ヴィオレットの夢

桃井すもも

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東国の諺

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東の国には「棚から牡丹餅」と云う諺があるらしい。

それでは、コレがそう云うことね!
と、ヴィオレットは心の内で手を叩いた。


「ああ、その夢なら多分僕が叶えられるよ。」

昼食の席でアルフレッドが造作も無いと云うふうに語った。
ヴィオレットはこの時、嬉しさの余り目眩を覚えたのを覚えている。

クラスでは、帝国の公爵家令嬢であるクラリスと席を並べている。

影が薄くとも王女であるヴィオレットに、学園側で忖度したのか公爵家の思惑があるのか、そこは考えないことにした。そうして直ぐにクラリスとは懇意になった。

クラリスの影響で、帝国貴族の子息子女ら学友とも近しくなれたし、昼食の際に声を掛けられる事もある。不敬なんて言葉は、ここには無い。


問題発言は、北西に領地を有する侯爵子息のものであった。

アルフレッドは侯爵家の嫡男である。

帝国の北西に位置する白く輝く山峰。
学園の何処其処から頂を見ることが出来ると噂の白い山は、アルフレッドの生家の領地にあった。
なんと、件の「青い花」の生息する山であった。


帝国に来たならば、いつの日か必ず見たいものがある、と少々鼻息も粗く語ったヴィオレットに、彼は事も無げに叶えられる云ったのであった。


そうであるなら、何時か案内出来るよ。学園の長期休みなどどうかな? 

なんですって!本当によろしいの?!
ああ、でも国元の許可が必要かしら。
ああ、でも是非とも行きたい!

なら、わたくしもご一緒したいわ。殿下にも伺ってみようかしら。

アルフレッドの誘いにヴィオレッタが食い気味に反応すると、クラリスが同調する。

クラリスは帝国の第二皇子の婚約者である。
皇子とは一回り年が違う。

皇子は現在、女王陛下と皇太子を支えながら国政に携わっている。クラリスと婚姻後は、皇太子が後継の男児を得た後に臣下に降りて公爵位を新たに賜る。 
クラリスはそれまでは皇宮で第二皇子妃として暮らすことになる。

一回りも年上の男に乞われて皇族入りするクラリス。
これこそが、愛される令嬢、政略の旨味のある令嬢と云うのだろう、影の薄い己とは大違いである。

ヴィオレットはクラリスを眩しいものを見るような尊敬の念で見つめた。

そんなヴィオレットの心情など微塵も気付かぬクラリスが、殿下はきっと自分も着いて行くと言いそうね。アルフレッド、面倒事になったらごめんなさいね、などと心配している。

ヴィオレットの隣には、金髪に濃い蒼の瞳のクラリス。その隣に焦げ茶の髪に榛色の瞳のアルフレッドが並ぶ。

色の異なる小さな頭を三つ寄せ合って
あれこれ話し込む姿が可愛らしかった。




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