王妃の手習い

桃井すもも

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晩餐の夜2

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晩餐の後、オフィーリアはアンドリューに招かれた。

彼が宿泊している貴賓室である。

婚約者とはいえ夜の会合などと戸惑ったが、アンドリューの部屋は中も外も護衛に護られている。

当然、侍従も侍女も侍っている。


アンドリューは明後日帰路に着く。

思えば、アンドリューの事を自分はそれ程知らない。オフィーリアは改めてそう思う。

婚約者候補であった時も、婚約者に決まってからも、母国ではアンドリューと深く関わる事は無かった。

週に一度の会合は、アンドリューの居眠りタイムであったし。

久しぶりに帝国で会ったアンドリューは、心なしか生き生きとして見えた。人らしくあった。

だから、揺さぶられてしまったのだろうか。

この婚約は仮初だ。

アンドリューが帰国すれば、何某かの状況変化があるのだろうか。


侍女がお茶を用意してくれている間、オフィーリアは暫し思考の中にいた。

だから気付かなかった。アンドリューが自分を見つめているのを。


「オフィーリア」

ああ、何故だろう。名を呼ばれただけなのに涙が出そうになる。

もう一度「オフィーリア」と呼ばれて初めて、自分が俯いていたのだと気付いた。

蒼い瞳に自分が映っている。

眉が下がっているわ、しっかりなさい。

アンドリューの瞳の中の自分を叱咤する。 

侍女がお茶を置く。

柔らかな香りに心が解されて、ああ私は気が張っていたのだわ、と気が付いた。

「下がってくれるかな?」

アンドリューが云う。

人払い?とオフィーリアが思う間もなく、

「なりません。」と、侍従が応えた。


「チッ」

え!えっ!!
この方、今、舌打ちなさった?

驚くオフィーリアの瞳には、眉を顰めるアンドリューが映っていた。
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