王妃の手習い

桃井すもも

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虫けらオフィーリア

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視察と称しているのに、何故にアンドリューはこれ程までに詳しいのか。

当然であった。
アンドリューは過去、帝国学園へ短期ではあるが留学している。

当時のオフィーリアは婚約者候補であった為、会合は月に一度、妃教育は自邸で受けていたので、アンドリューの不在をそれ程には感じていなかった。


これはあれはと、オフィーリアにあれこれ説明して歩くアンドリュー。

傍から見るそれはまるで、オフィーリアの為の視察であった。



********


諸々の手続きがあるらしいアンドリューが、少し待っていてねと学園長達と貴賓室に向かうのを見送っていると、お疲れ様とばかりにヘンドリックとアリスティアに声を掛けられた。

先程は無視をしたわね!
恨みがましいオフィーリアの視線をするりと無視して(2度目)、ヘンドリックが「テラスに行こう」と誘ってくれた。


「あ~、君って鈍いのかな?」

ヘンドリックの大変失礼な暴言に

「ヘンドリック、それは言ってはいけないわ。」

アリスティアがフォローと見せかけた援護射撃を発した。苦笑いと共に。


「君、愛されているじゃないか。」

ぶほっとお茶を吹いたオフィーリアに残念な眼差しを向けるヘンドリックとアリスティア。


「あれ程の愛を向けられて、それに気が付かないなんて。君の情緒は虫けらなのかな?」

次々と投げられる爆弾に被弾して、オフィーリアははくはくと虫の息となった。虫けらだけに。


ヘンドリックとアリスティアの二人に、オフィーリアは帝国への留学と編入までの経緯を話していた。

王侯貴族にとっては当然の政略による婚姻には、とかく面倒で複雑な思惑が絡む。

それに絡め取られるのは、いつだって親の庇護下の無力な令嬢達だ。


アンドリューがどんな人物かはよく解らずとも、人生を変えるつもりで帝国への逃亡を図ったオフィーリアを、二人は密かに応援していた。

オフィーリアがこのまま帝国に残るのなら、力添えをしたいと思う程には。


なのに、突然現れた王子様は、絵に描いたような正しく「王子様」であった。

オフィーリアを見るあの蒼い瞳が真っ赤な熱を孕んで、そのうち紫色になるんじゃなかろうかと、ヘンドリックはその熱量に恐れを感じた。

あれを愛と言わず何と云う。

虫けらオフィーリアに呆れ果てた二人であったが、だが、と思いかえす。

何も伝えられない状況に、アンドリューは苦しんでいたのではなかろうかと。
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