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婚約者H
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美しい女性(ひと)だな。
ハワードは、令嬢を美しいと思った。
暗い紫色の瞳にプラチナブロンドの髪。
とりわけ瞳が美しい。
長い睫毛に縁取られた暗い菫色。
仄暗くこちらを覗き込むような暗い色。
あの瞳に見つめられて、特に扇子で口元を隠すときなど、細められた目元に訝しむ様な蔑む様な気配が窺われて、心がざわざわと騒ぐ。
一言で言うなら「たまらない」。
くぅっ。
思わず出そうになる声を抑えて散策に誘った。
レースの手袋越しの手がひんやりしていて、それがそのまま彼女の心の温度なのかと気持ちが沈む。
「美しい。」
「ええ、母の自慢の庭ですの。」
いえ、貴女が。そう言えたら良いのに。
そんな事を言ったなら、貴女はきっとその暗い瞳で私を見下(くだ)すのだろう。
下から見下すってなかなかに難しくないか、などと詰まらぬ事を考えた。
夫人の自慢と云う庭園を、端から説明してくれる。
ふむふむと頷く振りをして、令嬢の横顔を覗き見る。
ああ、貴女が妻になる。
私の妻になる。
何たる幸運。
生涯の運を使い果たした気分だ。
満足な心持ちが漏れ出ていたのか
「どう?ご満足?」
スロート嬢が満面の笑顔で微笑んだ。
もう死んでもいい。
ハワードは、令嬢を美しいと思った。
暗い紫色の瞳にプラチナブロンドの髪。
とりわけ瞳が美しい。
長い睫毛に縁取られた暗い菫色。
仄暗くこちらを覗き込むような暗い色。
あの瞳に見つめられて、特に扇子で口元を隠すときなど、細められた目元に訝しむ様な蔑む様な気配が窺われて、心がざわざわと騒ぐ。
一言で言うなら「たまらない」。
くぅっ。
思わず出そうになる声を抑えて散策に誘った。
レースの手袋越しの手がひんやりしていて、それがそのまま彼女の心の温度なのかと気持ちが沈む。
「美しい。」
「ええ、母の自慢の庭ですの。」
いえ、貴女が。そう言えたら良いのに。
そんな事を言ったなら、貴女はきっとその暗い瞳で私を見下(くだ)すのだろう。
下から見下すってなかなかに難しくないか、などと詰まらぬ事を考えた。
夫人の自慢と云う庭園を、端から説明してくれる。
ふむふむと頷く振りをして、令嬢の横顔を覗き見る。
ああ、貴女が妻になる。
私の妻になる。
何たる幸運。
生涯の運を使い果たした気分だ。
満足な心持ちが漏れ出ていたのか
「どう?ご満足?」
スロート嬢が満面の笑顔で微笑んだ。
もう死んでもいい。
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