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王太子の婚約者1
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「王女が留学される」
王宮の長い回廊を歩くオフィーリアは、先程聴いた会話を思い起こす。
本日は、週に一度の王太子との茶会であった。
それが急遽流れた。
待ち合わせの時刻になっても現れない王太子に代り王太子付侍従よりもたらされたのは、止むを得ない急を要する事態により此度の会合は中止との知らせであった。
王太子からの謝罪の言葉は添えられていない。
帰路の途中、回廊の角を曲がる直前、風に乗って聴こえた会話は文官のものであろう。
そっと柱の影に身を滑らす。
足早に通り過ぎる文官達の様子から慌ただしさが覗われた。
もう、頃合いであろう。
父がタウンハウスに滞在していたのは僥倖であった。
茶番は終いである。
「留学される王女」とは、隣国を跨いだ南に位置する同盟国の末姫であろう。
兄王子の立太子を祝う祝賀の会に招かれた王太子に頬を染めていた、可憐な王女。
婚約者として共に招かれていたオフィーリアは、彼女の目には映らなかったらしい。
あれから僅かひと月。
年度も途中の急な留学とは、何をか言わんやである。
王女の世話役は王太子が担う。
王族の留学など珍しい事ではないのだが、宮内で感じた慌ただしい空気が全てを語っている。
引き際なのだ。
機を見失ってはならない。
********
邸に戻りその足で向かった父の執務室。
本日の王太子との茶会が流れた経緯を報告した。王女の留学についても。
父は暫しオフィーリアの言葉に耳を傾けて、
「どうしたい?」と問う。
「もうよろしいでしょう。忠義は尽くしましたもの。あちらがいらっしゃるのであれば、私は帝国へ。」
父は分ったと首肯してくれた。
王宮の長い回廊を歩くオフィーリアは、先程聴いた会話を思い起こす。
本日は、週に一度の王太子との茶会であった。
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そっと柱の影に身を滑らす。
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父は分ったと首肯してくれた。
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