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先視
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そこまでが、私が視た先視でした。
この占いは、占い師が視たものを伝えるのではなくて、占い師と共に大きな水晶珠を覗き見るのです。
そうすると不思議な事に、水晶珠に風景が現れたかと思うと、それがじきに自分の頭の中にまざまざと写し出されるのです。
まるで映写機で映された活動写真を観ているような気持ちでした。
ただそれが人気の活動写真などではなく、自分が歩むこれからの未来だというのです。
全てを見終わって、水晶珠から近づけていた顔を上げると、占い師と目が合いました。
笑っているのか怒っているのか、表情がさっぱり分からない占い師はやはり、若いのか老いているのか、寧ろ、男なのか女なのかさえ分からない不思議な人でした。長くうねる栗色の髪から、多分女性なのだろうと思ったのです。
こんな「どれでもない」と云うような人なのに、ひとつも怖いと思う所がありませんでした。
ただ、この先の人生を上手く生きるのだと、胸の中に直接語り掛けられたような、温かな気持ちになったのです。
トーマス様に何が視えたのかは分かりません。
この先視は、喩え同時に視たとしても、人それぞれ視えるものが違うのだそうです。嘘か誠かは分かりません。何せ、先のことなのですから。
トーマス様が未だ水晶珠に見入っているのを横に感じて、私は暫し考えました。
不実に不実を重ねられた挙げ句、晴れやかな婚礼の日に、私は命を奪われたのです。
不誠実な婚約者による不貞の犠牲になっていたのを、まるで愛を割(かつ)悪人の如く、刃を向けられたのです。
不誠実な婚約者から、神に嘘の誓いを立てた不敬な夫になったばかりのトーマス様は、倒れた新妻を庇うどころかその死に際に、愛する恋人の名を呼んだのです。
とんだ茶番ですわね。
今日はお天気が良かったのです。
久しぶりのお誘いに、朝から心が弾んだのです。
二人で過ごす時間を、昨晩からあれこれ考えて、どんなお話しをしようかと、口の重い貴方のお気に召して貰えるように、寝ずに話題を考えたのです。
くすぶる恋心が、嬉しいと喜ぶのを抑えられない夜を過ごしたのです。
私はどうしたら良いのでしょう。
どうしたら良いか分からぬ時こそ、一歩離れて考えます。
それは父がいつも教えてくれる事でしたから。
一歩引いて他者の目から見つめれば、道筋が見えてくる事があるのだそうです。
私は、自分が鳥になった気持ちで、高いところから自分の視た未来の記憶を見返しました。
そうしてやはり、とんだ茶番だと思ったのです。
ですから、漸く先視を終えてぼおっとしているらしいトーマス様にお声を掛けて、外に出る事にしたのです。
扉を閉めるほんの少しの隙間から見えた占い師に、私は僅かに頷いたのですが、彼女(多分)に見えたでしょうか。
この占いは、占い師が視たものを伝えるのではなくて、占い師と共に大きな水晶珠を覗き見るのです。
そうすると不思議な事に、水晶珠に風景が現れたかと思うと、それがじきに自分の頭の中にまざまざと写し出されるのです。
まるで映写機で映された活動写真を観ているような気持ちでした。
ただそれが人気の活動写真などではなく、自分が歩むこれからの未来だというのです。
全てを見終わって、水晶珠から近づけていた顔を上げると、占い師と目が合いました。
笑っているのか怒っているのか、表情がさっぱり分からない占い師はやはり、若いのか老いているのか、寧ろ、男なのか女なのかさえ分からない不思議な人でした。長くうねる栗色の髪から、多分女性なのだろうと思ったのです。
こんな「どれでもない」と云うような人なのに、ひとつも怖いと思う所がありませんでした。
ただ、この先の人生を上手く生きるのだと、胸の中に直接語り掛けられたような、温かな気持ちになったのです。
トーマス様に何が視えたのかは分かりません。
この先視は、喩え同時に視たとしても、人それぞれ視えるものが違うのだそうです。嘘か誠かは分かりません。何せ、先のことなのですから。
トーマス様が未だ水晶珠に見入っているのを横に感じて、私は暫し考えました。
不実に不実を重ねられた挙げ句、晴れやかな婚礼の日に、私は命を奪われたのです。
不誠実な婚約者による不貞の犠牲になっていたのを、まるで愛を割(かつ)悪人の如く、刃を向けられたのです。
不誠実な婚約者から、神に嘘の誓いを立てた不敬な夫になったばかりのトーマス様は、倒れた新妻を庇うどころかその死に際に、愛する恋人の名を呼んだのです。
とんだ茶番ですわね。
今日はお天気が良かったのです。
久しぶりのお誘いに、朝から心が弾んだのです。
二人で過ごす時間を、昨晩からあれこれ考えて、どんなお話しをしようかと、口の重い貴方のお気に召して貰えるように、寝ずに話題を考えたのです。
くすぶる恋心が、嬉しいと喜ぶのを抑えられない夜を過ごしたのです。
私はどうしたら良いのでしょう。
どうしたら良いか分からぬ時こそ、一歩離れて考えます。
それは父がいつも教えてくれる事でしたから。
一歩引いて他者の目から見つめれば、道筋が見えてくる事があるのだそうです。
私は、自分が鳥になった気持ちで、高いところから自分の視た未来の記憶を見返しました。
そうしてやはり、とんだ茶番だと思ったのです。
ですから、漸く先視を終えてぼおっとしているらしいトーマス様にお声を掛けて、外に出る事にしたのです。
扉を閉めるほんの少しの隙間から見えた占い師に、私は僅かに頷いたのですが、彼女(多分)に見えたでしょうか。
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