王妃の手習い

桃井すもも

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好事の後は

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帝国学園での高等教育に没頭し、息抜きに街歩きをする。

数こそ多くはないけれど得難い友にも恵まれて、出会う人々の温かな思いやりに触れる。

幸せとはこういう日々の事を云うのだろう。

幸せで、幸せ過ぎて大事な事を忘れていたらしい。
いいえ、決して忘れていた訳ではないけれど、考えない様にはしていた。

そんなだから、こんな事が起こるのだわ。



********



学園では3学年に上がり最終学年を迎えた。 
あと一年で学園を卒業する。

年度変わりの休み期間も、当然母国へは帰らなかった。

父や母、そして嬉しい事に、セシルから文が届く。

覚えたての歪な文字で「姉上お元気ですか」と綴られた文字に頬が緩んだ。


母国を出てそろそろ一年が経つ。
あれから国の事を何一つ知れていない。

検閲を予想して、家族と送り合う文には不必要な事柄は書かない。

新聞は読んでいる。

小国とはいえ、王太子の祝い事があるならば、小さくとも紙面を飾る筈である。

大使であるウォルポール侯爵は、何も触れない。不可侵な事項であるのだろうか。

勿論、自身が関わる婚約についても、この数ヶ月何一つ知ることはなかった。


オフィーリアは考える。
もう終わった事なのだろうか。

他国へ移った人間に、態々伝える事など無いのかもしれない。

母国は遠い。
実際の距離以上に遠く感じる。



********



新年度に備えて、寮に戻ったオフィーリアにウォルポール侯爵邸から知らせが届いた。

明日、邸へ帰って来てほしい。
迎えを送るので、必ず。

時間を指定する短い文に、いつもに無い硬さが感じられて、何があったのだろうと些か不安な気持ちが起こる。

自身で着られる簡素ながら仕立ての良いワンピースは、ウォルポール侯爵夫人から贈って頂いたものだ。

春の日差しに良く合う。

時間ぴったりに来た迎えの車に乗り侯爵邸へ向かう。

「オフィーリア」
出迎えてくれた夫人に挨拶をすると邸内へいざなわれる。

異質な空気を感じるも、もうすぐ解る事と思い直して夫人の後に続く。

扉の前で夫人がノックをして、中から侯爵の「入って」と云う声が掛かる。

いつもより低めの声色に身構えて、
ゆっくりと入室すると


「やあ、オフィーリア。久しぶりだね。」


有り得ない人に迎えられた。


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