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王太子
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一瞬の出来事に、オフィーリアは思考が止まる。
ひと息あとに漸く状況が飲み込めて、いや、飲み込めず、思わず侍従を見やる。
彼も同じ状況らしく、暫く見つめ合う形になった。
お互い一言も言葉が出ず、ならばとオフィーリアは控える侍女を見やる。
こちらも同じであった。
護衛に、もう一人の護衛に、茶の用意をしていた別の侍女に、
同様に視線を巡らすも、皆結果は同じ、只々見つめ合うばかりであった。
誰かが唾を飲み込む音がして、あっ、動かねばと思うと同時に、いやいや動いてはいけないと身動ぎせずに固まる。
そうして魔の半刻をやり過ごし漸く
「殿下、お時間でございます。」と、囁いた。
起きない。
どうすれば良いのかしら。
美しい寝顔に見とれそうになる己を心の内で叱責しながら、意を決して肩に手を添える。
そうして、そっと肩を揺すって再び「殿下」と声を掛けると同時に
手を掴まれた。
「ひっ」と、声にならない悲鳴を上げるオフィーリアの手を掴んだアンドリューは、
その指先に小さな口付けをして
「ああ、有難う。ゆっくりしたよ。」と起き上がった。
海を知るオフィーリアは蛸を知っている。
あれは茹でると赤くなる。
そう、正に今の自分の様に。
何処もかしこも赤く染まったオフィーリアを他所にアンドリューは、君も読書なり刺繍なり好きに過ごすと良いよ、などと戯けた事をほざいて颯爽と去って行った。
ひと息あとに漸く状況が飲み込めて、いや、飲み込めず、思わず侍従を見やる。
彼も同じ状況らしく、暫く見つめ合う形になった。
お互い一言も言葉が出ず、ならばとオフィーリアは控える侍女を見やる。
こちらも同じであった。
護衛に、もう一人の護衛に、茶の用意をしていた別の侍女に、
同様に視線を巡らすも、皆結果は同じ、只々見つめ合うばかりであった。
誰かが唾を飲み込む音がして、あっ、動かねばと思うと同時に、いやいや動いてはいけないと身動ぎせずに固まる。
そうして魔の半刻をやり過ごし漸く
「殿下、お時間でございます。」と、囁いた。
起きない。
どうすれば良いのかしら。
美しい寝顔に見とれそうになる己を心の内で叱責しながら、意を決して肩に手を添える。
そうして、そっと肩を揺すって再び「殿下」と声を掛けると同時に
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そう、正に今の自分の様に。
何処もかしこも赤く染まったオフィーリアを他所にアンドリューは、君も読書なり刺繍なり好きに過ごすと良いよ、などと戯けた事をほざいて颯爽と去って行った。
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