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婚約者
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トーマス様は、私の婚約者です。
三年前に婚約致しました。
トーマス様が15歳、私が14歳の頃です。
トーマス様が学園に入られた年でした。
トーマス様は伯爵家の嫡男で、私は子爵家の長女です。兄がおりますから、私は将来嫁いで家を出るのです。
淡い金色の髪に淡い碧の瞳。
色素の薄いトーマス様は、中性的な魅力を持つ美しい方です。
人の目に付くご容姿であるのに、派手なところが無く物静かな気質の方です。
美しい方ですから、初めてお会いした時には、私はすっかり舞い上がってしまい、我が身の幸運を神様に感謝致しました。
初めから、多くを話すお方ではなかったですし、私も照れるばかりで、直ぐに砕けてお話しすると云うことも無く、ゆっくりと親交を深めて参りました。
一足先に学園に入られていたトーマス様はお忙しく、なかなかお会いする事が出来ないまま、その次の年に私も同じ学園に入学したのです。
私が入学してからも、婚約者だからと言って、学園で二人で会うことはありませんでした。
トーマス様には既に親しいご友人方がいらっしゃいました。
お昼休みも、中には婚約者同士一緒に過ごす方々もおられましたが、私達にはそのようなこともありませんでした。
傍から見れば、他人同然。こちらから婚約者だと言わなければ、誰にも分からなかった事でしょう。
ごく親しい家柄の子息子女の方々以外は、私達の間柄を周囲は分からなかったと思います。
学園に入って分かったことは、学生とはそれ程忙しいわけでも無いと云うことでした。
婚約者と、月に一ニ度程度も邸では会えないなどと、そこまで忙しくもないのです。
では、後継者教育がお忙しいのかと云えば、トーマス様のご生家は領地を持っておられません。
王城に出仕する官吏の家柄なのです。
当然、領地経営など無いのです。
それでは、トーマス様との仲が深まらないのは、私に原因があるのでしょうか。
ブルネットの暗い髪色に瞳は濃い青、特に秀でて美しい訳でも、かと言ってそれ程醜いと云う訳でもない、特徴の薄い私です。
しかしながら、私は自分の青い瞳が好きです。
何の取り柄も見当たらない自分にあって、この瞳だけが色濃く美しいと思えるのです。
北の雪解けの湖が、湖底まで見通せる澄んだ美しい青い色だと聞いて、私の瞳もそんなふうに、物事の底まで見通せたなら良いのにと、思った事がありました。
今なら思います。
物事には、見えなくて良いことがあるのだと。
見ないでいる方が良いことがあるのだと。
その反面、目を逸らしてはいけないことがあるのだと。
行く末を見つめなければならないことがあるのだと。
あの占い師が水晶珠を視る直前、私は彼女の瞳に見入っておりました。
ランプの光が水晶珠に反射するのを映して、彼女の瞳もきらきらと燦めいておりました。
この瞳は、湖の底ではなくて、人の未来と云う魔訶不思議なものを見通すのだと、彼女の瞳に見入っていたのです。
そうして、どうやら未来を見終えた彼女は面を上げると、ひたと私の瞳を見つめたのです。
三年前に婚約致しました。
トーマス様が15歳、私が14歳の頃です。
トーマス様が学園に入られた年でした。
トーマス様は伯爵家の嫡男で、私は子爵家の長女です。兄がおりますから、私は将来嫁いで家を出るのです。
淡い金色の髪に淡い碧の瞳。
色素の薄いトーマス様は、中性的な魅力を持つ美しい方です。
人の目に付くご容姿であるのに、派手なところが無く物静かな気質の方です。
美しい方ですから、初めてお会いした時には、私はすっかり舞い上がってしまい、我が身の幸運を神様に感謝致しました。
初めから、多くを話すお方ではなかったですし、私も照れるばかりで、直ぐに砕けてお話しすると云うことも無く、ゆっくりと親交を深めて参りました。
一足先に学園に入られていたトーマス様はお忙しく、なかなかお会いする事が出来ないまま、その次の年に私も同じ学園に入学したのです。
私が入学してからも、婚約者だからと言って、学園で二人で会うことはありませんでした。
トーマス様には既に親しいご友人方がいらっしゃいました。
お昼休みも、中には婚約者同士一緒に過ごす方々もおられましたが、私達にはそのようなこともありませんでした。
傍から見れば、他人同然。こちらから婚約者だと言わなければ、誰にも分からなかった事でしょう。
ごく親しい家柄の子息子女の方々以外は、私達の間柄を周囲は分からなかったと思います。
学園に入って分かったことは、学生とはそれ程忙しいわけでも無いと云うことでした。
婚約者と、月に一ニ度程度も邸では会えないなどと、そこまで忙しくもないのです。
では、後継者教育がお忙しいのかと云えば、トーマス様のご生家は領地を持っておられません。
王城に出仕する官吏の家柄なのです。
当然、領地経営など無いのです。
それでは、トーマス様との仲が深まらないのは、私に原因があるのでしょうか。
ブルネットの暗い髪色に瞳は濃い青、特に秀でて美しい訳でも、かと言ってそれ程醜いと云う訳でもない、特徴の薄い私です。
しかしながら、私は自分の青い瞳が好きです。
何の取り柄も見当たらない自分にあって、この瞳だけが色濃く美しいと思えるのです。
北の雪解けの湖が、湖底まで見通せる澄んだ美しい青い色だと聞いて、私の瞳もそんなふうに、物事の底まで見通せたなら良いのにと、思った事がありました。
今なら思います。
物事には、見えなくて良いことがあるのだと。
見ないでいる方が良いことがあるのだと。
その反面、目を逸らしてはいけないことがあるのだと。
行く末を見つめなければならないことがあるのだと。
あの占い師が水晶珠を視る直前、私は彼女の瞳に見入っておりました。
ランプの光が水晶珠に反射するのを映して、彼女の瞳もきらきらと燦めいておりました。
この瞳は、湖の底ではなくて、人の未来と云う魔訶不思議なものを見通すのだと、彼女の瞳に見入っていたのです。
そうして、どうやら未来を見終えた彼女は面を上げると、ひたと私の瞳を見つめたのです。
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