勉な王太子は仕事が早かった。彼は将来素晴らしい王になるだろう。
キャスリーンは感銘を受けた。これからは忠実な臣下の一人として、この若き王国の太陽にお仕えしようと心に誓った。
「初めまして、ノーマン侯爵夫人。アダム・マクドネル・チェイスターと申します。以後お見知り置きを。」
柔らかな笑みを浮かべて、アダムが名乗った。
「キャスリーン。君も知っているだろうが、彼は先の帝国駐在大使だ。先だって長き務めを終えて帝国から戻って来た。」
「お初にお目に掛かります。キャスリーン・シェフィールド・ノーマンと申します。お噂は予々伺っておりました。お会い出来て光栄でございます。」
頬に血が上るのが分かる。胸の高鳴りを抑えられない。きっと真っ赤な顔を晒している。恥ずかしい。けれども嬉しい、嬉し過ぎる!
「夫人がオーリアの小鳥を御所望と殿下より伺いました。何故ご興味を?」
「親友が飼っておりましたの。昔の話しでございます。生憎私はその小鳥を見ることは叶いませんでしたが、彼女がかつて語った言葉に感化されてしまったのです。」
「ほお、お前にそんな友人がいたのだな。初耳であるな。お前の友人は私くらいだと思っていたぞ。」
キャスリーンは反射的にアンソニーを睨んだ。
「ははは。真逆、殿下にこの様な可憐なご友人がおられるとは。」
アダムの快活な笑いに、キャスリーンは瞬時に藪睨みを引っ込める。
「お前、露骨が過ぎるぞ。私に不敬だと思わないのか。」
「貴方様ほど勤勉でお仕事の早い王太子を私は存じ上げません。貴方様は将来必ずや素晴らしい王になられる事でしょう。
私は感銘を受けておりますの。これからは忠実な臣下の一人として、若き王国の太陽にお仕えしようと心に誓っております。」
「ぶほっ」
キャスリーンの真実からの告白に、アンソニーは盛大に噎せた。
「お前...」
アンソニーが頬を染めている。感冒?
キャスリーンは医師を勧めるべきか迷った。
「ははははっ」
アダムまで盛大に笑い出して、キャスリーンはアンソニーの事などどうでも良くなった。
「ああ、失礼、失礼。夫人があまりに可愛らしくてつい、」
「キャスリーンとお呼び下さいませ。」
すかさずキャスリーンは願い出る。
「ではキャスリーン様と、」
「いえいえ、敬称は不要ですっ」
「それは流石に..」
「キャスリーン、チェイスター伯爵を困らせるな。」
仕方なく引き下がるキャスリーン。ほんのり紅く頬が染まっている。
そんな姿が初々しく見えていることなど分っていない。
「で、キャスリーン。お前、飼い方も分からぬのだろう。」
「..ええ、仰る通りでございます。」
「でしたら私がお教え致します。ただ、」
そこでアダムは少しばかり逡巡する様子を見せた。そうして心が決まったらしく話しの先を続けた。
「私の邸に通って頂くのは可能でしょうか?小鳥は繊細です。飼育を間違えれば一日で落鳥してしまいます。」
「落鳥?」
「儚くなると言う事だ。」
「まあ!」
「ですからキャスリーン様。少しばかり飼育の練習をされる事をお勧め致します。我が邸で小鳥を育てておりますから。」
キャスリーンは、この日初めてこの世に神がいて願いを聞き届けてくれた事に感謝した。
あれほど寄進のために神殿に通いながら、自身の事を願った試しは一度も無かった。
あの星空に願いを掛けたのを、天空の神が聞き届けくてれたのだと思った。
キャスリーンには、頼れる人間は僅かしかいない。
侯爵家のことであればフランツが筆頭であるが、流石に彼には頼めなかった。
何よりこの男は入手先を知っている。おまけに困ったら頼れと言われていた。
人に頼ることに慣れていない。物欲もそれほど無ければ、そもそも動物の入手先など分らない。
「万事私に任せておけ。」
だからアンソニーに文を出した。
王太子に文など出せる筈も無い。伝があった。古語の教師に託したのである。
アンソニーは、今も教師の教えを受けている。彼は驚くほど勤勉で努力家なのである。
「して、その小鳥、どうやって育てる気だ?」
「...」
「真逆と思うが。真逆お前、それを解らず欲しいと言っているのか?」
「...」
「考えられんな。相手は生き物だ。命がある。お前にはそれを守る責任がある。」
「...」
「ええい!ぽんぽん小憎たらしい口を叩かぬお前など全くもって詰まらんな。仕方が無い。私に任せろ。手配しよう。」
「有難うございます。」
「それだけか!それしか言えんのか!」
「有難うございます。」
「お前こそオウムにでもなってしまえ!」
鸚鵡返しにもじったらしいアンソニーは、ダジャレを決めて得意気な顔を晒す。それになんと返して良いのか分からずに、「有難うございます。」と答えれば、ああ!もう詰まらんな!とアンソニーは焦れに焦れていた。
「此度は先触れがございましたね。」
「ええ、殿下は賢しいお方ですから。三度目にはお解りになるのでしょう。」
キャスリーンは真面目に言ったつもりなのだが、何故かフランツは珍妙な顔をしたのであった。
キャスリーンがアンソニーに小鳥を頼んだ一連の話しを、アルフォンは全く知らずにいた。
キャスリーンは、夫人が私室で飼う小鳥の事などアルフォンの耳に入れても仕方が無い些事と思い話さなかった。
フランツには夫人の私費を使うことから何れ話そうと思っていたが、それも小鳥を迎える時で構わないだろうとのんびり考えていた。
勤勉な王太子は仕事が早かった。彼は将来素晴らしい王になるだろう。
キャスリーンは感銘を受けた。これからは忠実な臣下の一人として、この若き王国の太陽にお仕えしようと心に誓った。
「初めまして、ノーマン侯爵夫人。アダム・マクドネル・チェイスターと申します。以後お見知り置きを。」
柔らかな笑みを浮かべて、アダムが名乗った。
「キャスリーン。君も知っているだろうが、彼は先の帝国駐在大使だ。先だって長き務めを終えて帝国から戻って来た。」
「お初にお目に掛かります。キャスリーン・シェフィールド・ノーマンと申します。お噂は予々伺っておりました。お会い出来て光栄でございます。」
頬に血が上るのが分かる。胸の高鳴りを抑えられない。きっと真っ赤な顔を晒している。恥ずかしい。けれども嬉しい、嬉し過ぎる!
「夫人がオーリアの小鳥を御所望と殿下より伺いました。何故ご興味を?」
「親友が飼っておりましたの。昔の話しでございます。生憎私はその小鳥を見ることは叶いませんでしたが、彼女がかつて語った言葉に感化されてしまったのです。」
「ほお、お前にそんな友人がいたのだな。初耳であるな。お前の友人は私くらいだと思っていたぞ。」
キャスリーンは反射的にアンソニーを睨んだ。
「ははは。真逆、殿下にこの様な可憐なご友人がおられるとは。」
アダムの快活な笑いに、キャスリーンは瞬時に藪睨みを引っ込める。
「お前、露骨が過ぎるぞ。私に不敬だと思わないのか。」
「貴方様ほど勤勉でお仕事の早い王太子を私は存じ上げません。貴方様は将来必ずや素晴らしい王になられる事でしょう。
私は感銘を受けておりますの。これからは忠実な臣下の一人として、若き王国の太陽にお仕えしようと心に誓っております。」
「ぶほっ」
キャスリーンの真実からの告白に、アンソニーは盛大に噎せた。
「お前...」
アンソニーが頬を染めている。感冒?
キャスリーンは医師を勧めるべきか迷った。
「ははははっ」
アダムまで盛大に笑い出して、キャスリーンはアンソニーの事などどうでも良くなった。
「ああ、失礼、失礼。夫人があまりに可愛らしくてつい、」
「キャスリーンとお呼び下さいませ。」
すかさずキャスリーンは願い出る。
「ではキャスリーン様と、」
「いえいえ、敬称は不要ですっ」
「それは流石に..」
「キャスリーン、チェイスター伯爵を困らせるな。」
仕方なく引き下がるキャスリーン。ほんのり紅く頬が染まっている。
そんな姿が初々しく見えていることなど分っていない。
「で、キャスリーン。お前、飼い方も分からぬのだろう。」
「..ええ、仰る通りでございます。」
「でしたら私がお教え致します。ただ、」
そこでアダムは少しばかり逡巡する様子を見せた。そうして心が決まったらしく話しの先を続けた。
「私の邸に通って頂くのは可能でしょうか?小鳥は繊細です。飼育を間違えれば一日で落鳥してしまいます。」
「落鳥?」
「儚くなると言う事だ。」
「まあ!」
「ですからキャスリーン様。少しばかり飼育の練習をされる事をお勧め致します。我が邸で小鳥を育てておりますから。」
キャスリーンは、この日初めてこの世に神がいて願いを聞き届けてくれた事に感謝した。
あれほど寄進のために神殿に通いながら、自身の事を願った試しは一度も無かった。
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