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【8】番外編 Side R&G
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ああ、辛い。眠いし辛いし腰も痛い。
妊婦って見た目以上に辛いのね。
足を伸ばして高くする。
浮腫みが酷くて堪らない。
悪阻らしい悪阻も無く、順調な妊婦ライフを送っていたグレースは、ここに来て絶賛辛い妊婦生活真っ只中にいる。
大きくなり出したと思ったら身体はどんどん変化して、急激な変化に追いつかないのか経験の無い痛みに見舞われている。
「グレース、横寝になれるか?」
「まあ、ロバート、えーと、お願いしても良いかしら。」
「当たり前だよ、奥さんが辛いのに見ているだけだなんて出来ないよ。ほら、こちらへおいで。」
お腹を圧迫しない様にふかふかのクッションを胸に抱えて寝台に横寝になれば、ロバートは慣れた手付きでグレースのふくらはぎを揉んでくれる。
そこ、そこ、そこよ、気持ちいい~!
大きな手で擦って貰うと、滞っていたものが流れる様で楽になる。
「奥さん、次は左だよ。」
「お願いします。」
あ~、そこ、そこ、気持ちいい~!
ロバートは土踏まずまで指圧してミラクルハンドを披露する。
「ごめんなさい、お疲れなのに。」
「何を言ってる?君は私の子を生むんだぞ?こんな辛い事は私には出来ないよ。」
思わず妊婦姿のロバートを想像仕掛けて直ぐに辞めた。
「腰を揉むよ。」
「お願いします。」
「どう?」
「うっ、気持ちいい~っ」
何が痛いって、尾骶骨が兎に角痛む。お腹が迫り出し始めてから、尾骶骨が辛い!
そこをぐっと押して貰うととっても楽になるのだ。こんなところを触れられるなんて夫にしか頼めない。
「Dr.ロバート、有難うございます。お陰でとても楽になったわ。」
「どういたしまして、Mrs.グレース。」
「ふふっ」
互いに軽口を言い合う時間に身体のキツさも忘れてしまう。
「商会の方はどうです?」
隣国へ3号店を立ち上げるのに、ジョージが度々隣国へ渡る事から、商会は要が抜けて大変だろう。
「フランシスが良く埋めてくれている。」
「彼には助けられるわ。本当に父には感謝しているの。得難い逸材を譲ってくれて。」
「そうだな、旅芸人にもなれるそうだし。」
「違うわ、吟遊詩人よ。何気に落として言わないで下さる?」
「君が余りにフランシスを褒めるからだよ。」
「まあ!」
「そんな事より、グレース。」
「フランシスをそんな事呼ばわりなさったわね。」
「ははっ、まあまあ。それでグレース。殿下から伝言がある。」
「え?殿下から?アレックス殿下ですか?」
「ああ。」
ロバートは先日、王城へ登城していた。テレシアへの贈り物をアレックスから頼まれていた。冬生まれのテレシアに贈る首飾りであった。
「伝言とはなんでしょう。」
「この子の名付け親になりたいと。」
「真逆。」
「その真逆だ。」
「ですが...」
グレースが戸惑うのには理由がある。
只今アーバンノット伯爵家とエバーンズ伯爵家では、水面下で名付け親争奪戦が繰り広げられている。
生まれるのはアーバンノット伯爵家の嫡子だと云うのに、何故かグレースの生家であるエバーンズ伯爵家までしゃしゃり出て来て、ロバートとグレースは子の親であるのに口出し出来ずにいた。
「名前くらい付けさせてくれと仰っていた。」
「何故殿下が?」
「私は良いと思うよ。未来の国王陛下から賜る名にこれ程の名誉は無いと思うがね。何より無益な争いを阻止出来る。」
「それは私達の両親の事でしょうか。」
「ああ。双方のじじばばが張り切り過ぎていかん。君の所には兄上のお子が三人もいると言うのに。」
「全くですわね。」
「おまけに、あろう事か我が父まで張り切っている。」
「全くですわね。」
「であれば、ここは殿下に参戦頂く方が万事丸く収まるだろう。」
「本当に。全くですわ。承知しました。殿下にお願い致しましょう。」
こうして、なんとなく横入り的なズルをして、生まれる子の名付け親は決定した。
これをそれぞれの両親に伝えたところ、双方、アレックス殿下に対してなかなか不敬な事を宣ったのだが、ここでは伏せる事とする。
初冬の朝、待望の赤子はこの世に生を受けた。何処からどう見てもロバートを写した様な女児であった。
ここから新たなじじばばによる争奪戦がちょいちょい勃発するのだが、それはまた別のお話し。
アレックス殿下が何を元に名付けたのかは、最後まで明かしてはもらえなかった。
けれども、Roseliaと名付けられた娘を、大層可愛がってくれた。途中から、名付け親と云うからには自分も親であると可怪しな事を言い出して、グレースから距離を取られた。
結果として、ロバートとグレースの間に生まれた子は、ローゼリア唯一人であった。
商会経営を生業とする両親の元に生まれて、令嬢でありながら経営者と云う立場を継ぐ事になる。それは彼女にとって、時には重い荷になるかも知れない。
グレースは、そんなローゼリアに美しいものに沢山触れてほしいと思った。この世の美しい物事を、彼女の美しいビリジアンの瞳に映してあげたいと思った。瑞々しい感性で、この世の中を見つめて体感してほしいと思った。
ローゼリアは父方の祖父からは審美眼を、母方の祖父からは経営学を学ぶ事になる。
きっと素敵な人生を歩むだろう。
貴女の周りは愛で溢れている。みんなが貴女の幸せを願っている。この人生を豊かに伸びやかに生きてほしい。そうして貴女も愛する男性に出会ってほしい。
グレースは濡羽色の髪を撫でながらそう願った。
妊婦って見た目以上に辛いのね。
足を伸ばして高くする。
浮腫みが酷くて堪らない。
悪阻らしい悪阻も無く、順調な妊婦ライフを送っていたグレースは、ここに来て絶賛辛い妊婦生活真っ只中にいる。
大きくなり出したと思ったら身体はどんどん変化して、急激な変化に追いつかないのか経験の無い痛みに見舞われている。
「グレース、横寝になれるか?」
「まあ、ロバート、えーと、お願いしても良いかしら。」
「当たり前だよ、奥さんが辛いのに見ているだけだなんて出来ないよ。ほら、こちらへおいで。」
お腹を圧迫しない様にふかふかのクッションを胸に抱えて寝台に横寝になれば、ロバートは慣れた手付きでグレースのふくらはぎを揉んでくれる。
そこ、そこ、そこよ、気持ちいい~!
大きな手で擦って貰うと、滞っていたものが流れる様で楽になる。
「奥さん、次は左だよ。」
「お願いします。」
あ~、そこ、そこ、気持ちいい~!
ロバートは土踏まずまで指圧してミラクルハンドを披露する。
「ごめんなさい、お疲れなのに。」
「何を言ってる?君は私の子を生むんだぞ?こんな辛い事は私には出来ないよ。」
思わず妊婦姿のロバートを想像仕掛けて直ぐに辞めた。
「腰を揉むよ。」
「お願いします。」
「どう?」
「うっ、気持ちいい~っ」
何が痛いって、尾骶骨が兎に角痛む。お腹が迫り出し始めてから、尾骶骨が辛い!
そこをぐっと押して貰うととっても楽になるのだ。こんなところを触れられるなんて夫にしか頼めない。
「Dr.ロバート、有難うございます。お陰でとても楽になったわ。」
「どういたしまして、Mrs.グレース。」
「ふふっ」
互いに軽口を言い合う時間に身体のキツさも忘れてしまう。
「商会の方はどうです?」
隣国へ3号店を立ち上げるのに、ジョージが度々隣国へ渡る事から、商会は要が抜けて大変だろう。
「フランシスが良く埋めてくれている。」
「彼には助けられるわ。本当に父には感謝しているの。得難い逸材を譲ってくれて。」
「そうだな、旅芸人にもなれるそうだし。」
「違うわ、吟遊詩人よ。何気に落として言わないで下さる?」
「君が余りにフランシスを褒めるからだよ。」
「まあ!」
「そんな事より、グレース。」
「フランシスをそんな事呼ばわりなさったわね。」
「ははっ、まあまあ。それでグレース。殿下から伝言がある。」
「え?殿下から?アレックス殿下ですか?」
「ああ。」
ロバートは先日、王城へ登城していた。テレシアへの贈り物をアレックスから頼まれていた。冬生まれのテレシアに贈る首飾りであった。
「伝言とはなんでしょう。」
「この子の名付け親になりたいと。」
「真逆。」
「その真逆だ。」
「ですが...」
グレースが戸惑うのには理由がある。
只今アーバンノット伯爵家とエバーンズ伯爵家では、水面下で名付け親争奪戦が繰り広げられている。
生まれるのはアーバンノット伯爵家の嫡子だと云うのに、何故かグレースの生家であるエバーンズ伯爵家までしゃしゃり出て来て、ロバートとグレースは子の親であるのに口出し出来ずにいた。
「名前くらい付けさせてくれと仰っていた。」
「何故殿下が?」
「私は良いと思うよ。未来の国王陛下から賜る名にこれ程の名誉は無いと思うがね。何より無益な争いを阻止出来る。」
「それは私達の両親の事でしょうか。」
「ああ。双方のじじばばが張り切り過ぎていかん。君の所には兄上のお子が三人もいると言うのに。」
「全くですわね。」
「おまけに、あろう事か我が父まで張り切っている。」
「全くですわね。」
「であれば、ここは殿下に参戦頂く方が万事丸く収まるだろう。」
「本当に。全くですわ。承知しました。殿下にお願い致しましょう。」
こうして、なんとなく横入り的なズルをして、生まれる子の名付け親は決定した。
これをそれぞれの両親に伝えたところ、双方、アレックス殿下に対してなかなか不敬な事を宣ったのだが、ここでは伏せる事とする。
初冬の朝、待望の赤子はこの世に生を受けた。何処からどう見てもロバートを写した様な女児であった。
ここから新たなじじばばによる争奪戦がちょいちょい勃発するのだが、それはまた別のお話し。
アレックス殿下が何を元に名付けたのかは、最後まで明かしてはもらえなかった。
けれども、Roseliaと名付けられた娘を、大層可愛がってくれた。途中から、名付け親と云うからには自分も親であると可怪しな事を言い出して、グレースから距離を取られた。
結果として、ロバートとグレースの間に生まれた子は、ローゼリア唯一人であった。
商会経営を生業とする両親の元に生まれて、令嬢でありながら経営者と云う立場を継ぐ事になる。それは彼女にとって、時には重い荷になるかも知れない。
グレースは、そんなローゼリアに美しいものに沢山触れてほしいと思った。この世の美しい物事を、彼女の美しいビリジアンの瞳に映してあげたいと思った。瑞々しい感性で、この世の中を見つめて体感してほしいと思った。
ローゼリアは父方の祖父からは審美眼を、母方の祖父からは経営学を学ぶ事になる。
きっと素敵な人生を歩むだろう。
貴女の周りは愛で溢れている。みんなが貴女の幸せを願っている。この人生を豊かに伸びやかに生きてほしい。そうして貴女も愛する男性に出会ってほしい。
グレースは濡羽色の髪を撫でながらそう願った。
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