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ローレンから王家に纏わる詳細を聞かされた日から程なくして、ルイの婚約が正式に発表された。
ルイは、王太子の婚約者であった隣国第一王女と婚姻し王配となる。母国に帰国はせずに、このまま隣国にて王配教育を受けるという。
隣国第一王女はローレンの下ヘ嫁ぎ、隣国はその後、第二王女が立太子して後々女王に即位する予定であった。
幼少の頃より帝王学を教え込まれ、将来の女王陛下として教育を施されていたのを、ローレンとの婚約が結ばれたのは第一王女自らの強い願いがあったからである。
我が儘という言葉では済まされない大事であるのを、妹である第二王女が姉の役目を引き受けると言ったが為に、実現した事であった。
第一王女が再びそれを反故にして、今度はルイを王配に未来の女王として国に残ることを望んだ事実に、近隣諸国に於いて隣国は、色恋で契約事を容易に覆す信用ならない国として遠巻きに見られている。
そうまでして第一王女の意を汲む隣国の思惑は不明である。
ルイの婚約発表に併せて、ローレンの婚約者選定が行われる事も発表された。候補者は公表されずとも、暗黙の了解で皆が知るところとなっていた。
そうして初冬を迎えたその年の11月、事態は大きく動く。
国王陛下が狐狩りの最中に落馬した。
何かに驚いたらしい馬が、王を背に乗せたまま大きく仰け反って立ち上がり、王は振り落される形で背から落下した。
幸い、頭も背骨も腰にも異常は見られずに、右足を骨折するもその程度の負傷で済んだのは奇跡と思われた。
しかし、その骨折が思わぬ仇(あだ)となる。
骨折した際に可怪しな方向へ捻れてしまった右足は、それを正常な位置に戻せぬままに癒合してしまった。
先ず、見た目に違和感を感じさせる。捻れて自然には向かない方向を向いてしまったのだから仕方が無い。
歩行する度に、肩を左右に傾げて大きく揺らし右足を引きずり歩く。一歩歩くのにその動作なので、真っ直ぐ歩くのも容易でない。
杖を着けば幾分歩き易いが、洒落者でまだ四十前の壮年期であった王は、己の無様な姿を人目に晒したくないとすっかり塞ぎ込み、執務にも碌に手が付かない。
骨折が治癒するのにたっぷり三月。
歩行訓練をする頃には、ローレンの学園卒業を目前にしていた。
学生の身でありながら、立太子してからは王の執務も充てがわれていたローレンは、陛下が治療に専念出来るようにと、執務の大半を引き受けた。
あとは王のサインを残すだけという状態まで仕上げて執務に当たった。
無論、宰相初め文官達の働きがあってこそ為せる事であるが、閣議は勿論議会にも参加し政務に邁進するローレンの真摯な姿は、貴族達の目に確かな未来の為政者としてその姿を焼き付けた。
ローレンが学園を卒業すると同時に、王は療養と云う名目で離宮に移った。
塞ぎ込んだまま気の病を併発し、物事を矢鱈と悪く捉えてしまう。好奇心旺盛であったのが、気力を無くし何に対しても意欲が沸かない。日常すらまともに過ごせなくなった王に、政(まつりごと)は無理であろうと判断された。
王の蟄居には当然ながら王妃も同伴する。
国王陛下の席に空白は無い。
間もなくローレンは即位をした。
青年王の誕生である。
全ては前国王の不慮の事故を発端とした交代劇であった。偶然が齎した事であったが、ローレンは無血で王位を得たのである。
王妃の選考も大詰めであろうと目されている。
今や国中、若く美しい国王陛下の即位に沸いている。もう、隣国王女の勝手に巻き込まれた第二王子が隣国へ渡った事も、遠い過去の出来事の様に霞んでしまった。
何だかとっても濃い一年であった。
春を迎えて学年も上がり、ソフィアは二年生となった。
思い起こせば一年前の冬、ルイの婚約者候補に挙げられて、学園に入ったその日からピンク頭の暴挙に悩まされ、ルイは隣国に渡ってそのまま王女の婚約者になってしまい、陛下は負傷し蟄居した。
そうして、とうとうローレンが国王陛下に即位した。
色々あり過ぎて、どっと老け込んだ気持ちになるソフィア。
けれども、国が荒れずに済んだことは何よりの幸いであった。一時は、学園に通いながらも張り詰めた空気をひしひしと感じていたが、それも前陛下の蟄居で幕引きとなった。
卒業までのローレンとは、学園で擦れ違う際に挨拶をする程度であった。
婚約者の選定も、王の落馬から始まる国政の激変に後手に回っていた。
ローレンは少し窶れて見えた。
擦れ違う際には笑みを向けてくれるも、言葉らしい言葉は交わせず終いであった。
ローレンは大丈夫だろうか。ちゃんと休めているのだろうか。
顔を合わせる事の無くなったローレンに、いつしかソフィアが考えるのは、御身を案ずる事ばかりなっていた。
ルイは、王太子の婚約者であった隣国第一王女と婚姻し王配となる。母国に帰国はせずに、このまま隣国にて王配教育を受けるという。
隣国第一王女はローレンの下ヘ嫁ぎ、隣国はその後、第二王女が立太子して後々女王に即位する予定であった。
幼少の頃より帝王学を教え込まれ、将来の女王陛下として教育を施されていたのを、ローレンとの婚約が結ばれたのは第一王女自らの強い願いがあったからである。
我が儘という言葉では済まされない大事であるのを、妹である第二王女が姉の役目を引き受けると言ったが為に、実現した事であった。
第一王女が再びそれを反故にして、今度はルイを王配に未来の女王として国に残ることを望んだ事実に、近隣諸国に於いて隣国は、色恋で契約事を容易に覆す信用ならない国として遠巻きに見られている。
そうまでして第一王女の意を汲む隣国の思惑は不明である。
ルイの婚約発表に併せて、ローレンの婚約者選定が行われる事も発表された。候補者は公表されずとも、暗黙の了解で皆が知るところとなっていた。
そうして初冬を迎えたその年の11月、事態は大きく動く。
国王陛下が狐狩りの最中に落馬した。
何かに驚いたらしい馬が、王を背に乗せたまま大きく仰け反って立ち上がり、王は振り落される形で背から落下した。
幸い、頭も背骨も腰にも異常は見られずに、右足を骨折するもその程度の負傷で済んだのは奇跡と思われた。
しかし、その骨折が思わぬ仇(あだ)となる。
骨折した際に可怪しな方向へ捻れてしまった右足は、それを正常な位置に戻せぬままに癒合してしまった。
先ず、見た目に違和感を感じさせる。捻れて自然には向かない方向を向いてしまったのだから仕方が無い。
歩行する度に、肩を左右に傾げて大きく揺らし右足を引きずり歩く。一歩歩くのにその動作なので、真っ直ぐ歩くのも容易でない。
杖を着けば幾分歩き易いが、洒落者でまだ四十前の壮年期であった王は、己の無様な姿を人目に晒したくないとすっかり塞ぎ込み、執務にも碌に手が付かない。
骨折が治癒するのにたっぷり三月。
歩行訓練をする頃には、ローレンの学園卒業を目前にしていた。
学生の身でありながら、立太子してからは王の執務も充てがわれていたローレンは、陛下が治療に専念出来るようにと、執務の大半を引き受けた。
あとは王のサインを残すだけという状態まで仕上げて執務に当たった。
無論、宰相初め文官達の働きがあってこそ為せる事であるが、閣議は勿論議会にも参加し政務に邁進するローレンの真摯な姿は、貴族達の目に確かな未来の為政者としてその姿を焼き付けた。
ローレンが学園を卒業すると同時に、王は療養と云う名目で離宮に移った。
塞ぎ込んだまま気の病を併発し、物事を矢鱈と悪く捉えてしまう。好奇心旺盛であったのが、気力を無くし何に対しても意欲が沸かない。日常すらまともに過ごせなくなった王に、政(まつりごと)は無理であろうと判断された。
王の蟄居には当然ながら王妃も同伴する。
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全ては前国王の不慮の事故を発端とした交代劇であった。偶然が齎した事であったが、ローレンは無血で王位を得たのである。
王妃の選考も大詰めであろうと目されている。
今や国中、若く美しい国王陛下の即位に沸いている。もう、隣国王女の勝手に巻き込まれた第二王子が隣国へ渡った事も、遠い過去の出来事の様に霞んでしまった。
何だかとっても濃い一年であった。
春を迎えて学年も上がり、ソフィアは二年生となった。
思い起こせば一年前の冬、ルイの婚約者候補に挙げられて、学園に入ったその日からピンク頭の暴挙に悩まされ、ルイは隣国に渡ってそのまま王女の婚約者になってしまい、陛下は負傷し蟄居した。
そうして、とうとうローレンが国王陛下に即位した。
色々あり過ぎて、どっと老け込んだ気持ちになるソフィア。
けれども、国が荒れずに済んだことは何よりの幸いであった。一時は、学園に通いながらも張り詰めた空気をひしひしと感じていたが、それも前陛下の蟄居で幕引きとなった。
卒業までのローレンとは、学園で擦れ違う際に挨拶をする程度であった。
婚約者の選定も、王の落馬から始まる国政の激変に後手に回っていた。
ローレンは少し窶れて見えた。
擦れ違う際には笑みを向けてくれるも、言葉らしい言葉は交わせず終いであった。
ローレンは大丈夫だろうか。ちゃんと休めているのだろうか。
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