王妃の手習い

桃井すもも

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既視感

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左側に侯爵、右側に夫人。

両側をウォルポール侯爵夫妻に挟まれて、三人掛けのソファーに座るオフィーリア。

おかしい。

座の配分がおかしい。三人対一人。


ああ、何か考えなくちゃ、と思うのに
人間、都合の良いように頭は回らないらしい。

目の前に人が座っているのに、視線が合わない。

あ、合わないんじゃない、私が合わせられないのだわ。

ゆっくり思考が戻り始めたオフィーリアは考える。


「オフィーリア」

「...はい」

名を呼ばれて取り敢えずお返事を。


「君は、」

唐突に話し出した男に思わず顔を向けた。
向けてしまった。

烟る様に耀く金髪に澄んだ蒼い瞳。
良く見知った美しい男性(ひと)。


「君は耳が良いそうだね。」

「....」


「それから、」

「.....」


「大層筆が立つそうじゃないか。」


アンドリュー王太子殿下。何故ここに、


「弟君に贈った絵本、大変な評判だね。」

どうして貴方がここに、


「流麗な飾り文字が美しいと、幼子のみならず、ご令嬢方にもお手本にされてるらしいよ。」

オフィーリアは、自分の身体なのに自分を動かす事が出来ないでいた。

何なら、生まれた時から動かせていないような気がして来た。


「私はね、オフィーリア。」

「.....」


「大よそこの一年、君の文字を見ていないのだよ。」

ええ、書いておりませんもの。


「幼子の間で回覧されている絵本をね、」

「....」



「子持ちの部下に頼んで又貸ししてもらっているんだよ。」

「!」



「それから、」

と、殿下は一旦言葉を切る。


「ああ、ウォルポール侯爵ご夫妻。詰まらない話しに付き合わせてしまって申し訳ないね。僕らの事は気にせず退席されて良いよ。」

僕?!
一人称が変わったのは何故?!


オフィーリアの置いて行かないでビームを巧みに避けて夫妻が席を外す。

向かい合う二人。
控える侍従に侍女と護衛。

懐かしい既視感にオフィーリアは暫し浸った。
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