王妃の手習い

桃井すもも

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幸せの在り処

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オフィーリアが大きなお腹を反らせながら王子を膝に乗せる。

控える侍女があわあわと心配するも、大丈夫とやんわり制する。

「ははうえ、ごほんをよんでください。」

王子は最近、小さな我が儘を度々言う。

第一子として大切にされていたのを、もうじき産まれる弟妹(きょうだい)に、父母を取られる不安に駆られているのか。

大分膨らんだ腹がきつくはあるが、この子は加減を知っているので、大事には至らない。

選んだ絵本は隣国のものだった。

幼いのに賢しいのは、父王に似たのだろう。

隣国の言語をゆっくりと読み聞かせる。

絵と文字と音を、小さなおつむの中で精一杯処理しているのだろう。

この頭の中はどうなっているのかしら。

そう思うとオフィーリアは、王子が可愛く愛おしく、むぎゅうと抱きしめてしまう。

くすぐったいのか、きゃっきゃとはしゃぐ王子。


第二子の王子も、その次に生まれた王女も、続けて生まれた子らも皆、そんな風に育てた。

そうして、いつかの様に絵本の訳を綴って見せる。

「母上、群青色で書いて下さい!」
「何を云っているの?ぜったい深緑の方が良いわ!」
「わたくしは、ピンクが好きよ。」
「ピンクは僕が好きな色だぞ。」

僕も私もと、賑やかに姦しく囀る子供たちに囲まれながら、オフィーリアは文字を綴る。

美しい母国の言葉を誇りに思って欲しい。

流麗な文字がオフィーリアの手から紡がれてゆくのを、瞳を輝かせて子供らが覗き込む。

そうやってオフィーリアは、王子王女等に文字を教え言葉を教えた。

生まれた国が異なろうとも、心を通わせることは出来るのだ。
愛し合うことが出来るのだと知って欲しい。

王子王女の幾人かは、他国から伴侶を得、他国へ嫁ぐことだろう。

どんな場所にあっても、心を通わせ幸わせであってほしいと心から願った。



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