王妃の手習い

桃井すもも

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少女の覚悟

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予定調和の婚約者候補に上がった時、オフィーリアは覚悟を決めた。

出過ぎてはならない。
この物語には主がいる。
私はそれを彩るパーツの一つなのだと。

総領娘として大切にされて来た。

一族皆が自分を愛し慈しんでくれた。

我が儘な振る舞いには殊更厳しい両親も、溢れる愛情を注いでくれていると幼い頃より分かっていた。

喩えセシル(嫡子)が産まれようとも。

喩え後継から外れようとも。

未熟な令嬢は早熟でもあった。

幼いときより己の立場を理解して、父に連れられるまま、大人に交り一族の長を目指して学んで来た。

海を渡って肌も瞳も髪の色も異なる人々と対話をする。

自領に根付く産業と民の幸福を願う。

セシルの産まれたその日に、それら全てが覆されて、これからの人生を再構築せねばならない強迫観念に囚われた。立ち位置不明の揺らぐ心に振り回されていた折に、婚約者候補の命が降りた。


********


美しい王子と美しい公爵令嬢。

烟る金髪に澄んだ蒼い瞳。
 
生まれる前から約束していた様に、揃いの姿を互いに纏った高貴な二人にオフィーリアは目を奪われた。

と、同時に、己の役割を果たそうと心に誓った。

故郷での役割は果たせなくなったが、新たな役割が与えられたのだから。

何処で道筋が変わってしまったのか、気が付くと、候補に立っているのは自分だけであった。


囚われている心にそっと蓋をして、心の声に耳を塞ぐ。

今はまだ、与えられているお役目を果たすのだ。
役目が終わるその日まで。

心が通わずとも、愛される事など無いのだとしても。


未熟で早熟な、柔らかな心を持て余した少女の覚悟であった。
 
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