ソフィアの選択

桃井すもも

文字の大きさ
上 下
15 / 32

【15】

しおりを挟む
「私の婚約者は君たちから選定することになる。ああ、残念ながらアナスタシア嬢、君には抜けてもらうがね。」

その言葉にアナスタシアが身構える。

「君にもアダムにも辛い思いをさせたね。陛下には私から進言するよ。余りみっともない事をして欲しくないからね。」

アナスタシアは、涙を堪え切れないのを隠すように蹲ってしまった。

纏まりかけた縁談を壊してまで、己の息子に充てがおうとした国王陛下。厚顔とはこの事ね!あれ?そう言えば、ルイ王子もアダム様にアナスタシア様を返すと言っていたわね。
あの学園の廊下で言葉を交わしたのを最後に、顔を合わせていないルイを思い出す。ど、どんな顔だったかしら?
薄情な婚約者候補である。

「では、私達三人から選定なさると?」

「まあ、そうなるかな。君たちには不自由をさせる。選定は速やかに行うよ。選定に漏れたからといって、くれぐれもご自分方に非が有ったなどと思わないで欲しい。些細な条件の違いであろうからね。」

えー。出来ればお姉様方からお選び下さいませ。王族とは観て楽しむものですわ。

思わず眉が下がってしまうソフィア。


今日のダンスレッスンは仕舞いである。こんなんではダンスどころでは無い。教師もこんな話を耳に入れて良かったのか、真逆口封じされるのではと顔面蒼白びびっている。

「さあ、今日はこれで解散としよう。アナスタシア嬢、外でアダムが待っているよ。」

元々麗しい笑みに麗しさマシマシに、王太子殿下はアナスタシアを促した。

皆、それぞれの邸にて親達に説明が必要であろう。そそくさと帰り支度を始めた。
ソフィアも父と兄の耳には入れねばならない。
はぁ、結局候補からは逃げられなかった。
ここは公爵家令嬢のお二人に、お家の力を総動員して頑張って頂きたい。
どちらも王家の血筋に当たる公爵家ですもの。もうこれはお姉様方で決まりね。選定は速やかに行うと仰っていらしたから、自由はもうすぐそこよ。頑張れソフィア、負けるなソフィア。

自分で自分にエールを送っていると、背中に声を掛けられた。

「ソフィア嬢。少しばかり残ってくれないか。君には説明しておかなければならない事がある。」

アナスタシアを先頭に、お姉様方も教師も既に退室していた。呑気な考え事に時間を取られたソフィアが出遅れた所で、ローレン王太子殿下に声を掛けられたのであった。



王城の貴賓室に始めて入った。
人払いのされた貴賓室に王太子と唯二人。向かい合わせに座っているも、天井まで神々しい装飾にここは神殿?美術館?繊細な文様にあんぐり口を開けて眺めてしまった。

「ふっ、ソフィア嬢。宜しいか?」

「あ、はい。宜しいです!」恥ずかしい。

ソフィアに関わる説明とは、ピンク頭、もといアマンダ嬢の事であった。

「アマンダ嬢には王家の血が流ている可能性があった。」
「え!」
初っ端から波動砲を打ち込まれた。死んじゃう。

「まあ、その可能性は消えたがね。初めから説明しよう。アマンダの母には祖父の娘である可能性があったんだよ。

祖父が手を付けた女官の娘がアマンダの母さ。その女官の娘が男爵との子を出産したときから、アマンダの存在に王家は注視していた。

男爵家に引き取られてからも、王家は彼女から目を離さなかった。奔放な気質であったようだからね、あちこちで種を貰って孕んで、王家の血を無闇に撒き散らしてもらっては困るのさ。

アマンダは本来、赤子のうちに処分される筈だった。そこに意見をしたの陛下だよ。君も知る通り、現在王族の数は極端に少ない。貴重な王家の血を無駄にしたくなかったのだろう。それで、」

そこで一口お茶を含む。ソフィアも倣ってお茶に口を付ける。

「それで、陛下は命じたのさ。アマンダが本当に王家の血筋であるのか。王家の特長が受け継がれているかを調べよと。命じられたのがルイだった。

ああ、宰相家や騎士団の息子達は違うよ?あれ等は勝手にアマンダに骨抜きにされただけだよ。

それで、その特長なんだがね。王家の血を引く者には痣がある。ここに。」

そう言って、ローレン王太子殿下は徐ろに足を広げて片方を上げ、内腿の果てしなく足の付根部分を指で示した。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

いっそあなたに憎まれたい

石河 翠
恋愛
主人公が愛した男には、すでに身分違いの平民の恋人がいた。 貴族の娘であり、正妻であるはずの彼女は、誰も来ない離れの窓から幸せそうな彼らを覗き見ることしかできない。 愛されることもなく、夫婦の営みすらない白い結婚。 三年が過ぎ、義両親からは石女(うまずめ)の烙印を押され、とうとう離縁されることになる。 そして彼女は結婚生活最後の日に、ひとりの神父と過ごすことを選ぶ。 誰にも言えなかった胸の内を、ひっそりと「彼」に明かすために。 これは婚約破棄もできず、悪役令嬢にもドアマットヒロインにもなれなかった、ひとりの愚かな女のお話。 この作品は小説家になろうにも投稿しております。 扉絵は、汐の音様に描いていただきました。ありがとうございます。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

夫は私を愛してくれない

はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」 「…ああ。ご苦労様」 彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。 二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。

【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様

すだもみぢ
恋愛
伯爵令嬢であるカリンは、隣の辺境伯の息子であるデュークが苦手だった。 彼の悪戯にひどく泣かされたことがあったから。 そんな彼が成長し、年の離れたカリンの姉、ヨーランダと付き合い始めてから彼は変わっていく。 ヨーランダは世紀の淑女と呼ばれた女性。 彼女の元でどんどんと洗練され、魅力に満ちていくデュークをカリンは傍らから見ていることしかできなかった。 しかしヨーランダはデュークではなく他の人を選び、結婚してしまう。 それからしばらくして、カリンの元にデュークから結婚の申し込みが届く。 私はお姉さまの代わりでしょうか。 貴方が私に優しくすればするほど悲しくなるし、みじめな気持ちになるのに……。 そう思いつつも、彼を思う気持ちは抑えられなくなっていく。 8/21 MAGI様より表紙イラストを、9/24にはMAGI様の作曲された この小説のイメージソング「意味のない空」をいただきました。 https://www.youtube.com/watch?v=L6C92gMQ_gE MAGI様、ありがとうございます! イメージが広がりますので聞きながらお話を読んでくださると嬉しいです。

あなたへの恋心を消し去りました

恋愛
 私には両親に決められた素敵な婚約者がいる。  私は彼のことが大好き。少し顔を見るだけで幸せな気持ちになる。  だけど、彼には私の気持ちが重いみたい。  今、彼には憧れの人がいる。その人は大人びた雰囲気をもつ二つ上の先輩。  彼は心は自由でいたい言っていた。  その女性と話す時、私には見せない楽しそうな笑顔を向ける貴方を見て、胸が張り裂けそうになる。  友人たちは言う。お互いに干渉しない割り切った夫婦のほうが気が楽だって……。  だから私は彼が自由になれるように、魔女にこの激しい気持ちを封印してもらったの。 ※このお話はハッピーエンドではありません。 ※短いお話でサクサクと進めたいと思います。

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」 「はい、愛しています」 「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」 「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」 「え……?」 「さようなら、どうかお元気で」  愛しているから身を引きます。 *全22話【執筆済み】です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/09/12 ※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください! 2021/09/20  

処理中です...