お飾り王妃の日常

桃井すもも

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お飾り王妃の贈り物

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「お前、何が良いと思う?」

最早、誰も不思議に思わぬ突然の問い掛けに、デキる部下は遅れを取らない。

「クリストファー殿下への贈り物でございますね?」
もうブリジットが何を考えているのか、お茶ノ子祭々で解っちゃう。すごーい。

「そうなのよ。全くもって悩ましいわね。」
ふぅ、と窓の外に目をやりながら溜息を付くブリジットの姿は艶めかしく、ここに王がいなくてホントに良かったと使用人達は安堵していた。

「可愛いのよね♡クリストファー殿下。」もう可愛い~と一人焦れるブリジット。ああ、このお姿もあのお方には見せられない。王がいなくてホントに良かった。使用人達は安堵していた。

ロビンとブリジットの婚姻の翌年に生まれたクリストファーが五歳の誕生日を迎える。その贈り物を何にするかがブリジットの目下の悩み事であった。

贈りたい物が多すぎる。金ならある。質素倹約でちまちま小遣いを貯め込んでいる。金は貯めるだけでは駄目なのだ。ここぞと云う時にこそ大放出するものなのだ。
可愛いクリストファーに最高のプレゼントを贈りたい。何が良いかな?何が良いかな?

「ふんふんふ~ん。」
楽しい思考が鼻歌となって漏れ出ている。
ここに王がいなくて良かった。王以外の物事にすっかり心を囚われているブリジットを前に、使用人達は三度安堵していた。

「もう、公国一つあげたいわね。」
公国統治のノウハウって何かしら、アンゼリカお姉様に聞いてみようかしら、と壮大な贈り物を考えるブリジットに使用人達は危機感を覚えた。
そんな風に他の殿方(幼子)に御心を囚われますと、「やあ、僕の月の女神。」
ほら来た!王が来ちゃった!
(((shit!)))使用人達は一斉に胸の内で舌を打つ。

目敏い王は、妃が心ここに非ずな状態をいち早く嗅ぎ付けて、1時間置きの「王妃の間巡回業務」を45分毎に短縮した。
ブリジットが物思いに耽る艶顔などを行く先々で見せるものだから、妻の思考も視線も独占したい狂王=独占王が愚行を重ねるのだ。

「何を憂いているのかな?」
「もう、ロビンったら忘れちゃったの?」
「質問に質問で返すだなんて、素敵だね。」
「はぐらかさないで頂戴、ロビン。」
「で、何?」

ほらぁ、雲行きが怪しくなって来た。使用人達の表情も曇る。

「クリちゃんよ、クリストファー殿下♡」
「♡は無用だよ、ブリジット。」
「もう相変わらず狭量ね。」
「僕の愛はピンポイントだからね。」
バーンと撃ち抜く仕草をブリジットに向ける馬鹿王。
「はぐらかさないで頂戴、ロビン。」

いつまでも続くんだ、この寸劇、と使用人達が思っている頃、腐れ侍従、もといジェームズが訪れた。続いて護衛三名も。
心做しか皆はあはあ言っている。鍛錬を積んでる護衛も息が荒い。
さては王、侍従と護衛を振り切る高速でやって来たな。さては爆走して来たな。

「貴方も一緒に考えてくれる?ロビン。」
「お安い御用だ、我が妻よ。」

共同作業なら全然OK!な夫は、存外ちょろい男であった。

「公国なんてどうかしら。」
「それには及ばないよ。クリストファーにはこの国をあげるからね。」
「それは良いわね!クリストファー殿下ならきっと賢王になるわ!」

壮大過ぎなお誕生日プレゼントの話をする王と妃に、周囲の者はひとり残らず言葉を失い、ただ見守る事しか出来ずにいた。









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