王妃の手習い

桃井すもも

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引き際

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王太子の枕として太腿を貸すこと数ヶ月。

その日は唐突に訪れた。


週に一度の会合に、アンドリューはいつも少し遅れて訪れる。

相変わらず会話らしい会話は無く、隣に来たかと思うとよっこらしょと徐ろに膝に寝転ぶ。

オフィーリアの膝枕で熟睡するアンドリュー。

時が来れば、オフィーリアはそっとアンドリューの肩を揺らして「殿下、お時間です」と起こして差し上げる。



だが、その日アンドリューは訪れなかった。

若干顔色を曇らせた侍従に、本日の会合のキャンセルを告げられる。

遅れる事はあれど、流れる事は一度もなかった。

急を要する事態というが、オフィーリアの妃教育の間に知らせてもらえる間もなかったのか。

放置されていた事実に行き着いた思考を宥めながら帰路に着く。

広く長く静かな回廊は王宮の奥にある。

限りなく王族に近い者のみが通る路である。

そこで漏れ聴こえた話し声。

「王女が留学される」

王城を慌てさせる王女絡みの事態など、一つしかないではないか。

婚約が解消される。

私は不要とされる。

お役目は終わるのだ。

父は、今、タウンハウスに滞在している。

引き際を誤るなかれ。
オフィーリアは、己に発破を掛ける。


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