もしも貴方が

ある晴れた日

とても天気の良い日でした。

「トーマス様、出ましょう。」
トーマス様に声を掛けます。

「う、うん、そうしようか。」
はっとしたようなトーマス様が答えて、二人して外へ出ました。

まだ正午を過ぎたばかりの日は高く、これから昼食の為にレストランへ行く予定でした。
なかなか席が取れないのを、父の名で予約をしていたのです。

「クレア」
何事か考えていたご様子のトーマス様が、
「申し訳ないが、今日は帰ろう。」
そう仰いました。
どうやら、占い師の先視の結果が、トーマス様にとっては満足の行くものでは無かった様です。

侍女にレストランの予約の断りを頼んで、そのままトーマス様と控えていた馬車に乗り込みます。
余りの早い戻りに、御者は驚いたことでしょう。

帰りの馬車で向かい合って座っているのに、トーマス様は何やら思案に耽っているご様子で、ずっと窓の外の風景を眺めていらっしゃいました。

結局、そのまま一言も言葉を交わすこと無く、私の邸に着いて漸く、「また」と仰ったきりでした。

天気の良い日でした。
朝から楽しみにしていたのです。

街歩きの約束をして、それが天気に恵まれて、朝から心が躍っていたのです。

お昼にまだ間があるからと、噂のお店に入ったのです。

隣国から来たという、話題の占い師でした。
水晶珠を見て未来を占うのだと云うのです。
隣国から興行しながら各地を巡っているうちに、良く当たると有名になって、先月とうとう王都に着く頃には、学園でも既に噂になっておりました。

人気の為か、いつも長蛇の列を成していて、果たして王都にいるうちに占って貰えるのかとクラスの友人達が話しておりました。

久しぶりにトーマス様からお誘い頂いて、浮かれていたのです。

馬車を降りて、占い師が間借りしていると云う噂のお店が目に入り、外に誰も並んでいなかったものですから、お昼のお休憩かと思ったところで、トーマス様が入ってみようと仰るので扉を開けたのです。

そうして占って貰った結果、様子の変わってしまったトーマス様とそのまま帰る事になったのです。

午後まで街歩きを楽しむ筈であった私が、邸を出て然程時を置かずに、連れていた侍女を置いて一人戻ったのです。

執事も侍女達も慌てて、そのうち母までやって来て、何があったのかと心配されてしまいました。

当然ですね。良からぬ事でもあったのかと心配されても仕方ありません。

トーマス様のご都合が悪くなったのです。お父様に折角予約をして頂いたお店へも行けず仕舞になってしまいました。
そう母に言いました。

置いてきた侍女にも迷惑だったことでしょう。
彼女はあのあと辻馬車で帰って来たのですから。

しょんぼり見えたのでしょうか、母は「お父様には私から言っておくわ。
貴女、少し顔色が悪いわね。」と、心配してくれました。

トーマス様と何があったのかを、問い質さないお母様に、私は申し訳なくなりました。

けれども、お話しせねばなりません。
少しだけ休んで心を落ち着かせたら、お話ししようと心に決めたのです。