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「食事時です。お静かに。」

アリアドネは続けて言う。

アリアドネは小柄ではないが、目立つほど身丈があるわけではない。
けれども、ファニー嬢が小さい為に見下ろすていとなった。

「ええっと、貴女はどなた?」

「私は貴女に名を名乗る必要を感じておりませんが、お知りになりたいのであれば名乗りましょう。
アリアドネ・スタンリー・ルーズベリーと申します。」

「あの、貴女は関係無いのですけど...」

「貴女が謝罪なさって、アンネマリー様がその必要が無いと仰られた。でしたら後は皆様の食事の時間です。」

「何だかとても怖い方ね。いいわ、戻ります。」

ファニー嬢がアリアドネにくるりと背を向けて、とととっと小走りで奥へ向かった。
あんな端にいたから見えなかったのだ。
どうやら彼女は食堂へ一番乗りしていたらしい。

アリアドネはその背を見送り、それから声を上げた。

「フェイラーズ侯爵御令息、いらっしゃいますか。」

広い食堂にアリアドネの声が通る。

「ああ。」

三学年の男子生徒が立ち上がった。

「貴方のご生家はモンド子爵家の寄り親であったと。本日の事は正しく侯爵様にお伝え願います。間違えても公爵令嬢のお名を汚さぬ様にご配慮お願い致します。」

「承知した。」

侯爵令息が着席するのを見届けてアリアドネも席に着いた。

「ふふふ、楽しみにしていたのよ。貴女の通る声が聴きたくて。張り上げてる訳ではないのに程よく低く通る声。貴女がオペラ歌手だったなら素晴らしかったでしょうね。」

アンネマリーが心底嬉しいと云う風に笑う。そんなアンネマリーをフランシス殿下がまたまた楽しそうに見つめる。

ふわふわ令嬢は、アリアドネが侯爵令息と話す間、どうやら周りの生徒達に傷付いた心を吐露するのに忙しかったらしく、反論らしい言葉はなかった。

あんなのにちょいちょい突撃されても疲れるだけである。

アンネマリーの楽しそうな表情を見て、アリアドネは全身に張り巡らせた鎧を解いた。



鎧を解いたアリアドネは、いつものへなちょこ令嬢に戻ったから、後はお食事に専念した。

昼食後は自由に過ごす事を許されていたから、生徒達は銘々好きに過ごす。
アリアドネ達はその時間を貴賓室で過ごしていた。

貴族学園は王立であるから王族専用の貴賓室がある。王族、準王族が在学する際、または他国の王族が留学している場合に使用される部屋である。

フランシス殿下とアンネマリーがお茶を楽しんでいる間、側近候補達は二人と共にいて情報の共有と言う名のお喋りに興じる。
パトリシアとヴィクトリア、そしてアリアドネは、その間、今日の出来事を精査した。

三人が目視で確認した子女等は大体一致した。噂を鵜呑みにするのも愚かだが、真実を見極められないのも愚かだし、それ以前にあんな幼稚な令嬢に騙されるのも愚かである。
もう、愚か三銃士であるから、とっとと旅にでも出て行ってほしいものだ。

「これは家にも報告をすべきね。真逆、阿呆がこれほど学園に蔓延しているだなんて。律する貴族家もいたのでしょうけれど。」

ヴィクトリアの言葉に、アリアドネが全くもってその通りと大きく頷いていると、

「多分、殿下とアンネマリー様の取り巻きがどう対処するのかを見ていたのよ。」

パトリシアが言いながらアリアドネへと視線を向けた。

「取り巻き...」

言い得て妙。そうなのね、私達って十把一絡げに取り巻きって呼ばれているのね。アリアドネは何だかちょっと切なくなった。

「だから、私達が噂を鵜呑みにする阿呆共を記憶したのも確かめていたのではないかしら。」

「恐ろしい...」

貴族って怖いわ。怖いと言えば、ファニー嬢は私達を怖い怖いと言っていたけれど、その言葉、そっくりお返ししたい。怖い物知らずとは貴女の方だと思うのよ。

アリアドネは、怖い物知らずの恐ろしさを知る思いであった。
同時に状況を正しく把握出来る子女達に侮られない様に、改めて気を引き締めた。




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