18 / 65
【18】
しおりを挟む
浅いスクエアネックの襟元はぎりぎり肩のラインが見えるところで立ち上がる。鎖骨が露わになるも、襟ぐりが浅く生地に張りと光沢がある為に気品を損なわない。
肩で立ち上がる生地は肩を覆うほどではなかったから、腕が露わになるのをロンググローブを併せて露出を抑える。
襟元から胸元そしてウエストまで装飾は無く、ウエストは細く腰回りからボリュームを抑えて広がるデザインとなっていた。
ウエストの右側と左の肩口に共布で作った花のコサージュ。これもビジューやスパンコールなどの装飾は無い。無地では夜会で見劣りしそうなものだが、生地の持つ深みのある光沢が美しく、王城のシャンデリアの光を受ければ繊細な照りと輝きを放つだろう。
ハデスから贈られるドレスは、露出と抑えのバランスが絶妙で、若いアリアドネの仄かな色香と令嬢の清純さを上手く見せてくれる。これには母まで毎回唸るほどであるから、彼の感性はよほど秀でているのだろう。
アリアドネは、ハデスから贈られたドレスに合うような装飾品を手持ちの中から選んだ。ハデスのドレスを台無しにしない様に気を配るから、アリアドネの頭の中はそればかりになる。
襟元に空いた肌を隠す様に少しばかり大振りの首飾りを選ぶことにした。
小粒の真珠とクリスタルガラスを繋いでそれを5連に重ねた首飾り。造形はシンプルであるが細部まで施された繊細な細工が身に付けた時に気品を添えてくれる。
ボリュームがあるのに真珠の純白とクリスタルガラスの透明が重さを感じさせない。
デヴュタントの祝いにと父方の祖母から贈られた品である。
揃いの耳飾りは、同じ小粒の真珠とクリスタルを円形に編み込んで中央に大粒のサファイアを配している。
デヴュタントを迎える前に既にハデスとは婚約していたのだが、祖母がハデスの色であるペリドットでもエメラルドでもなく、アリアドネの瞳と同じサファイアを選んでくれた事に、アリアドネの成人を祝う祖母の愛が伝わってくるのであった。
「水曜日、帰りが遅かったと聞いた。」
「え?」
ドレスの事に思考を奪われて、反応が遅れてしまった。
ハデスにしては長文、いやいやそんな事ではなくて、何故ハデスが知っているのか。
先週の水曜日は例のふわ髪令嬢の騒動があった日である。その日の放課後、図書室でロジャーと会った。そこでロジャーに情報収集の協力を求めて了承を得たのだが、その日が水曜日だったことから、これからの情報交換の場を「水曜日の報告会」と決めたのだった。
それで一昨日の水曜日は、映えある第一回水曜日の報告会だったのである。
そんな事より。ハデスがアリアドネの帰宅時間を知っている事の方が驚きであった。
誰かがハデスに知らせた?図書室にいたのを見ていた?でもそうであれば、ハデスはロジャーの事も聞いてくるだろう。
アリアドネは、頭の中では饒舌に独り語りをしていたのだが、それは頭の中の事なので、端から見れば固まったまま微動だにしていない様に見えたらしい。
「アリアドネ?」
それを不審に思ったらしいハデスが再び問うて来た。
「ああ、ええっと、そう。図書室におりました。小説を読みに。」
「小説?」
「ええ、ええ、小説です。小説。」
しどろもどろとは今のアリアドネの事だろう。物凄くしどろもどろである。
「何を読んでいるんだ。」
ええっと、それは質問でしょうか、詰問でしょうか。
「れ、恋愛小説です。」
「恋愛小説?」
読んで悪いか。
アリアドネは実は乙女脳であった。恋愛小説は大好物なのだ。
気鋭の平民作家が生み出す恋愛小説。
彼女の作品は秀逸である。何でそんなに上手いところをつつくのか。お陰でちょいちょい涙腺を刺激されて、思わずポロリと涙が落ちる。そんなだから、この前も、お嬢様如何なさいましたか!と侍女がすっ飛んで来たのである。
と、そこまで考えてアリアドネは気が付いた。私達、いま会話してない?これって会話のキャッチボールではなくて?
だがしかし。そんな奇跡もこれで仕舞いとなる。窓からは学園の校門が見えていた。
馬車から降りて校門を通り過ぎ、開けた場所まで進んでそこで皆が揃うのを待つ。ヴィクトリアとギルバートは既に到着しているし、そろそろパトリシア達も来るだろう。
肩で立ち上がる生地は肩を覆うほどではなかったから、腕が露わになるのをロンググローブを併せて露出を抑える。
襟元から胸元そしてウエストまで装飾は無く、ウエストは細く腰回りからボリュームを抑えて広がるデザインとなっていた。
ウエストの右側と左の肩口に共布で作った花のコサージュ。これもビジューやスパンコールなどの装飾は無い。無地では夜会で見劣りしそうなものだが、生地の持つ深みのある光沢が美しく、王城のシャンデリアの光を受ければ繊細な照りと輝きを放つだろう。
ハデスから贈られるドレスは、露出と抑えのバランスが絶妙で、若いアリアドネの仄かな色香と令嬢の清純さを上手く見せてくれる。これには母まで毎回唸るほどであるから、彼の感性はよほど秀でているのだろう。
アリアドネは、ハデスから贈られたドレスに合うような装飾品を手持ちの中から選んだ。ハデスのドレスを台無しにしない様に気を配るから、アリアドネの頭の中はそればかりになる。
襟元に空いた肌を隠す様に少しばかり大振りの首飾りを選ぶことにした。
小粒の真珠とクリスタルガラスを繋いでそれを5連に重ねた首飾り。造形はシンプルであるが細部まで施された繊細な細工が身に付けた時に気品を添えてくれる。
ボリュームがあるのに真珠の純白とクリスタルガラスの透明が重さを感じさせない。
デヴュタントの祝いにと父方の祖母から贈られた品である。
揃いの耳飾りは、同じ小粒の真珠とクリスタルを円形に編み込んで中央に大粒のサファイアを配している。
デヴュタントを迎える前に既にハデスとは婚約していたのだが、祖母がハデスの色であるペリドットでもエメラルドでもなく、アリアドネの瞳と同じサファイアを選んでくれた事に、アリアドネの成人を祝う祖母の愛が伝わってくるのであった。
「水曜日、帰りが遅かったと聞いた。」
「え?」
ドレスの事に思考を奪われて、反応が遅れてしまった。
ハデスにしては長文、いやいやそんな事ではなくて、何故ハデスが知っているのか。
先週の水曜日は例のふわ髪令嬢の騒動があった日である。その日の放課後、図書室でロジャーと会った。そこでロジャーに情報収集の協力を求めて了承を得たのだが、その日が水曜日だったことから、これからの情報交換の場を「水曜日の報告会」と決めたのだった。
それで一昨日の水曜日は、映えある第一回水曜日の報告会だったのである。
そんな事より。ハデスがアリアドネの帰宅時間を知っている事の方が驚きであった。
誰かがハデスに知らせた?図書室にいたのを見ていた?でもそうであれば、ハデスはロジャーの事も聞いてくるだろう。
アリアドネは、頭の中では饒舌に独り語りをしていたのだが、それは頭の中の事なので、端から見れば固まったまま微動だにしていない様に見えたらしい。
「アリアドネ?」
それを不審に思ったらしいハデスが再び問うて来た。
「ああ、ええっと、そう。図書室におりました。小説を読みに。」
「小説?」
「ええ、ええ、小説です。小説。」
しどろもどろとは今のアリアドネの事だろう。物凄くしどろもどろである。
「何を読んでいるんだ。」
ええっと、それは質問でしょうか、詰問でしょうか。
「れ、恋愛小説です。」
「恋愛小説?」
読んで悪いか。
アリアドネは実は乙女脳であった。恋愛小説は大好物なのだ。
気鋭の平民作家が生み出す恋愛小説。
彼女の作品は秀逸である。何でそんなに上手いところをつつくのか。お陰でちょいちょい涙腺を刺激されて、思わずポロリと涙が落ちる。そんなだから、この前も、お嬢様如何なさいましたか!と侍女がすっ飛んで来たのである。
と、そこまで考えてアリアドネは気が付いた。私達、いま会話してない?これって会話のキャッチボールではなくて?
だがしかし。そんな奇跡もこれで仕舞いとなる。窓からは学園の校門が見えていた。
馬車から降りて校門を通り過ぎ、開けた場所まで進んでそこで皆が揃うのを待つ。ヴィクトリアとギルバートは既に到着しているし、そろそろパトリシア達も来るだろう。
2,209
お気に入りに追加
2,849
あなたにおすすめの小説
【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
身代わりーダイヤモンドのように
Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。
恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。
お互い好きあっていたが破れた恋の話。
一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
貴方の記憶が戻るまで
cyaru
恋愛
「君と結婚をしなくてはならなくなったのは人生最大の屈辱だ。私には恋人もいる。君を抱くことはない」
初夜、夫となったサミュエルにそう告げられたオフィーリア。
3年経ち、子が出来ていなければ離縁が出来る。
それを希望に間もなく2年半となる時、戦場でサミュエルが負傷したと連絡が入る。
大怪我を負ったサミュエルが目を覚ます‥‥喜んだ使用人達だが直ぐに落胆をした。
サミュエルは記憶を失っていたのだった。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※作者都合のご都合主義です。作者は外道なので気を付けてください(何に?‥いろいろ)
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
騎士の妻ではいられない
Rj
恋愛
騎士の娘として育ったリンダは騎士とは結婚しないと決めていた。しかし幼馴染みで騎士のイーサンと結婚したリンダ。結婚した日に新郎は非常召集され、新婦のリンダは結婚を祝う宴に一人残された。二年目の結婚記念日に戻らない夫を待つリンダはもう騎士の妻ではいられないと心を決める。
全23話。
2024/1/29 全体的な加筆修正をしました。話の内容に変わりはありません。
イーサンが主人公の続編『騎士の妻でいてほしい 』(https://www.alphapolis.co.jp/novel/96163257/36727666)があります。
「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる