10 / 65
【10】
しおりを挟む
「パトリシア、ごめんなさい。多分無理だわ。」
「何が?」
「その、婚約者との情報交換よ。」
「まあ。」
「分かるでしょう?私達には無理だと。」
「貴女ではなくて、彼でしょう?無理なのは。」
「分かってくれる?貴女だから言うのだけど、」
そこでアリアドネは、周りに視線を巡らせ側に誰もいない事を確かめてから声を潜めた。
「私、本当のところ、あの方とは婚約を解消すべきだと思っているの。」
「真逆、」
「以前、お父様にお話ししたの。」
「それで?」
「当時は婚約して一年ほど経つ頃だったのだけれど、」
「だけれど?」
「早いと。」
「まあ。」
「あれからもうすぐ一年経つわ。そろそろ頃合いだと思っていたの。」
「お相手はどうするの?」
「侯爵家の令嬢なら上級生にも下級生にもいるじゃない?彼のお目当ては生家と同等の爵位でしょうから、婚約者が変わっても構わないと思うのよ。気の合う方がいらしたら、そちらのご令嬢から選んだら良いでしょう。」
「アリアドネ。私が言っているのはハデス様ではなくてよ。貴女よ、貴女。」
「わ、私?」
「貴女こそ新たな婚約者を探さなければならないわよ。」
「そうよね、そうよね..」
「ええっと、申し訳ない、パトリシア嬢。そろそろ授業が始まるよ。」
「まあ、ごめんなさい、ロジャー様。ご迷惑をお掛けしました。じゃあ、アリアドネ、また後で。」
そう言うとパトリシアは、来た時と同じ様に席と席の間を泳ぐ様に優雅な所作で戻って行った。
「ロジャー様、申し訳ありませんでした。もしかして、ずっと待っていらしたの?」
あれ程周囲に気を張っていた筈なのに、ロジャーの気配に全く気付かなかった。
そうして、不思議な程にロジャーは不審感を抱かせない気安さがある。
「いや、たった今来たところだよ。気にしないで。」
ロジャーは爽やかな笑みでアリアドネに答えた。
これよね。自然と続く滑らかな会話に締めの笑み。これが心地良い会話と言うものだわ。
アリアドネは、この数秒で既に両手の指でも数えられない文字数分、会話が成り立つ事に感動した。
「情報収集、か。」
「え?何が?」
「ああ、いえ、独り言なの。」
授業中であるのに、つい先程のパトリシアとの会話を思い返していた。
今、アリアドネ達に出来る事に情報収集があるとして、女子生徒からの収集は頑張れるかもしれないが、男子生徒となると。
弟に協力を願おうか。ヘンドリックはまだ一年生だが、彼は顔が広い。アリアドネとは違う。
「そうね、そうしましょう。」
「え?何が?」
「ああ、いえ、独り言なの。」
そうとなれば、今晩早速相談しましょうそうしましょう。
ああ、そうだわ。お父様に、そろそろ婚約の解消についてもう一度お話ししてみよう。
ハデス様だって早い方が良いでしょう。
「そうね、そうしましょう。」
「え?何が?」
「ああ、いえ、御免なさい。独り言なの。」
「はは、今日は独り言が多いね。」
「ええ、まあ、そうかも。」
「悩み事?」
「まあ、そうね。」
「相談なら僕にも乗れる事があるかも知れないよ。」
「え?ロジャー様に?」
「うん。無理にとは言わないよ。ただ相談して気が楽になるならと思ってね。」
アリアドネは考えた。今は授業中なのだが、思いっ切り考えてみた。
良いかも知れない。ロジャーは文官職にある父伯爵に似たのか、物事を把握したり取り纏めるのに長けている。それは普段の授業の様子から分かっていた。
何よりこの会話。情報交換が可能となる。文字数なんて数える必要も無い。自然に話せる、言葉のキャッチボールが成立する、そうして締めは笑顔!良くないかこれ、三拍子揃っている。
アリアドネは決して不用心では無い。
アンネマリーに侍る事から十分用心深い。
その用心アンテナがロジャーには警報を示さない。
「ロジャー様、本当にご相談しても良いのかしら。」
「勿論だよ。」
「では放課後に図書室とか、」
「承知した。図書室だね。」
悩む間もなく交渉は成立した。爽やか青年ロジャーはアリアドネからするすると会話を引き出した。
そしてやはり締めに素敵な笑みを披露した。
「何が?」
「その、婚約者との情報交換よ。」
「まあ。」
「分かるでしょう?私達には無理だと。」
「貴女ではなくて、彼でしょう?無理なのは。」
「分かってくれる?貴女だから言うのだけど、」
そこでアリアドネは、周りに視線を巡らせ側に誰もいない事を確かめてから声を潜めた。
「私、本当のところ、あの方とは婚約を解消すべきだと思っているの。」
「真逆、」
「以前、お父様にお話ししたの。」
「それで?」
「当時は婚約して一年ほど経つ頃だったのだけれど、」
「だけれど?」
「早いと。」
「まあ。」
「あれからもうすぐ一年経つわ。そろそろ頃合いだと思っていたの。」
「お相手はどうするの?」
「侯爵家の令嬢なら上級生にも下級生にもいるじゃない?彼のお目当ては生家と同等の爵位でしょうから、婚約者が変わっても構わないと思うのよ。気の合う方がいらしたら、そちらのご令嬢から選んだら良いでしょう。」
「アリアドネ。私が言っているのはハデス様ではなくてよ。貴女よ、貴女。」
「わ、私?」
「貴女こそ新たな婚約者を探さなければならないわよ。」
「そうよね、そうよね..」
「ええっと、申し訳ない、パトリシア嬢。そろそろ授業が始まるよ。」
「まあ、ごめんなさい、ロジャー様。ご迷惑をお掛けしました。じゃあ、アリアドネ、また後で。」
そう言うとパトリシアは、来た時と同じ様に席と席の間を泳ぐ様に優雅な所作で戻って行った。
「ロジャー様、申し訳ありませんでした。もしかして、ずっと待っていらしたの?」
あれ程周囲に気を張っていた筈なのに、ロジャーの気配に全く気付かなかった。
そうして、不思議な程にロジャーは不審感を抱かせない気安さがある。
「いや、たった今来たところだよ。気にしないで。」
ロジャーは爽やかな笑みでアリアドネに答えた。
これよね。自然と続く滑らかな会話に締めの笑み。これが心地良い会話と言うものだわ。
アリアドネは、この数秒で既に両手の指でも数えられない文字数分、会話が成り立つ事に感動した。
「情報収集、か。」
「え?何が?」
「ああ、いえ、独り言なの。」
授業中であるのに、つい先程のパトリシアとの会話を思い返していた。
今、アリアドネ達に出来る事に情報収集があるとして、女子生徒からの収集は頑張れるかもしれないが、男子生徒となると。
弟に協力を願おうか。ヘンドリックはまだ一年生だが、彼は顔が広い。アリアドネとは違う。
「そうね、そうしましょう。」
「え?何が?」
「ああ、いえ、独り言なの。」
そうとなれば、今晩早速相談しましょうそうしましょう。
ああ、そうだわ。お父様に、そろそろ婚約の解消についてもう一度お話ししてみよう。
ハデス様だって早い方が良いでしょう。
「そうね、そうしましょう。」
「え?何が?」
「ああ、いえ、御免なさい。独り言なの。」
「はは、今日は独り言が多いね。」
「ええ、まあ、そうかも。」
「悩み事?」
「まあ、そうね。」
「相談なら僕にも乗れる事があるかも知れないよ。」
「え?ロジャー様に?」
「うん。無理にとは言わないよ。ただ相談して気が楽になるならと思ってね。」
アリアドネは考えた。今は授業中なのだが、思いっ切り考えてみた。
良いかも知れない。ロジャーは文官職にある父伯爵に似たのか、物事を把握したり取り纏めるのに長けている。それは普段の授業の様子から分かっていた。
何よりこの会話。情報交換が可能となる。文字数なんて数える必要も無い。自然に話せる、言葉のキャッチボールが成立する、そうして締めは笑顔!良くないかこれ、三拍子揃っている。
アリアドネは決して不用心では無い。
アンネマリーに侍る事から十分用心深い。
その用心アンテナがロジャーには警報を示さない。
「ロジャー様、本当にご相談しても良いのかしら。」
「勿論だよ。」
「では放課後に図書室とか、」
「承知した。図書室だね。」
悩む間もなく交渉は成立した。爽やか青年ロジャーはアリアドネからするすると会話を引き出した。
そしてやはり締めに素敵な笑みを披露した。
2,007
お気に入りに追加
2,832
あなたにおすすめの小説
アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
身代わりーダイヤモンドのように
Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。
恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。
お互い好きあっていたが破れた恋の話。
一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)
【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。
Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。
休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。
てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。
互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。
仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。
しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった───
※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』
の、主人公達の前世の物語となります。
こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。
❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる