もしも貴方が

桃井すもも

文字の大きさ
上 下
6 / 33

先視

しおりを挟む
そこまでが、私が視た先視でした。

この占いは、占い師が視たものを伝えるのではなくて、占い師と共に大きな水晶珠を覗き見るのです。

そうすると不思議な事に、水晶珠に風景が現れたかと思うと、それがじきに自分の頭の中にまざまざと写し出されるのです。
まるで映写機で映された活動写真を観ているような気持ちでした。

ただそれが人気の活動写真などではなく、自分が歩むこれからの未来だというのです。

全てを見終わって、水晶珠から近づけていた顔を上げると、占い師と目が合いました。

笑っているのか怒っているのか、表情がさっぱり分からない占い師はやはり、若いのか老いているのか、寧ろ、男なのか女なのかさえ分からない不思議な人でした。長くうねる栗色の髪から、多分女性なのだろうと思ったのです。

こんな「どれでもない」と云うような人なのに、ひとつも怖いと思う所がありませんでした。
ただ、この先の人生を上手く生きるのだと、胸の中に直接語り掛けられたような、温かな気持ちになったのです。

トーマス様に何が視えたのかは分かりません。

この先視は、喩え同時に視たとしても、人それぞれ視えるものが違うのだそうです。嘘か誠かは分かりません。何せ、先のことなのですから。

トーマス様が未だ水晶珠に見入っているのを横に感じて、私は暫し考えました。

不実に不実を重ねられた挙げ句、晴れやかな婚礼の日に、私は命を奪われたのです。
不誠実な婚約者による不貞の犠牲になっていたのを、まるで愛を割(かつ)悪人の如く、刃を向けられたのです。

不誠実な婚約者から、神に嘘の誓いを立てた不敬な夫になったばかりのトーマス様は、倒れた新妻を庇うどころかその死に際に、愛する恋人の名を呼んだのです。

とんだ茶番ですわね。

今日はお天気が良かったのです。
久しぶりのお誘いに、朝から心が弾んだのです。

二人で過ごす時間を、昨晩からあれこれ考えて、どんなお話しをしようかと、口の重い貴方のお気に召して貰えるように、寝ずに話題を考えたのです。 

くすぶる恋心が、嬉しいと喜ぶのを抑えられない夜を過ごしたのです。

私はどうしたら良いのでしょう。
どうしたら良いか分からぬ時こそ、一歩離れて考えます。

それは父がいつも教えてくれる事でしたから。
一歩引いて他者の目から見つめれば、道筋が見えてくる事があるのだそうです。

私は、自分が鳥になった気持ちで、高いところから自分の視た未来の記憶を見返しました。

そうしてやはり、とんだ茶番だと思ったのです。

ですから、漸く先視を終えてぼおっとしているらしいトーマス様にお声を掛けて、外に出る事にしたのです。

扉を閉めるほんの少しの隙間から見えた占い師に、私は僅かに頷いたのですが、彼女(多分)に見えたでしょうか。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

結婚なんてしなければよかった。

haruno
恋愛
夫が選んだのは私ではない女性。 蔑ろにされたことを抗議するも、夫から返ってきたのは冷たい言葉。 結婚なんてしなければよかった。

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

処理中です...