16 / 65
【16】
しおりを挟む
「ヘンドリック、少し良い?」
「ああ、姉上お帰り。大変だったよね、昼のアレ。」
「ああ、あれはね。そう、それも含めて。ヘンドリック、ちょっと聞いて欲しいの。」
ヘンドリックの手を引く勢いで私室に呼ぶ。侍女がお茶を淹れてくれた後は二人きりにしてもらった。
「何から話そうかしら。まずは彼女ね。ねえ、ヘンドリック。貴方、あのご令嬢を知っていたの?」
「今更だよ、姉上。彼女は今や時の人だよ。良い意味でも悪い意味でも。」
「良い意味なんてあるかしら。」
「まあ、姉上の目線では無しかな。けれど、僕ら男子生徒の中では相当人気がある。」
「真逆、貴方も?」
「そんな怖い顔しないでよ。そんな訳無いから安心して。僕は理由の分からない人物には近寄らないよ。」
「貴方を信じるわ。であればヘンドリック、昼間の事をどう思う?」
「危険人物」
「やっぱりそう思う?」
「それしか無いよ。」
「それで、先入観を持たずにあの光景を見たとしたら、何と思うかしら。」
「姉上、僕らが通うのは王立の貴族学園だよ。あの光景を見て彼女に肩入れする子女は貴族を辞めるべきだね。辞めずとも後々それなりの人生になるんじゃないかな。あの程度見分けられなければ他の事だって大体そんなものだろうしね。まともな貴族でいるのは無理じゃないかな。」
「何だかとっても解りやすい。目の前の霧が晴れた様な気分よ。有難う、ヘンドリック。
それでね、どうしようかと思って。お父様にお伝えした方が良いと思うのだけれど。」
「姉上、あれには関わらないのが一番だと思う。けれど姉上は既に関わってしまった。その筆頭はアンネマリー嬢だしね。父上への報告は必須だよ。それに、他にも今頃家に報告している子女等はいる筈だろうし。姉上だってあの上級生に言ったじゃないか。」
「確かにそうね。少なくともフェイラーズ侯爵家の耳には入るわね。」
「本来ならそこで子爵家を抑える筈さ。準王族相手への無礼だよ。まあ、その前にアンネマリー嬢の公爵家が黙っていないか。」
弟であるのに、理路整然と情報を整理出来るヘンドリックは流石は次期当主である。我が家の未来は明るいわね、とアリアドネは心強く思った。
それに力を得て、アリアドネはもう一つ相談してみる。
「ねえ、ヘンドリック。私、ハデス様との婚約を解消したいとお父様にお話ししようと思うの。出来るだけ早急に。」
「ううん、それって難しくない?今の今だよ?アンネマリー嬢への不穏な動きを知って、姉上があの集団から抜けるのは難しいんじゃないかな。父上が同じ事を考えたなら、きっとそう言うだろうね。」
「い、言うだけ言ってみようかしら。」
「アリアドネ。お前の気持ちが解らない訳ではない。だが、時期が悪い。」
父はヘンドリックの予想を丸々なぞった返答をした。
「お前がハデス殿と良好な関係を築けていないと云うのは承知した。だが彼は有能な人物だ。それは王家にも認められている。これと言って非の打ち所も無い。理由の無い解消の申込みはお前の瑕にしかならないぞ。
アリアドネ、自分の感情と向き合う事は大切だが、お前が背負うものを忘れてはならない。
それは婚約に限らない。お前は我が侯爵家の長子だ。一族も傘下の貴族もお前の行動の影響を少なからず受けるだろう。そういう立場にお前がいるのだという事は解るだろう?」
父の言っている事は正しい。敢えて噛み砕いて話して聞かせた父が、アリアドネの心の内を解っているのが尚のこと悲しい。
「まあ、それとなく話してみるか。」
「え?何をですの?」
「グラントン侯爵へだよ。嫡男夫婦が不仲と言うのはあちらも嬉しい事では無いだろうからね。」
「未だ夫婦ではありません。」
「お前はあちらから望まれたのだぞ?不遇を強いられるのは私とて面白く無い。」
「お父様、私が望まれた訳ではありませんでしょう?同じ歳の侯爵令嬢が望まれたのです。」
アリアドネは、自分で言っておきながら何だか物凄く悲しくなった。
「ああ、姉上お帰り。大変だったよね、昼のアレ。」
「ああ、あれはね。そう、それも含めて。ヘンドリック、ちょっと聞いて欲しいの。」
ヘンドリックの手を引く勢いで私室に呼ぶ。侍女がお茶を淹れてくれた後は二人きりにしてもらった。
「何から話そうかしら。まずは彼女ね。ねえ、ヘンドリック。貴方、あのご令嬢を知っていたの?」
「今更だよ、姉上。彼女は今や時の人だよ。良い意味でも悪い意味でも。」
「良い意味なんてあるかしら。」
「まあ、姉上の目線では無しかな。けれど、僕ら男子生徒の中では相当人気がある。」
「真逆、貴方も?」
「そんな怖い顔しないでよ。そんな訳無いから安心して。僕は理由の分からない人物には近寄らないよ。」
「貴方を信じるわ。であればヘンドリック、昼間の事をどう思う?」
「危険人物」
「やっぱりそう思う?」
「それしか無いよ。」
「それで、先入観を持たずにあの光景を見たとしたら、何と思うかしら。」
「姉上、僕らが通うのは王立の貴族学園だよ。あの光景を見て彼女に肩入れする子女は貴族を辞めるべきだね。辞めずとも後々それなりの人生になるんじゃないかな。あの程度見分けられなければ他の事だって大体そんなものだろうしね。まともな貴族でいるのは無理じゃないかな。」
「何だかとっても解りやすい。目の前の霧が晴れた様な気分よ。有難う、ヘンドリック。
それでね、どうしようかと思って。お父様にお伝えした方が良いと思うのだけれど。」
「姉上、あれには関わらないのが一番だと思う。けれど姉上は既に関わってしまった。その筆頭はアンネマリー嬢だしね。父上への報告は必須だよ。それに、他にも今頃家に報告している子女等はいる筈だろうし。姉上だってあの上級生に言ったじゃないか。」
「確かにそうね。少なくともフェイラーズ侯爵家の耳には入るわね。」
「本来ならそこで子爵家を抑える筈さ。準王族相手への無礼だよ。まあ、その前にアンネマリー嬢の公爵家が黙っていないか。」
弟であるのに、理路整然と情報を整理出来るヘンドリックは流石は次期当主である。我が家の未来は明るいわね、とアリアドネは心強く思った。
それに力を得て、アリアドネはもう一つ相談してみる。
「ねえ、ヘンドリック。私、ハデス様との婚約を解消したいとお父様にお話ししようと思うの。出来るだけ早急に。」
「ううん、それって難しくない?今の今だよ?アンネマリー嬢への不穏な動きを知って、姉上があの集団から抜けるのは難しいんじゃないかな。父上が同じ事を考えたなら、きっとそう言うだろうね。」
「い、言うだけ言ってみようかしら。」
「アリアドネ。お前の気持ちが解らない訳ではない。だが、時期が悪い。」
父はヘンドリックの予想を丸々なぞった返答をした。
「お前がハデス殿と良好な関係を築けていないと云うのは承知した。だが彼は有能な人物だ。それは王家にも認められている。これと言って非の打ち所も無い。理由の無い解消の申込みはお前の瑕にしかならないぞ。
アリアドネ、自分の感情と向き合う事は大切だが、お前が背負うものを忘れてはならない。
それは婚約に限らない。お前は我が侯爵家の長子だ。一族も傘下の貴族もお前の行動の影響を少なからず受けるだろう。そういう立場にお前がいるのだという事は解るだろう?」
父の言っている事は正しい。敢えて噛み砕いて話して聞かせた父が、アリアドネの心の内を解っているのが尚のこと悲しい。
「まあ、それとなく話してみるか。」
「え?何をですの?」
「グラントン侯爵へだよ。嫡男夫婦が不仲と言うのはあちらも嬉しい事では無いだろうからね。」
「未だ夫婦ではありません。」
「お前はあちらから望まれたのだぞ?不遇を強いられるのは私とて面白く無い。」
「お父様、私が望まれた訳ではありませんでしょう?同じ歳の侯爵令嬢が望まれたのです。」
アリアドネは、自分で言っておきながら何だか物凄く悲しくなった。
2,267
お気に入りに追加
2,832
あなたにおすすめの小説
アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
身代わりーダイヤモンドのように
Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。
恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。
お互い好きあっていたが破れた恋の話。
一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)
【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。
Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。
休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。
てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。
互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。
仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。
しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった───
※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』
の、主人公達の前世の物語となります。
こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。
❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる