ソフィアの選択

桃井すもも

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その知らせは突然齎された。
流石の父も、今回はうっかり留め置いたなどという事はなく、直ぐ様ソフィアに伝えてきた。

ルイ王子殿下が隣国ヘ留学したらしい。 

短期留学であるから、せいぜい数ヶ月のことであろうが、婚約者候補達にはなんの知らせも無く、既に王子が出立した後に王宮からの文にて知らされた。

これから留学するんだ寂しくなるよ、なんて別れの挨拶をされても困るけれど。
あ~、あれね。ピンクとの縁を切り損ねたのね。それでもって、王家に無理やり引き離されたんだわ。

ソフィアは、勝手な妄想を頭の中で繰り広げる。
王子が関わらなければ身辺も静かになる筈。やれやれ漸く。と、王子の不在を喜ぶソフィア。
兄も姉達も複雑な表情で見守っている。

そんな家族の様子に、どうしたの?と聞いてみれば、寂しくはないのかと逆に聞かれたので、全く。寧ろそのまま帰って来なくて良いと答えれば、食卓の温度が一気に下がった。様な気がした。

残念ながら、妃教育は続いている。
まあ、王家のお金で国有数の教育者から学べる機会は貴重である。特に外国語!
これさえクリア出来たなら、将来他国に逃げ込む道も開ける。

邪魔者が一匹もいなくなった学園で鬼の集中力を発揮したあとは、邸に戻って妃教育を受ける。全く乙女らしからぬ生活なのに、ソフィアにとっては100点満点、この充実した暮らしをそう評価していた。

これぞ学生。外野の声に惑わされる事なく思いっきり学ぶのよ。

そんな月日が数ヶ月。
当然ながら、ソフィアは王子に文など一度も書いていない。だから当然、王子からも文は届かない。

公爵令嬢のお姉様方は頻繁に文を送っているらしく、返信もきちんとあるらしい。
良いんじゃないかい?そのまま姉さん女房、有りです。
お二人には是非とも頑張って頂いて、ソフィアとアナスタシアを解放して欲しい。
周囲が聞いたなら青くなりそうな事を、お口はチャックで考える。

それともう一つ。
この数ヶ月で変わったことは、ダンスの授業の再開である。
な、な、な、な、なんと!
ローレン王太子殿下自らお相手役を担って下さっている。

もう、この世に思い残す事は無いわね。
金色に烟る髪が窓から差し込む陽の光を受けてきらきらと耀く。こちらを見下ろすロイヤルブルーの瞳の透明度!あの瞳が湖ならば飛び込んで溺れてしまいたい。

見つめ合いターンで視線が外れるのも惜しいとばかりに、殿下の視線を追う。

はあ~素敵。
歌劇の男役に惚れ込む御婦人の気持ちが良く分かる。この国に生まれて幸せだわ。何れこのお方は国王陛下になられる。そうすれば、新年の絵姿も売られるだろうし、絶対毎年購入するわ!

アイドルに憧れる乙女の気分を思う存分堪能するソフィア。
公爵令嬢のお姉様方はもぉーっと凄い。
「殿下、汗が。」なんて言いながら、ハンカチをそっと当てたりして。あれ、絶対洗わないわね。私の分もお願いしたいわ。来週はハンカチ多めに持って来よう。
アナスタシアのみ平常心で稽古に励むのであった。



「あ~、ソフィア。殿下はいつ頃お戻りになるのだ?」

え?どっちの殿下?
最近ではルイ王子殿下よりもローレン王太子殿下との交流の方が頻繁になっていたソフィア。
晩餐の席で父に尋ねられて一瞬迷った。察したらしい兄が「ルイ王子殿下だよ。」ナイスフォローをしてくれた。

知るわけないじゃない、そんな事。第一、文すらやり取りしてないのよ?

言葉に出せず黙する娘に、コイツに聞いても無駄だったと解ったらしい父が、もう半年になるではないか。と八つ当たりめいたことを言ってくる。

「お父様が王宮でお確かめになれば宜しいのでは?」
しれっと返せば、むむむと口籠る。

良いじゃない、帰って来なくて。
ピンク令嬢はあの後暫く、ほっぺ真っ赤令嬢になっていたが、それが紫色に変わる頃に姿を消した。多分、父親と一緒に領地に行ったのね。学園は幾つもあるし、彼女なら何処でも生きられるわね。

そんな事をつらつらと考えたその週末に、ダンスのレッスンのため王城に集まったご令嬢四名。

教師と王太子殿下がいらっしゃるまでの控えの間で、とんでもニュースを聞いてしまった。





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