王妃の手習い

桃井すもも

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傾聴の一族

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「傾聴の一族」

オールブランス一族は、そう呼ばれている。

大層な事ではなく、文字通り、人の語りによく耳を傾けることを旨とする、唯それだけの話しなのだが。

一族領民、皆、当然の事と捉えているが、彼等は、代々続く傾聴の積み重ねから、状況を適切に把握し、必要に応じて最適解を導き出す能力に抜きん出ていた。 

そして、その副産物なのか、耳が利く。
オフィーリアの耳が優れているのは、一族の特性でもあった。

交易による諸国との繋がりに、地の利に恵まれた領地。内包する力が多大であればあるほど、立ち位置には影響力が生まれる。

政権に於いて中立を貫くオールブランス一族は、海洋の民らしくいつの時代に於いても政局を見誤る事が無かった。船の舵を取るが如く、政(まつりごと)の舵を取る。
彼等が右に寄れば政勢は右に傾き、左に寄れば左に倣う。

侮ってはならない一族であった。

そこに女児が産まれた。

王家に取り込めれば、そこからは考えるまでもない。

一族が固い結束で護る総領娘であるから、王家とはいえ無理を通す事は出来ずとも、常に関心を寄せられる存在がオフィーリアであった。

嫡子セシルが産まれた事は、王家にとっても僥倖と言えた。


そんな、父王が関心を寄せる娘を、アンドリューもまた関心を寄せるのは自然な事であろう。

どんな娘であるのだろう。

幼い頃より心を惹きつけられていた。

娘の噂を聞けば耳をそばだて、父侯爵が登城すると聞けば、その姿を確かめた。
ブルネットの髪に深碧の瞳が父親と同じだと聞いていたから。

海を渡る彼女。
領地を廻る彼女。

どんな娘なのだろう。
いつか、会える日が来るのだろうか。

潮風を受ける髪は、きっと美しいのだろう。
そして、瞳は深い海の色なのだろう。




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