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学園の食堂は広い講堂の様な仕様で、そこで全学年が一斉に昼の食事をする。
家の爵位も学年も関係無く、一律同じ内容の食事が用意されている。
身分も家の財力も及ばないが、貴族学園だけにマナーは重要視される。
横並びのテーブルが長く連なり、それが三列配置されて、そこに先に来た順から向かい合わせになって席に着く。友人同士であれば、同時に席に並び座る事も可能であった。
規則は一つだけ。
学年単位で同じ列のテーブルに座る、と言う点のみであった。
一つの学年が全員同じく連なるテーブルに並び座る形となる。
午前の授業を終えて教室を出る。
そこでアリアドネは同じく教室を出たパトリシアと共にアンネマリーを待つ。
程なくして、隣のクラスからギルバートに伴われたヴィクトリアが出て来てアリアドネ達に加わった。
10分ほど待った頃、ブライアンとハデス、そしてフランシス殿下とアンネマリーが教室から出て来た。
朝と同じ様な体勢となって食堂まで進む。
もうこんな生活が一年と半年続いていたから、アリアドネにとってはこれが日常だった。
パトリシアにハデスとの婚約解消を考えていると告白した事で、それがただ頭の中で模索するのでは無く、いよいよ現実味を帯びて来るように感じられた。
もし婚約を解消したなら、アリアドネはこの隊列から外れることとなる。
アンネマリーには世話になった。高位貴族の令嬢同士であるから面識は有ったものの、近しい友人として接してもらえた事には感謝をしていたし、何より楽しかった。
パトリシアもヴィクトリアも同様である。
将来の夫を支える為に、フランシスの治世を支える為に、その共通の目的が彼女達との結束を確かなものにしていたが、それを抜きにしても友情は育っていた。
ハデスとの婚約を解消するアリアドネを、彼女達はどう見るだろう。
貴族の婚姻に感情を加えてはならないのは理解している。
けれども、ハデスとはどうしたって無理だろう。ハデスだって本心のところでは同じ事を思っているのではないだろうか。
『婚約者と情報を集め合うのよ』
パトリシアの言葉を思い出す。
そんな大層なことではないのだ。互いが知った事を話して、そんな事があったのか、そんな事が分かったのかと、互いに話した内容を共有するだけの事なのだ。
それは婚姻した夫婦こそ日常で繰り返している行為だろう。
父も母もそうだ。城でこんな噂があったから気を付けるように、お茶会でこんなお話しを聞いたのよ、貴方はご存知?
晩餐の席は父と母の情報交換の席でもある。
それすら出来ないのだとしたら。
それでは王族を支える役目を担えるのだろうか?
そんな婚姻に意味はあるのか、無理ではないか。そんな間柄で、共に家を盛り立て共に生きるだなんて出来よう筈も無い。
アリアドネは、流されるように結ばれ今まで過ごして来た婚約関係を、いよいよ切り離す時が来たのだと悟った。同じ歳に拘らないなら下級生からも上級生からも、ハデスなら直ぐに次の婚約者を選べるだろう。そしてその令嬢が新たにこの帯同メンバーに加わるのだろう。
せめて、アンネマリー始めとする婚約者仲間であった彼女達が、これからもアリアドネを友人と思ってくれたなら。
そんな事を考えるうちに、食堂が見えて来た。
殿下とアンネマリーが教室を出るまでに数分は待つから、食堂に着く頃には大方の生徒は既に食事を始めている。
要は、殆どの生徒が揃った後で、フランシス殿下とアンネマリーは食堂に入る事となる。
異変には直ぐに気が付いた。
漂う空気が違う。
アリアドネは、王族と準王族に帯同していたから、彼等が注目を集めるが為に自身も多くの目に晒される生活を日常として来た。
だから、注視されるのには慣れていた。
だが、今感じた違和感は平素と異なる視線にあるらしい。
向けられる視線の類が違う。貴人に対する羨望や憧憬は常よりあるが、その中にどこか下卑た類のものが紛れ込んでいる。
隣のパトリシアを見れば、どうやら彼女も同じ事を考えていたらしい。険しい眼差しを前方に居並ぶ生徒達に向けていた。
家の爵位も学年も関係無く、一律同じ内容の食事が用意されている。
身分も家の財力も及ばないが、貴族学園だけにマナーは重要視される。
横並びのテーブルが長く連なり、それが三列配置されて、そこに先に来た順から向かい合わせになって席に着く。友人同士であれば、同時に席に並び座る事も可能であった。
規則は一つだけ。
学年単位で同じ列のテーブルに座る、と言う点のみであった。
一つの学年が全員同じく連なるテーブルに並び座る形となる。
午前の授業を終えて教室を出る。
そこでアリアドネは同じく教室を出たパトリシアと共にアンネマリーを待つ。
程なくして、隣のクラスからギルバートに伴われたヴィクトリアが出て来てアリアドネ達に加わった。
10分ほど待った頃、ブライアンとハデス、そしてフランシス殿下とアンネマリーが教室から出て来た。
朝と同じ様な体勢となって食堂まで進む。
もうこんな生活が一年と半年続いていたから、アリアドネにとってはこれが日常だった。
パトリシアにハデスとの婚約解消を考えていると告白した事で、それがただ頭の中で模索するのでは無く、いよいよ現実味を帯びて来るように感じられた。
もし婚約を解消したなら、アリアドネはこの隊列から外れることとなる。
アンネマリーには世話になった。高位貴族の令嬢同士であるから面識は有ったものの、近しい友人として接してもらえた事には感謝をしていたし、何より楽しかった。
パトリシアもヴィクトリアも同様である。
将来の夫を支える為に、フランシスの治世を支える為に、その共通の目的が彼女達との結束を確かなものにしていたが、それを抜きにしても友情は育っていた。
ハデスとの婚約を解消するアリアドネを、彼女達はどう見るだろう。
貴族の婚姻に感情を加えてはならないのは理解している。
けれども、ハデスとはどうしたって無理だろう。ハデスだって本心のところでは同じ事を思っているのではないだろうか。
『婚約者と情報を集め合うのよ』
パトリシアの言葉を思い出す。
そんな大層なことではないのだ。互いが知った事を話して、そんな事があったのか、そんな事が分かったのかと、互いに話した内容を共有するだけの事なのだ。
それは婚姻した夫婦こそ日常で繰り返している行為だろう。
父も母もそうだ。城でこんな噂があったから気を付けるように、お茶会でこんなお話しを聞いたのよ、貴方はご存知?
晩餐の席は父と母の情報交換の席でもある。
それすら出来ないのだとしたら。
それでは王族を支える役目を担えるのだろうか?
そんな婚姻に意味はあるのか、無理ではないか。そんな間柄で、共に家を盛り立て共に生きるだなんて出来よう筈も無い。
アリアドネは、流されるように結ばれ今まで過ごして来た婚約関係を、いよいよ切り離す時が来たのだと悟った。同じ歳に拘らないなら下級生からも上級生からも、ハデスなら直ぐに次の婚約者を選べるだろう。そしてその令嬢が新たにこの帯同メンバーに加わるのだろう。
せめて、アンネマリー始めとする婚約者仲間であった彼女達が、これからもアリアドネを友人と思ってくれたなら。
そんな事を考えるうちに、食堂が見えて来た。
殿下とアンネマリーが教室を出るまでに数分は待つから、食堂に着く頃には大方の生徒は既に食事を始めている。
要は、殆どの生徒が揃った後で、フランシス殿下とアンネマリーは食堂に入る事となる。
異変には直ぐに気が付いた。
漂う空気が違う。
アリアドネは、王族と準王族に帯同していたから、彼等が注目を集めるが為に自身も多くの目に晒される生活を日常として来た。
だから、注視されるのには慣れていた。
だが、今感じた違和感は平素と異なる視線にあるらしい。
向けられる視線の類が違う。貴人に対する羨望や憧憬は常よりあるが、その中にどこか下卑た類のものが紛れ込んでいる。
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