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六の姫3
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兄の訪れは久しぶりであった。
四つ年上の兄は13歳を迎え、この春から学園に通い始めて忙しい。
そんな兄が「ヴィオレット、遊ぼう。」と声を掛けてくれた。
弾けるように兄の後を追う。
文字通り仔犬のように転がりながら、柔らかな芝の上を走り回る。
大人しく影の薄い末姫が、この時ばかりは子供らしく声を上げて遊ぶのを、侍る侍女達も可愛らしいと見守っていた。
「鬼ごっこ」と云う、市井の子供らが遊ぶ追いかけっこに我を忘れてはしゃいでしまった。
勢いが付き過ぎてつんのめったのを、危ないと従兄弟が受け止めてくれた。
小さな身体であるのに、思いの外衝撃があったらしく、受け止め切れなかった従兄弟が尻もちをついてしまった。
ヴィオレットを被った余りに、不自然に転んでしまった。
「ごめんなさい!」慌てて謝ったが、従兄弟は俯いて応えない。
何処か怪我をしてしまったの?!
心配になってヴィオレットが顔を覗こうとするのを遠ざけられてしまった。
「退くんだ、ヴィオレット」
従兄弟の両膝に乗っかる様にいたヴィオレットを兄が退かして、
「大丈夫か?デイビッド。」と従兄弟に声を掛けた。
「大丈夫だ」とデイビッドが答えると、やれやれと兄は振り返り、
「お転婆ヴィオレットめ。怪我はないか?」とヴィオレットの膝を確かめる。
大丈夫ですと答えると安心したらしく、今日はここまでにしよう。また遊んであげるからねと、デイビッドを庇いながら帰って行く。
二人の小さくなってゆく背を見つめながら、
どうしよう、怪我をさせてしまったの?怒らせてしまったの?と、ヴィオレットは混乱して声が出なかった。
四つ年上の兄は13歳を迎え、この春から学園に通い始めて忙しい。
そんな兄が「ヴィオレット、遊ぼう。」と声を掛けてくれた。
弾けるように兄の後を追う。
文字通り仔犬のように転がりながら、柔らかな芝の上を走り回る。
大人しく影の薄い末姫が、この時ばかりは子供らしく声を上げて遊ぶのを、侍る侍女達も可愛らしいと見守っていた。
「鬼ごっこ」と云う、市井の子供らが遊ぶ追いかけっこに我を忘れてはしゃいでしまった。
勢いが付き過ぎてつんのめったのを、危ないと従兄弟が受け止めてくれた。
小さな身体であるのに、思いの外衝撃があったらしく、受け止め切れなかった従兄弟が尻もちをついてしまった。
ヴィオレットを被った余りに、不自然に転んでしまった。
「ごめんなさい!」慌てて謝ったが、従兄弟は俯いて応えない。
何処か怪我をしてしまったの?!
心配になってヴィオレットが顔を覗こうとするのを遠ざけられてしまった。
「退くんだ、ヴィオレット」
従兄弟の両膝に乗っかる様にいたヴィオレットを兄が退かして、
「大丈夫か?デイビッド。」と従兄弟に声を掛けた。
「大丈夫だ」とデイビッドが答えると、やれやれと兄は振り返り、
「お転婆ヴィオレットめ。怪我はないか?」とヴィオレットの膝を確かめる。
大丈夫ですと答えると安心したらしく、今日はここまでにしよう。また遊んであげるからねと、デイビッドを庇いながら帰って行く。
二人の小さくなってゆく背を見つめながら、
どうしよう、怪我をさせてしまったの?怒らせてしまったの?と、ヴィオレットは混乱して声が出なかった。
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