王妃の手習い

桃井すもも

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憂い

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アンドリューとの婚約は継続されている。

婚約に纏わる母国からの知らせが、父にもオフィーリアにも無いと言うことは、そう云うことなのだろう。

アンドリューが帝国へ「視察」の名目で訪れたとき、オフィーリアはその疑問について尋ねる事はなかった。

アンドリューを信頼するならば、何れ答えは見えるだろう。

なのに、離れてしまうと要らぬ想いに囚われる。

文を書く約束をした。
一度だけ、帰国したアンドリューが母国に着いた頃合に文を出した。無事の到着を知りたかった。

だから、返事の文が届いたときには安堵をした。

それが、愛おしさともどかしさの両方を携えてやって来るとは思わなかった。

力強い筆致。為政者の文字。

アンドリューは何れ国の頂に立つ。

手の届かない距離を感じるのは、離れている時間が長くなったからかもしれない。


絵本に文字を綴るときには、憂いを忘れていることにオフィーリアは気が付いた。

純真無垢な子供の触れるものには、それだけで癒やしの力があるのかもしれない。

そうしてオフィーリアは、自分が思った以上に夢見がちなのではと疑問を持った。

物心が付く頃より当主教育を受けて、他家の令嬢と比べれば大よそ子供らしくない幼少期を過ごして来た。

婚約者候補になってからは尚更である。

緊張を強いられる生活は、就寝中の夢さえ空覚えにさせた。

夢見る頃は過ぎている。
なのに、絵本に文字を綴る時間は無心になり、手に取るだろう幼子を想えば穏やかな慈しみの感情が湧く。

それは、沁み入る様な微かな感覚で、オフィーリアはそんな感覚が心地良かった。

そうして、言い訳なのかもしれないけれど、アンドリューへの文を上手く書けないでいた。

上手く書こうと思う事自体が、可怪しいのだと思い至らずにいた。






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