王妃の手習い

賢王

賢王アンドリューの治制は平らかなものであった。

彼には一人の妃がいた。

過去には側妃を娶る王もいたが、彼の妃は生涯この女性(ひと)唯一人であった。

生家一族から固く護られていたのを妻にと欲した。

妃との間に、三人の王子と二人の姫を得る。

王太子時代には、帝国と提携しての「大陸横断鉄道計画」草案を興し、関係諸国との調整役を務めた。

彼の治める国は、古くから固有の文化を育んできた「芸術の国」であるが、その識字率の高さに於いても大陸諸国に知られている。



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オフィーリアがそっと手を添える。

小さな手をやんわり包み、リードする。

幼い手から、一文字がゆっくりと綴られてゆく。

「上手よ。次は "な" を書きましょう。」

先に書いた文字の横に大きく"な"の字が綴られる。

「よくできました。」

添えた手をそっと離して小さな頭を撫でる。

" はな(花) "と自身が書いた文字を見つめる幼子の瞳は喜色一色である。

「ありがとうございます。おうひさま。」

ブルネットの髪に深い碧の瞳。
落ち着いた色を纏うこの女性を、幼子が畏れることはない。

少しすると、年長らしい年頃の少女が

「オフィーリア様」と声を掛けてくる。

恥じらう姿が初々しく愛らしい。

「そちらの本を選んだのね。」
「はい。」

オフィーリアは少女の横に座り、見本を綴る。

その手元を瞬きもせず少女が見つめている。

オフィーリアの「手習い」の時間は続く。