アダムとイヴ

桃井すもも

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楽園

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この方は、言葉巧みに乙女を惑わすイケナイ方だわ。
エデンの園の蛇とは、この方の事かしら。

私は、目の前の殿方をじっと見つめます。

「宜しく。イヴ嬢」
ああ、もう婚約者だからイヴと呼んでも良いよね、だなんて。

本当にこの方は、私が難しく考える物事を軽やかに飛び越えていかれます。

アダム様との婚約が解消された後、もうそれは直後という時に、シリル様から婚約の申し出がありました。

私は、それをお受けしました。

この方のお顔を見ていると、心が軽やかになるのです。

あのキラキラ光るガラスペンの様に、陽を受けて輝くシリル様の白銀の髪のように、世界の暗い物事が弾けて消えて、心の底からぽかぽかと温かくなるのです。

「婚約の記念をあげたくて、」

そう言ってシリル様がリボンの掛かった小箱を下さいました。

「ここで開けても?」
「勿論。」


図書室を出た直ぐ側の花壇のベンチに二人。並んで座って箱を開けます。

「綺麗...」
「気に入った?」
「ええ、とても。とても。」

陽の光を受けてキラキラと輝くガラスペン。
あの時、二人で見つめたガラスペン。

有難うございますシリル様、と見上げた私に、貴方様、口付けしたわね!

乙女の初めてを!

真っ赤な顔の私に、宜しく婚約者殿、と貴方は笑った。

イヴを惑わす楽園の蛇?
楽園で果実を実らす大樹の精(Cyrilシリル)?

どちらでも良いわ。
どちら共でも良いわ。
どんな貴方でも愛せるわ。

私、もうミス・アベレージではないのだもの。
貴方が私を「特別」にしてくれたから。

眩しい貴方を見つめて、私は心から幸せだと思ったのです。



               End


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