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ローズ誕生の二年後、コレットは第二子となる女児を産んだ。
姉と同じく色白に生まれたその娘に、コレットは「カメリア」と名付けた。
可憐でありながら枯れるときには首ごと落ちる、凛々しく潔(いさぎよ)い白椿そのもののような娘であった。
聡明な姉様がいらっしゃるのだからと、自由闊達に、幼い頃より父に着いて国中を渡り歩くのを好んだ。
学園の長期休みが来ると、待っていましたとばかりに国を飛び出し近隣諸国を遊学する。
真逆、姉が他国の王族にかっ拐われるなどと思いもせずに、世界中の流行を追いかけて、エドガーの経営する百貨店の若き広告塔として、令嬢方のファッションを牽引していた。
頼みの姉に逃げられて、繋がれるように後継となり、
「お母様、人生には真逆の出来事があるのね!」
などと、父親によく似た瞳を曇らせた。
姿は母似で小柄な細腰であるのに、纏う空気が父親のそれである為か、影で「女王様」等と呼ばれて、女王陛下に不敬よね!と憤慨していた。
後に婿を取り、父親譲りの敏腕を発揮して「女帝」と呼ばれる様になる。
コレットは、生涯を海街の邸を住まいとして過ごした。
社交シーズンの僅かな時期だけ王都の伯爵邸にいて、妻の為にと夫が造らせたオートクチュールドレスを身に纏い、夫に伴われて夜会に現れた。
夫人のドレスは唯一無二のものであったから毎回話題になるも、手に入らないが為にあちこちで真似をされて、図らずも流行を生む事となった。
夫人は髪を飾るのに貴石と生花を併せるのが上手く、腕の良い庭師が居ると云うのを誰かが言っていた。
王都に近い海街の邸は、さながら伯爵家のカントリーハウスの如く、家族の集う邸となった。
商談に出向くエドガーにカメリアが着いて行くと、途端に邸は静かになる。
信を置く家族同様の使用人に囲まれて、コレットは穏やかな時を過ごす。
広間の一枚ガラスの窓から、港を見下ろしその向こう、愛娘が嫁いだ海の彼方を目を細めて眺めていた。
「コレット」
エドガーが手を差し出した。
その手をコレットが取ると、大きく温かな手が息を弾ませる妻の手を握る。
山頂へ続く細い山道を二人、手を繋ぎ歩く。
声の美しい鳥達が仲間に警戒を告げるのを、毎回いつになったら慣れてくれるのかしらと二人して笑いながら歩く。
この先に聖母像がある。
いつかの日、庭師を護衛に伴って登って以降、この道を登る時にはエドガーが伴をすることになった。
「コレット」
目尻に細かいものが増えて、金の髪にプラチナが混ざるエドガーの、コレットを呼ぶ低い声。
コレットだけに解る甘い響き。
この声があれば、どんな暗闇も進んで行ける。瞳を閉じて何も見えなくても、貴方が私の側にいるのが解る。
こちらを見る変わらぬ蒼い瞳に、温かなものが胸に湧くのを今日も感じながら、コレットはエドガーと繋ぐ手に力を込めた。
完
姉と同じく色白に生まれたその娘に、コレットは「カメリア」と名付けた。
可憐でありながら枯れるときには首ごと落ちる、凛々しく潔(いさぎよ)い白椿そのもののような娘であった。
聡明な姉様がいらっしゃるのだからと、自由闊達に、幼い頃より父に着いて国中を渡り歩くのを好んだ。
学園の長期休みが来ると、待っていましたとばかりに国を飛び出し近隣諸国を遊学する。
真逆、姉が他国の王族にかっ拐われるなどと思いもせずに、世界中の流行を追いかけて、エドガーの経営する百貨店の若き広告塔として、令嬢方のファッションを牽引していた。
頼みの姉に逃げられて、繋がれるように後継となり、
「お母様、人生には真逆の出来事があるのね!」
などと、父親によく似た瞳を曇らせた。
姿は母似で小柄な細腰であるのに、纏う空気が父親のそれである為か、影で「女王様」等と呼ばれて、女王陛下に不敬よね!と憤慨していた。
後に婿を取り、父親譲りの敏腕を発揮して「女帝」と呼ばれる様になる。
コレットは、生涯を海街の邸を住まいとして過ごした。
社交シーズンの僅かな時期だけ王都の伯爵邸にいて、妻の為にと夫が造らせたオートクチュールドレスを身に纏い、夫に伴われて夜会に現れた。
夫人のドレスは唯一無二のものであったから毎回話題になるも、手に入らないが為にあちこちで真似をされて、図らずも流行を生む事となった。
夫人は髪を飾るのに貴石と生花を併せるのが上手く、腕の良い庭師が居ると云うのを誰かが言っていた。
王都に近い海街の邸は、さながら伯爵家のカントリーハウスの如く、家族の集う邸となった。
商談に出向くエドガーにカメリアが着いて行くと、途端に邸は静かになる。
信を置く家族同様の使用人に囲まれて、コレットは穏やかな時を過ごす。
広間の一枚ガラスの窓から、港を見下ろしその向こう、愛娘が嫁いだ海の彼方を目を細めて眺めていた。
「コレット」
エドガーが手を差し出した。
その手をコレットが取ると、大きく温かな手が息を弾ませる妻の手を握る。
山頂へ続く細い山道を二人、手を繋ぎ歩く。
声の美しい鳥達が仲間に警戒を告げるのを、毎回いつになったら慣れてくれるのかしらと二人して笑いながら歩く。
この先に聖母像がある。
いつかの日、庭師を護衛に伴って登って以降、この道を登る時にはエドガーが伴をすることになった。
「コレット」
目尻に細かいものが増えて、金の髪にプラチナが混ざるエドガーの、コレットを呼ぶ低い声。
コレットだけに解る甘い響き。
この声があれば、どんな暗闇も進んで行ける。瞳を閉じて何も見えなくても、貴方が私の側にいるのが解る。
こちらを見る変わらぬ蒼い瞳に、温かなものが胸に湧くのを今日も感じながら、コレットはエドガーと繋ぐ手に力を込めた。
完
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