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ガーデン2
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「雑多なものでしょう。」
好きな花を好きなように植えただけなのよ、と夫人が語る。
「庭園などではないわ。庭よ、庭。」
見事だとヴィオレットは思った。
一見すると無秩序に植えられている花々は、色も違えば形も高さも異なる。
うねうねと畝る小道を覆うように、薄桃や黄色、白に紫、色とりどりの花が茂る。
白い斑紋が美しい葉。
這った木から花を垂らす蔓。
日向に日陰に、生き生きと生きる花々は、最も植生に合う環境を与えられているのだと、見て取れた。
置かれた場所で生を謳歌する花々。
素晴らしい...と、思わず漏れた声に、
ええ、朴念仁の育成には失敗したけれど、この子達はまずまずね、と夫人が側に咲く花の花弁を撫でる。
王女時代に花のプライベートブランドを立ち上げたソフィア公爵夫人。
王女として生まれながら、この国に何も残さず降嫁した自分。
少女の内に他国へ渡ったとしても、何か、僅かなことでも成せなかったものか。
持って生まれた資質もあろうが、花の一本育てることは無かった。
絵本の様な王宮にいて、絵本の様な、実在しない無機質な姫として生きていたのは、間違い無く自分の選択を積み重ねた結果なのだ。
後ろ向きな心が、様々な物事の正体を曇らせた。気付けていたなら、何かが違っていたのか。
兄はちゃんと気付いていた。
その上で、それに気付けず塞ぐ妹を愛してくれていた。
花々から立ち登る香りを含んだ風が髪を吹き上げる。それを片手で抑えながら、今からでも間に合うだろうかと、ヴィオレットは思った。
好きな花を好きなように植えただけなのよ、と夫人が語る。
「庭園などではないわ。庭よ、庭。」
見事だとヴィオレットは思った。
一見すると無秩序に植えられている花々は、色も違えば形も高さも異なる。
うねうねと畝る小道を覆うように、薄桃や黄色、白に紫、色とりどりの花が茂る。
白い斑紋が美しい葉。
這った木から花を垂らす蔓。
日向に日陰に、生き生きと生きる花々は、最も植生に合う環境を与えられているのだと、見て取れた。
置かれた場所で生を謳歌する花々。
素晴らしい...と、思わず漏れた声に、
ええ、朴念仁の育成には失敗したけれど、この子達はまずまずね、と夫人が側に咲く花の花弁を撫でる。
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兄はちゃんと気付いていた。
その上で、それに気付けず塞ぐ妹を愛してくれていた。
花々から立ち登る香りを含んだ風が髪を吹き上げる。それを片手で抑えながら、今からでも間に合うだろうかと、ヴィオレットは思った。
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