アダムとイヴ

桃井すもも

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罪と罰2

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斯々然々(かくかくしかじか)。

つい先程の事をお話ししました。

こんな詰まらない恥ずかしい事を、殿方にお話しするなんて。

けれども、シリル様は黙ってお聞き下さいました。

この方は、本当に不思議な方です。
心が素直になってしまって、嘘が言えなくなるのです。

「で、目的の物は買えたの?」

まさかここでそんな事を聞かれるなんて。
"シリル様視点"に驚きました。

でも、確かに。
インクは買っておりません。
お店をそのまま出て来たのですから。

「じゃあ、もう一度行こう。」
迎えはまだでしょ?

シリル様は何事も軽やかになさいます。

難しく考える私の気持ちは、何だかとても軽くなって、そうだインク買おう!と思える位になったのです。

そうして二人連れ立って、件の文具屋さんに入ります。

あれこれインクを手にとって、ついつい欲が出てしまい、目移りしながら何色か購入しました。

それから、そうそう、と思い出して
「シリル様、こちらへいらして?」
こっちこっちと手招きをして、ショーウィンドウの日差しに輝くガラスペンを指差します。

「えー、綺麗だねぇ。」
「そうでしょう。日差しの加減で微妙に色が変わりますね。」
あーでもないこーでもないと感想を述べあいます。

いつの間にか、
先程見たお二人の光景が、心の中から薄まって行くように感じられました。

目の前のキラキラ光るガラスと、キラキラ光るシリル様の白銀の髪が、綺麗だったからかもしれません。



そうして、その後程無くして、私とアダム様の婚約は解消されました。


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