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果たして「週刊貴婦人」は図書室の新刊棚に鎮座していた。麗しい貴婦人の絵姿が表紙を飾っている。
「これか?」
ハデスはそれを手に取る。
麗しいハデスが「週刊貴婦人」の麗しい表紙を眺める。麗しい×2。
先ほどまで繋がれていた手のひらに熱が残っている。それはハデスの残した熱ではなくてアリアドネ自身が火照る熱であった。余りにハデスが自然に手を繋いだから、アリアドネはそれをうっかりすんなり受け入れてしまった。
ハデスは週刊貴婦人を持ったまま、迷う事なく図書室の奥へと進んで行く。そうして西側の角、窓辺のテーブルの前で「ここで良いか?」と聞いてきた。
「ここって、」
ここって、そうだわ。
そこは夢の中でロジャーと落ち合った場所。「水曜日の報告会」を二人で開催したテーブルだ。
ハデスが先に椅子に座る。ハデスの視線に促されてアリアドネも向かいの席に着く。
「読むんだろう?」
ハデスが差し出す週刊貴婦人を受け取るも、アリアドネは混乱していた。
落ち着け落ち着けアリアドネ。
まずは最大の疑問を解決しよう。
「ハデス様、王城へは。」
「今日はまだ行かなくともよい。」
「その、何かあったのですか?」
「パトリシア嬢から聞いた。」
「パトリシアから?」
「情報収集をするんだろう?」
パ、パ、パ、パ、パトリシア、貴女何を話したの?
パトリシアは確かにそんな提案をした。
摩訶不思議令嬢ファニーについて、情報を集めようと。婚約者同士で情報交換してみてはと。
こ、こ、こ、
「これって、」
「アリアドネ?」
これって夢とおんなじで夢と全く違ってる。何言ってるんだ、自分!
けれども、夢との符合と不符号が極端でアリアドネは益々混乱した。
「殿下が案じておられた。」
「え?」
「アンネマリー嬢に影響が及ばないかと。」
「殿下が?」
「怪しい行動をする令嬢がいるだろう。」
摩訶不思議令嬢なら一人知っている。
「彼女について、パトリシア嬢が情報を集めていると聞いた。君も彼女からその話しを聞いたのではないのか?」
「え、ええ、聞きました。」
「婚約者同士で情報収集して共有するのだと。私はそう聞いたが、違うのか?」
パトリシア、貴女いつの間にハデス様に話していたの?!
「君が水曜日で良いのなら、毎週水曜日の放課後にここで報告し合おう。」
なんでだ。どうしてだ。
「水曜日の報告会」はハデスがパートナーとなった。いやいや本来そうであったのが、ハデスとは無理だからとそれでロジャーと、
そこまで考えてアリアドネは気が付いた。
あれは夢なのだ。熱に浮かされて見た夢だったのだ。夢からはとっくに覚めている。現実は今いるここだ。
それとも、今こそ夢の世界なのではないか?だってハデスと話している。結構長く話している。そんな事って今まで有った?
ハデスはそれから「先にそれを読んだらいい」と言って待ってくれている。真向かいに座ってアリアドネが「週刊貴婦人」を読み終えるのをじっと待っている。
読めるわけないじゃない。
ハデスを真向かいにして、アリアドネはページを捲るも、只の一文字も頭に入って来ない。折角楽しみにしていた小説なのに。あれ、私って文字を忘れてしまったの?と思う程には読めなかった。そうして到頭諦めた。
「もう読み終わったのか?」
「はい。」全然頭に入りませんでしたけどね。
週刊貴婦人をテーブルに置き、アリアドネはハデスに向き直った。
淡い翠の瞳がアリアドネを見つめていた。
「君はどこまで知っているんだ?」
「ええっとそれは、今朝の令嬢の事でしょうか。」
「ああ。」
夢の中でなら色々知っている。
「モンド子爵の庶子であると。」
「彼女は春先に子爵家に引き取られ、夏休みの少し前に学園に編入している。」
「ハデス様もご存知でしたの?」
「私は夏休み中に聞いた。ギルバートから。」
そういえば、アリアドネも彼女の噂は夏休み中に聞いたのだ。熱を出した日の茶会でヴィクトリアが話していた。
アリアドネはそれまでファニーについて、そんな令嬢がいたなと思う程度にしか覚えがなかった。
ヴィクトリアとギルバートは、アリアドネが彼女を注目する前から噂を知って情報を共有していたのだろう。
「下位貴族の令息と接触していると。」
「え?夏休み前に編入して、何故夏休み中に?」
「夜会に出ていたそうだ。」
「夜会へ?」
「ああ。下位貴族の催す夜会ばかりだそうだ。君達が知らなくて当然だろう。」
貴族令嬢の交流にも階級の隔たりがある。
アリアドネ達が下位貴族の開く茶会や夜会に招待される事は殆ど無い。逆もまた然り。ましてや子爵の庶子との交流など、余程のことが無ければ有り得ない。
「平民のジェントリー階級の集まりにも頻繁に顔を出していたのだと。元々平民であるからな。」
アリアドネは驚いた。
全くもって驚きである。
何がって、
ハデス様、貴方ってそんなに長く話せるの?!
「これか?」
ハデスはそれを手に取る。
麗しいハデスが「週刊貴婦人」の麗しい表紙を眺める。麗しい×2。
先ほどまで繋がれていた手のひらに熱が残っている。それはハデスの残した熱ではなくてアリアドネ自身が火照る熱であった。余りにハデスが自然に手を繋いだから、アリアドネはそれをうっかりすんなり受け入れてしまった。
ハデスは週刊貴婦人を持ったまま、迷う事なく図書室の奥へと進んで行く。そうして西側の角、窓辺のテーブルの前で「ここで良いか?」と聞いてきた。
「ここって、」
ここって、そうだわ。
そこは夢の中でロジャーと落ち合った場所。「水曜日の報告会」を二人で開催したテーブルだ。
ハデスが先に椅子に座る。ハデスの視線に促されてアリアドネも向かいの席に着く。
「読むんだろう?」
ハデスが差し出す週刊貴婦人を受け取るも、アリアドネは混乱していた。
落ち着け落ち着けアリアドネ。
まずは最大の疑問を解決しよう。
「ハデス様、王城へは。」
「今日はまだ行かなくともよい。」
「その、何かあったのですか?」
「パトリシア嬢から聞いた。」
「パトリシアから?」
「情報収集をするんだろう?」
パ、パ、パ、パ、パトリシア、貴女何を話したの?
パトリシアは確かにそんな提案をした。
摩訶不思議令嬢ファニーについて、情報を集めようと。婚約者同士で情報交換してみてはと。
こ、こ、こ、
「これって、」
「アリアドネ?」
これって夢とおんなじで夢と全く違ってる。何言ってるんだ、自分!
けれども、夢との符合と不符号が極端でアリアドネは益々混乱した。
「殿下が案じておられた。」
「え?」
「アンネマリー嬢に影響が及ばないかと。」
「殿下が?」
「怪しい行動をする令嬢がいるだろう。」
摩訶不思議令嬢なら一人知っている。
「彼女について、パトリシア嬢が情報を集めていると聞いた。君も彼女からその話しを聞いたのではないのか?」
「え、ええ、聞きました。」
「婚約者同士で情報収集して共有するのだと。私はそう聞いたが、違うのか?」
パトリシア、貴女いつの間にハデス様に話していたの?!
「君が水曜日で良いのなら、毎週水曜日の放課後にここで報告し合おう。」
なんでだ。どうしてだ。
「水曜日の報告会」はハデスがパートナーとなった。いやいや本来そうであったのが、ハデスとは無理だからとそれでロジャーと、
そこまで考えてアリアドネは気が付いた。
あれは夢なのだ。熱に浮かされて見た夢だったのだ。夢からはとっくに覚めている。現実は今いるここだ。
それとも、今こそ夢の世界なのではないか?だってハデスと話している。結構長く話している。そんな事って今まで有った?
ハデスはそれから「先にそれを読んだらいい」と言って待ってくれている。真向かいに座ってアリアドネが「週刊貴婦人」を読み終えるのをじっと待っている。
読めるわけないじゃない。
ハデスを真向かいにして、アリアドネはページを捲るも、只の一文字も頭に入って来ない。折角楽しみにしていた小説なのに。あれ、私って文字を忘れてしまったの?と思う程には読めなかった。そうして到頭諦めた。
「もう読み終わったのか?」
「はい。」全然頭に入りませんでしたけどね。
週刊貴婦人をテーブルに置き、アリアドネはハデスに向き直った。
淡い翠の瞳がアリアドネを見つめていた。
「君はどこまで知っているんだ?」
「ええっとそれは、今朝の令嬢の事でしょうか。」
「ああ。」
夢の中でなら色々知っている。
「モンド子爵の庶子であると。」
「彼女は春先に子爵家に引き取られ、夏休みの少し前に学園に編入している。」
「ハデス様もご存知でしたの?」
「私は夏休み中に聞いた。ギルバートから。」
そういえば、アリアドネも彼女の噂は夏休み中に聞いたのだ。熱を出した日の茶会でヴィクトリアが話していた。
アリアドネはそれまでファニーについて、そんな令嬢がいたなと思う程度にしか覚えがなかった。
ヴィクトリアとギルバートは、アリアドネが彼女を注目する前から噂を知って情報を共有していたのだろう。
「下位貴族の令息と接触していると。」
「え?夏休み前に編入して、何故夏休み中に?」
「夜会に出ていたそうだ。」
「夜会へ?」
「ああ。下位貴族の催す夜会ばかりだそうだ。君達が知らなくて当然だろう。」
貴族令嬢の交流にも階級の隔たりがある。
アリアドネ達が下位貴族の開く茶会や夜会に招待される事は殆ど無い。逆もまた然り。ましてや子爵の庶子との交流など、余程のことが無ければ有り得ない。
「平民のジェントリー階級の集まりにも頻繁に顔を出していたのだと。元々平民であるからな。」
アリアドネは驚いた。
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何がって、
ハデス様、貴方ってそんなに長く話せるの?!
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