ヴィオレットの夢

桃井すもも

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婚約者4

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「朴念仁がお越しのようね。」

ソフィア公爵夫人の言葉に、正面を向く身体はそのままに、視線のみを鏡越しに後ろに向ける。

隊服から着替えたデイビッドが入口に立っている。


婚礼衣装のドレスの補正が終わった。
胸元は無事に縮められた。
最終確認の試着の為に、今日、ヴィオレットはノーフォーク公爵邸を訪っていた。


「突っ立っていないでお入りなさい、朴念仁。」

ディビッドは朴念仁に改名された。

それに言葉を返す事無く、ディビッドがゆっくりとこちらへ近付いてくる。

鏡越しに目が合うも、お互い表情が見えない。
横で二人の顔を交互に窺い見るマリアの方が、よっぽど表情豊かである。

「何か言うことは無いの?朴念仁」

語尾には必ず"朴念仁"を付ける事に決めたらしい夫人が云う。

「美しい。」

「どうやら剣に脳味噌を吸われた様ね。当たり前の事しか言えないの?」
朴念仁が、と夫人の口撃は止まらない。

そんな事はそよ風程度に思っているのか、夫人の蔑み光線をするりと通り抜けたデイビッドがヴィオレットの後ろに立つ。

美しい、と囁く声が耳を擽る。 

「触れても?」
と聞かれて、どこを?!と思ったところで

「そのまま部屋に連れ込もうなどと、不埒は許しませんよ!」
朴念仁が、と夫人が爆弾口撃を放ち、驚きは霧散してしまった。

そんな夫人に惑わされる事の無かったデイビッドが、剥き出しの背中をそっと指先でなぞる。
鏡の中では、表情を消した二人が見つめ合ったままだ。

その後、耳まで赤く火照ったヴィオレットに、夫人が慌てて朴念仁(息子)を追い立て追い出した。

その一部始終を、まるで観劇でも鑑賞するようにマリアが見入っていた。



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