28 / 48
婚約者4
しおりを挟む
「朴念仁がお越しのようね。」
ソフィア公爵夫人の言葉に、正面を向く身体はそのままに、視線のみを鏡越しに後ろに向ける。
隊服から着替えたデイビッドが入口に立っている。
婚礼衣装のドレスの補正が終わった。
胸元は無事に縮められた。
最終確認の試着の為に、今日、ヴィオレットはノーフォーク公爵邸を訪っていた。
「突っ立っていないでお入りなさい、朴念仁。」
ディビッドは朴念仁に改名された。
それに言葉を返す事無く、ディビッドがゆっくりとこちらへ近付いてくる。
鏡越しに目が合うも、お互い表情が見えない。
横で二人の顔を交互に窺い見るマリアの方が、よっぽど表情豊かである。
「何か言うことは無いの?朴念仁」
語尾には必ず"朴念仁"を付ける事に決めたらしい夫人が云う。
「美しい。」
「どうやら剣に脳味噌を吸われた様ね。当たり前の事しか言えないの?」
朴念仁が、と夫人の口撃は止まらない。
そんな事はそよ風程度に思っているのか、夫人の蔑み光線をするりと通り抜けたデイビッドがヴィオレットの後ろに立つ。
美しい、と囁く声が耳を擽る。
「触れても?」
と聞かれて、どこを?!と思ったところで
「そのまま部屋に連れ込もうなどと、不埒は許しませんよ!」
朴念仁が、と夫人が爆弾口撃を放ち、驚きは霧散してしまった。
そんな夫人に惑わされる事の無かったデイビッドが、剥き出しの背中をそっと指先でなぞる。
鏡の中では、表情を消した二人が見つめ合ったままだ。
その後、耳まで赤く火照ったヴィオレットに、夫人が慌てて朴念仁(息子)を追い立て追い出した。
その一部始終を、まるで観劇でも鑑賞するようにマリアが見入っていた。
ソフィア公爵夫人の言葉に、正面を向く身体はそのままに、視線のみを鏡越しに後ろに向ける。
隊服から着替えたデイビッドが入口に立っている。
婚礼衣装のドレスの補正が終わった。
胸元は無事に縮められた。
最終確認の試着の為に、今日、ヴィオレットはノーフォーク公爵邸を訪っていた。
「突っ立っていないでお入りなさい、朴念仁。」
ディビッドは朴念仁に改名された。
それに言葉を返す事無く、ディビッドがゆっくりとこちらへ近付いてくる。
鏡越しに目が合うも、お互い表情が見えない。
横で二人の顔を交互に窺い見るマリアの方が、よっぽど表情豊かである。
「何か言うことは無いの?朴念仁」
語尾には必ず"朴念仁"を付ける事に決めたらしい夫人が云う。
「美しい。」
「どうやら剣に脳味噌を吸われた様ね。当たり前の事しか言えないの?」
朴念仁が、と夫人の口撃は止まらない。
そんな事はそよ風程度に思っているのか、夫人の蔑み光線をするりと通り抜けたデイビッドがヴィオレットの後ろに立つ。
美しい、と囁く声が耳を擽る。
「触れても?」
と聞かれて、どこを?!と思ったところで
「そのまま部屋に連れ込もうなどと、不埒は許しませんよ!」
朴念仁が、と夫人が爆弾口撃を放ち、驚きは霧散してしまった。
そんな夫人に惑わされる事の無かったデイビッドが、剥き出しの背中をそっと指先でなぞる。
鏡の中では、表情を消した二人が見つめ合ったままだ。
その後、耳まで赤く火照ったヴィオレットに、夫人が慌てて朴念仁(息子)を追い立て追い出した。
その一部始終を、まるで観劇でも鑑賞するようにマリアが見入っていた。
1,453
お気に入りに追加
1,780
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
愛しの婚約者は王女様に付きっきりですので、私は私で好きにさせてもらいます。
梅雨の人
恋愛
私にはイザックという愛しの婚約者様がいる。
ある日イザックは、隣国の王女が私たちの学園へ通う間のお世話係を任されることになった。
え?イザックの婚約者って私でした。よね…?
二人の仲睦まじい様子を見聞きするたびに、私の心は折れてしまいました。
ええ、バッキバキに。
もういいですよね。あとは好きにさせていただきます。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる