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「君にこれを。」

エドガーが見覚えのある宝石箱を開ける。

どれも思い出のある装飾品の中から、カメリアが飾られた真珠の首飾りを取り出した。

「カインに頼んだだろう。」
そう言って、徐ろにコレットの首に触れる。
不器用な男は、どうやら妻に首飾りを着けてあげようとしているらしい。

上手く留め金を嵌められなくて、ん?ん?という具合にもたつくのを、コレットは堪らなく愛おしいと思った。

漸く嵌められたらしいエドガーは、常と変わらぬ厳めしい表情のまま、コレットの胸元を飾るカメリアに口付けを落とした。

らしく無い事をしている自覚が有るらしく、面白くないとばかりに照れを隠して眉を寄せるのが可愛いと思った。

年の離れた三十路を過ぎた夫である。
この男は、どれほどの女達の目を奪って来たのだろう。

女心を擽る渋みを増した美丈夫を、小憎たらしく思いながら、コレットは自分の気持ちをどうしようも隠し切れなかった。

エドガーを見つめる。
エドガーが、ん?といった顔をする。
思わず笑いが零れそうになるのを我慢して

「愛してるわ、旦那様。」
一番伝えたい言葉を夫に告げた。




初夏の気配を感じさせる、港から爽やかな風が吹き上がってきたその日、コレットは女児を生んだ。

子を宿した頃より、侍女頭が付きっ切りで側を離れず世話を焼いていたのが功を奏したのか、思いの外安らかなお産であった。

邸の庭で盛りを迎えた白薔薇をヨハンが切り取ったのを、侍女のセリア枕元のサイドテーブルに生けていた。

娘は「ローズ」と名付けられた。
腹を痛めた君が名を付けるのがよいとエドガーに言われて、コレットが名付けた。

枕元の白薔薇の様な、色の白い子であった。
けれども、コレットはまだ名付けたばかりの娘の名前を、ローズ、ローズと口の中で馴染ませながら、あの聖夜の頃に雪を割って咲いていた純白のクリスマスローズを思っていた。
凍える冬の大地にあって雪の中に咲く花。純白の孤高の花。

この子はきっと強い子ね。

母親譲りの透けるような白い肌に、父に似たロイヤルブルーの瞳を持って生まれた娘に、無骨な父親は、

伯爵風情に生まれた娘が高貴な色を纏っているなど、何処ぞの王族に姫だと間違えられて妃にと望まれては敵わない、と盛大な親馬鹿を発揮した。

そうしてその言葉の通り、その十数年後には、ローズは海を隔てた隣国の何番目かの王子に、拐われるように嫁いで行った。
生まれた街の港から、海の向こうへ船に乗って嫁いで行った。







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