ヴィオレットの夢

桃井すもも

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菫姫

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「貴女ってば、いつも薄ら不幸そうな王女の顔をして、あんな美丈夫を捕まえたのね。」
私付きの女官にならなくて良かったわ、とクラリスが朗らかに笑う。

美丈夫であるらしい夫は、臣下に下って公爵となった嘗ての第二皇子と会合中である。

夫達の会合には兄が関わっている。
鉄道輸送に係る新規事業の提携に関するものか。

本日の話し合いがその第一歩となるなら、国内の土木運輸通信産業はこれから賑やかになる事だろう。

来年の税収が楽しみだ。そう笑う兄の笑顔が目に浮かぶ。


「あの青い花、発表された時には園芸界を震撼させたのよ。あんな希少植物を僅か数年で品種改良したのだもの。」
植生すらよく解っていなかったのよ?探すのだって一苦労の筈だったでしょう?

「"菫姫"ですって。青い花なのに。」
品名を告げるクラリスが続ける。

「独り身なのだって、...」
まあ良いわ、今更。

「だって貴女、とても幸せそうだもの。」
ひとしきり語ったクラリスがお茶を口に含む。

懐妊中のクラリスにアルフレッドから贈られた薬草茶である。妊婦の身体を温める効能があるらしい。
ヴィオレットも同じものを持たされていた。




帰国後暫くして、ヴィオレットの懐妊が判明する。

生まれた子は、ルーカス(光)と名付けられた。月光のような白銀の髪が美しい男児であった。


それから八年の後、公女アイリスが帝国学園へ入学をする。
そうしてそのまま国元へは戻らなかった。

学園卒業と同時に、帝国の北西に領地を持つ貴族の元へ腰入りをした。

十八も年上の、他国の初婚貴族との婚姻に、あわや政略で貰われて行くのかと憐れむ者がいたが、彼らに近しい貴族は皆知っていた。
アイリス嬢は、夢を叶えたのだと。
夫君は、彼女の夢を叶えたのだと。

花嫁は、薄紫の瞳を喜びに揺らして、
「私の瞳はお母様の二番煎じだけれど、その分愛は深く産まれたのよ。」と頬を上気させた。

夫が妻の手を引いて、連れ立って山峰の尾根を歩く姿は、領地の民にはお馴染の光景であった。



                完
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