ヴィオレットの夢

桃井すもも

文字の大きさ
上 下
23 / 48

婚約2

しおりを挟む
「ヴィオレット、久しぶりね。漸く貴女に会えたわ。」


土産に持って来た帝国産の紅茶を、早速手ずから淹れながらノーフォーク公爵夫人が言う。

「何年ぶりかしら、王太后(お母様)がお元気でいらした頃だから。」
10年は過ぎているわね。

そう夫人が続ける。

ノーフォーク公爵夫人。
父王の妹にして、前第一王女。

ノーフォーク公爵家に降嫁して公爵夫人となられた。

私の叔母、そしてデイビッドの母である。


デイビッドとの婚約は成立した。

帰国した日の夜、晩餐の場で父王から伝えられたデイビッドとの婚約は、「命(めい)」であって、既に決まった事であった。

喩え、私がそれを知らずにいたとしても、父王の言った事が結果であり、事実である。

私の帰国と婚約については、先日、新聞でも国民に発表されている。

半年後の婚姻式に備えて、急ピッチで準備が進められているところである。

半年後なんて、有り得ない。
そんな短い婚約期間など、王家の婚姻としては異例のことであろう。

私は、嬉しそうに微笑む叔母を見つめる。

こうして二人向かい合うと、まるで真(まこと)の母娘に見える。

それ程、私達はよく似ている。

白銀に見える薄い金の髪。

但し、瞳は私は濃い菫色で、叔母は薄い紫色である。

因みに、デイビッドの瞳のシトリンは、ノーフォーク公爵の色だ。

「本当に。美しくなったわ。」
あら、これでは自画自賛ね。

そっくりな容姿を褒めたことを自身を褒めているようだと叔母が笑った。



叔母、ソフィア公爵夫人と父王は兄妹だが、父王は側妃腹である。

王太后様のお腹(はら)からお生まれになったのは、ソフィア公爵夫人唯一人である。

女王も立ったこの国で、王位継承権は当然叔母にもあり、前王・祖父の髪色と祖母の容姿を受け継ぐこの叔母は、正統な王位継承者として認められていた。

周囲の思惑は別として、兄妹は仲が良かった。我が国では、側妃選定の決定権は王妃にあり、側妃は王妃の生家一族から選ばれている。王妃と側妃は、互いの立場を認めていただろう。

夫を共有するなんて、決して面白いものではないと私は思うのだが、そんな考えだから王族らしくないと言われるのかもしれない。

だがしかし、ソフィア王女は王位を望まなかった。

早々にノーフォーク公爵家へ降嫁してしまった。

父王は、どこかでそれを気にしているのだろうか。

私とデイビッドの婚姻に、父王の感情は関係しているのだろうか。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...