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不実side T
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クレアが入学してからも、婚約者だからと言って、学園で二人で会うことは出来なかった。
お昼休みも、中には婚約者同士一緒に過ごす者も多いのに、僕達はそのようなことが出来なかった。
傍から見れば、他人同然。こちらから婚約者だと言わなければ、誰にも分からなかった事だろう。
それまでも学園が忙しいから、と親交を重ねられずにいた。
婚約者に会うために、月に一ニ度程度も邸を訪えずにいた。
唯一度の交わりが、僕を縛った。
僕だけではない。
マリアンネは、父と母をも縛った。
低位貴族の令嬢の何を恐れるのだと言われるだろうが、婚約者を得ながら他家の令嬢を汚した事実は重かった。
官吏である父にとっても、こう云う類の醜聞は最も避けなければならない事であったろう。
困窮する子爵家の娘と侮った父は愚かであったと思う。そんな娘に騙された僕同様に。
結果、僕の側にはいつもマリアンネが侍るように付いていた。
当然、クレアの邸を訪問するなど出来なかった。何処で聞きつけるのか、その度にマリアンネが押しかけ騒ぐのだ。父にも祖父にも、関わり合いのある貴族家に言ってやる、貴方に汚されたのだと。
マリアンネは僕達の過ちを子爵家には明かしていないらしかった。
それが脅しに更に力を持たせたのだと思う。
クレアが学園に入学してからもそうだった。
僕の隣は常にマリアンネで、朝も昼も放課後も、マリアンネは僕を離さない。
「クレア様が何を言っても私から離れては駄目よ。」
そんな事を耳元で囁く。
婚約以来、御座なりな交流しか持てずにいたが、流石に卒業の夜会にはクレアと共に出席したかった。
けれどもそれさえマリアンネは許さなかった。そして我が邸で猛烈に騒いだ。
クレアの家から同伴を確認する文が届いた時にも、断りを入れなければならない程に。
どうなっているのかと伺いを立てた来たクレアの父に、両親は何と言い訳をしたのか。
結局僕はマリアンネを伴って夜会に出た。
卒業生達の目がある中、二人で会場に入り、共にダンスを踊り友人たちと互いの門出を祝い合って、それから賑わう会場を後にした。二度ある事は三度ある。
一度の過ちには二度目があった。
卒業式の翌日、クレアの子爵家から婚約の解消の願いを受けた。
絶望した。
もう過ちはマリアンネだけの責任では無いところまで深く滲むように広がっていた。
僕も父も母も、マリアンネの縒った蜘蛛の糸に体中絡め取られて身動出来なかった。
卒業の夜会には、卒業生の親も参加していた。僕とマリアンネは、彼等の目の前で婚約者気取りで過ごした二人として、社交界においてもそう見なされて可怪しく無いだろう。
こんな巫山戯た事を、クレアの両親も不満に思うのは当然であった筈だ。
本来であれば、僕らの不貞を掲げ破棄出来ようところを、爵位の低い家からの申し出であるから穏便に解消という体(てい)を取ったものであった。
伯爵家は官吏の家系だ。
代々王城に勤め仕えて来た。
官吏らしく質素倹約に努めて、父も母も実直な人柄で知られていた。
その評判をかなぐり捨てて、厚顔と思われようとも、クレアの卒業と同時に婚姻すると譲らなかったのは、伯爵家の将来を鑑みての事であったろう。
けれども僕には分かる。
父も母も、過ちを犯しながらも僕がクレアを慕っているのを、彼女と共に生きたいと願っているのを知っていたのだろう。
単(ひとえ)に僕の為に頭を下げて、この婚約を守ってくれたのだ。
クレアの卒業と同時に僕と婚姻させると、解消を願う子爵家に対して決して譲らなかった。
お昼休みも、中には婚約者同士一緒に過ごす者も多いのに、僕達はそのようなことが出来なかった。
傍から見れば、他人同然。こちらから婚約者だと言わなければ、誰にも分からなかった事だろう。
それまでも学園が忙しいから、と親交を重ねられずにいた。
婚約者に会うために、月に一ニ度程度も邸を訪えずにいた。
唯一度の交わりが、僕を縛った。
僕だけではない。
マリアンネは、父と母をも縛った。
低位貴族の令嬢の何を恐れるのだと言われるだろうが、婚約者を得ながら他家の令嬢を汚した事実は重かった。
官吏である父にとっても、こう云う類の醜聞は最も避けなければならない事であったろう。
困窮する子爵家の娘と侮った父は愚かであったと思う。そんな娘に騙された僕同様に。
結果、僕の側にはいつもマリアンネが侍るように付いていた。
当然、クレアの邸を訪問するなど出来なかった。何処で聞きつけるのか、その度にマリアンネが押しかけ騒ぐのだ。父にも祖父にも、関わり合いのある貴族家に言ってやる、貴方に汚されたのだと。
マリアンネは僕達の過ちを子爵家には明かしていないらしかった。
それが脅しに更に力を持たせたのだと思う。
クレアが学園に入学してからもそうだった。
僕の隣は常にマリアンネで、朝も昼も放課後も、マリアンネは僕を離さない。
「クレア様が何を言っても私から離れては駄目よ。」
そんな事を耳元で囁く。
婚約以来、御座なりな交流しか持てずにいたが、流石に卒業の夜会にはクレアと共に出席したかった。
けれどもそれさえマリアンネは許さなかった。そして我が邸で猛烈に騒いだ。
クレアの家から同伴を確認する文が届いた時にも、断りを入れなければならない程に。
どうなっているのかと伺いを立てた来たクレアの父に、両親は何と言い訳をしたのか。
結局僕はマリアンネを伴って夜会に出た。
卒業生達の目がある中、二人で会場に入り、共にダンスを踊り友人たちと互いの門出を祝い合って、それから賑わう会場を後にした。二度ある事は三度ある。
一度の過ちには二度目があった。
卒業式の翌日、クレアの子爵家から婚約の解消の願いを受けた。
絶望した。
もう過ちはマリアンネだけの責任では無いところまで深く滲むように広がっていた。
僕も父も母も、マリアンネの縒った蜘蛛の糸に体中絡め取られて身動出来なかった。
卒業の夜会には、卒業生の親も参加していた。僕とマリアンネは、彼等の目の前で婚約者気取りで過ごした二人として、社交界においてもそう見なされて可怪しく無いだろう。
こんな巫山戯た事を、クレアの両親も不満に思うのは当然であった筈だ。
本来であれば、僕らの不貞を掲げ破棄出来ようところを、爵位の低い家からの申し出であるから穏便に解消という体(てい)を取ったものであった。
伯爵家は官吏の家系だ。
代々王城に勤め仕えて来た。
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その評判をかなぐり捨てて、厚顔と思われようとも、クレアの卒業と同時に婚姻すると譲らなかったのは、伯爵家の将来を鑑みての事であったろう。
けれども僕には分かる。
父も母も、過ちを犯しながらも僕がクレアを慕っているのを、彼女と共に生きたいと願っているのを知っていたのだろう。
単(ひとえ)に僕の為に頭を下げて、この婚約を守ってくれたのだ。
クレアの卒業と同時に僕と婚姻させると、解消を願う子爵家に対して決して譲らなかった。
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