もしも貴方が

桃井すもも

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告白

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先視を視て、僕はこの人生を正そうと思った。

何もかも間違えてしまった。
僕も父も母も。
もう遅いかもしれない。
でも君は生きている。
まだ間に合うかもしれない。

クレア、君は信じてくれないだろう。
けれども、僕はこれでも君を守っているつもりだったんだよ。

マリアンネの狂気から、僕を贄にしてでも君を守っている、本気でそう思っていたんだ。

全部全部間違えてしまった。
初めから間違えていたんだ。

もし正すなら、正直にマリアンネの生家に伝えるべきだったんだ。
泥舟に乗ることは、互いの為にならないと、お互い耐えられないのだと。
話せば通じたはずだ。共に貴族なのだから、家の存続を優先しただろう。

マリアンネの父親は分からず屋ではない。娘の幸せを願う普通の父親だ。
僕の両親が僕を案ずるように、マリアンネの父親も娘の苦労は望まない。特に経済面では。

何が間違えていたんだろう。
マリアンネにこの関係を終えることを切り出したことか。

慎重に話しをしたんだ。
このままではお互い幸せにはなれないと。
マリアンネは、僕と共にいることが彼女の幸せなのだと譲らなかった。
恐ろしかったよ。
人に愛されてこれ程恐ろしいと感じるとは思わなかった。

だから分かったんだよ。
クレア、君を愛する僕の心を、君は恐れるかい?
信じてはもらえないだろうけど、

「君を愛していたんだよ、クレア。」



帰りの馬車で向かい合って座るユダ様は、何やら思案に耽っているご様子で、ずっと窓の外の風景を眺めていらっしゃいました。

暫くそのまま一言も言葉を交わすこと無く、何か考え込んでおられる様でした。

トーマス様の邸を後にして、ユダ様に我が邸まで送って頂く途中でした。
我が家の門扉が見えて、玄関ポーチに馬車が静かに止まります。

御者が扉を開けて、先にユダ様が降りました。

手を差し伸べられて、私も馬車を降ります。

お疲れでしょうからと、ここでこのままお別れしようと
「ユダ様。今日はお付き合い頂きまして有難うございます。」
そう申しましたところ、

「クレア、ちょっとお邪魔していいかな。お父上と話しをさせてもらえないか。」
いつも少年の様な笑みを湛えた面影が消えて、酷く真剣なユダ様の表情に、私は頷くのが精一杯でした。

私の後ろで一部始終を見ていた母が、ユダ様をお待たせすることなく、父の執務室に自らご案内して行きました。

まるで初めから父がユダ様の訪れを知っており、待っていたように思えました。

暫く二人の後ろ姿を見つめて棒立ちになっておりましたが、はっと我に返り、父とユダ様のお話しが終わるのを待つことにしました。
それはとりも直さず、たった今聞いてきたトーマス様の告白を噛み締めて理解する為の時間でもありました。


どの位時間が経ったのでしょう。
お話し合いには母も同席しておりました。

会合を終えた三人が戻ってきて、わたしは三人をお迎えしました。

ユダ様が両親に急な訪いへのお詫びの言葉を仰って、何やら少し会話を続けられます。

いよいよお帰りになるユダ様がこちらを振り向き、そのまま私の前までいらっしゃいました。

そうして
「クレア、君に婚約を申し込んだ。後日改めて両親と訪問するよ。」
そう仰ったそばから
「では、また明日学園で。」
と、お帰りになったのです。

ぽかんとした私を置いて。







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