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アリアドネが熱を出した日に参加していた茶会とは、ハデスが仕える王太子殿下の婚約者、公爵令嬢アンネマリーの邸で催された茶会であった。
未だ学生であるアリアドネ達に、貴族婦人の様な公の社交は殆ど無い。
母に連れられて出席する茶会か、王家主催の夜会が出番と言えば出番であって、後はこうして令嬢同士が互いに招き合って茶会を開いている。
それも社交のデモンストレーションである。身近な所から交流を図って、そうして茶会の流儀を身に付けていく。
しかしアリアドネの場合は様相が異なっていた。
アリアドネが呼ばれる先は高位貴族の最上階級に位置する公爵家の邸で、その令嬢アンネマリーはあと数年で王席に入る準王族である。
他に呼ばれる令嬢も皆、ハデスと同じ側近候補の婚約者であるから、同年代の高位貴族令嬢が集まる会となる。
アリアドネの他には、ウォーター侯爵家令嬢のパトリシア。彼女は宰相を務めるランド侯爵家嫡男ブライアンの婚約者である。
もう一人、騎士団長であるレイノルズ伯爵の嫡男ギルバートの婚約者が、マグレイブ伯爵令嬢のヴィクトリアであった。
王太子に仕える三人の子息、そしてその婚約者であるアンネマリーと三人の令嬢達。彼らが未来の王制に関わる事は、その背後の生家が今現在、国内で権勢を振るっていると言うことを意味していた。
王都にある学園は、国内最大の貴族学園である。近年では新興貴族や平民の富裕層が台頭しており、身分を超えた入学が認められる様になって、彼等の子女らも学園には多くいた。
身分の垣根は父の代と比べても随分と低くなり、平民であっても能力のある者もいるのを貴族子女らも認めていたから、学園でもそれなりの交流が図られていた。
けれども、王太子殿下を筆頭に彼に侍る側近候補とその婚約者達は別格である。
彼等の耳目はその親達にも通じているし、下手に関わって面倒な事に巻き込まれるのは御免とばかりに、アリアドネ達は学園の中にあっても何処か遠巻きに見られていた。
言い方を変えるなら「憧れの高貴な集団」なのであった。
しかしそれは平民や低位貴族の考えで、高位貴族の子女らは、学園で共に学ぶこの機会にお近付きになりたいと願っているのは真実だろう。
学園は貴族の社交の縮図である。
卒業してしまえば遠く離れた領地に帰る者は多い。何の為に遥々王都の学園に通うのか。家の為、己の将来の為であるから、アリアドネ達の様な高貴な集団は遠巻きにされながら、機会があるなら繋がりを持ちたいと虎視眈々と狙われる地位でもあった。
その日の茶会の話題も確か、とアリアドネは熱で浮かれた頭で思い出す。
確か、そんな風に高貴な集団に近付かんと行動力を発揮する子女等の話しであった。
そうそう、例えば見目の可憐な令嬢の話し。何と言ったかしら、ふ、ふ、ファニー、そうだわ確かファニーと云う名の令嬢だった。
モンド子爵令嬢ファニー。
ふわふわのミルクティーブラウンの髪に翠色の大きな瞳。何となく覚えがある。
確かに可憐な見目であった。可愛らしい令嬢だったと思う。
茶会の話題の大半は、ファニー子爵令嬢の話しであった。
低位貴族でありながら高位貴族にも、逆に平民の子息らにも幅広い人気を持つのだと言う。
そうだわ、そこでアンネマリー様が「見苦しい」と仰ったのだわ。
アリアドネは記憶を辿る内に、長い夢を見る前の現実、朧げだった記憶が鮮明に思い出されて来た。
未だ学生であるアリアドネ達に、貴族婦人の様な公の社交は殆ど無い。
母に連れられて出席する茶会か、王家主催の夜会が出番と言えば出番であって、後はこうして令嬢同士が互いに招き合って茶会を開いている。
それも社交のデモンストレーションである。身近な所から交流を図って、そうして茶会の流儀を身に付けていく。
しかしアリアドネの場合は様相が異なっていた。
アリアドネが呼ばれる先は高位貴族の最上階級に位置する公爵家の邸で、その令嬢アンネマリーはあと数年で王席に入る準王族である。
他に呼ばれる令嬢も皆、ハデスと同じ側近候補の婚約者であるから、同年代の高位貴族令嬢が集まる会となる。
アリアドネの他には、ウォーター侯爵家令嬢のパトリシア。彼女は宰相を務めるランド侯爵家嫡男ブライアンの婚約者である。
もう一人、騎士団長であるレイノルズ伯爵の嫡男ギルバートの婚約者が、マグレイブ伯爵令嬢のヴィクトリアであった。
王太子に仕える三人の子息、そしてその婚約者であるアンネマリーと三人の令嬢達。彼らが未来の王制に関わる事は、その背後の生家が今現在、国内で権勢を振るっていると言うことを意味していた。
王都にある学園は、国内最大の貴族学園である。近年では新興貴族や平民の富裕層が台頭しており、身分を超えた入学が認められる様になって、彼等の子女らも学園には多くいた。
身分の垣根は父の代と比べても随分と低くなり、平民であっても能力のある者もいるのを貴族子女らも認めていたから、学園でもそれなりの交流が図られていた。
けれども、王太子殿下を筆頭に彼に侍る側近候補とその婚約者達は別格である。
彼等の耳目はその親達にも通じているし、下手に関わって面倒な事に巻き込まれるのは御免とばかりに、アリアドネ達は学園の中にあっても何処か遠巻きに見られていた。
言い方を変えるなら「憧れの高貴な集団」なのであった。
しかしそれは平民や低位貴族の考えで、高位貴族の子女らは、学園で共に学ぶこの機会にお近付きになりたいと願っているのは真実だろう。
学園は貴族の社交の縮図である。
卒業してしまえば遠く離れた領地に帰る者は多い。何の為に遥々王都の学園に通うのか。家の為、己の将来の為であるから、アリアドネ達の様な高貴な集団は遠巻きにされながら、機会があるなら繋がりを持ちたいと虎視眈々と狙われる地位でもあった。
その日の茶会の話題も確か、とアリアドネは熱で浮かれた頭で思い出す。
確か、そんな風に高貴な集団に近付かんと行動力を発揮する子女等の話しであった。
そうそう、例えば見目の可憐な令嬢の話し。何と言ったかしら、ふ、ふ、ファニー、そうだわ確かファニーと云う名の令嬢だった。
モンド子爵令嬢ファニー。
ふわふわのミルクティーブラウンの髪に翠色の大きな瞳。何となく覚えがある。
確かに可憐な見目であった。可愛らしい令嬢だったと思う。
茶会の話題の大半は、ファニー子爵令嬢の話しであった。
低位貴族でありながら高位貴族にも、逆に平民の子息らにも幅広い人気を持つのだと言う。
そうだわ、そこでアンネマリー様が「見苦しい」と仰ったのだわ。
アリアドネは記憶を辿る内に、長い夢を見る前の現実、朧げだった記憶が鮮明に思い出されて来た。
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