13 / 32
【13】
しおりを挟む
その知らせは突然齎された。
流石の父も、今回はうっかり留め置いたなどという事はなく、直ぐ様ソフィアに伝えてきた。
ルイ王子殿下が隣国ヘ留学したらしい。
短期留学であるから、せいぜい数ヶ月のことであろうが、婚約者候補達にはなんの知らせも無く、既に王子が出立した後に王宮からの文にて知らされた。
これから留学するんだ寂しくなるよ、なんて別れの挨拶をされても困るけれど。
あ~、あれね。ピンクとの縁を切り損ねたのね。それでもって、王家に無理やり引き離されたんだわ。
ソフィアは、勝手な妄想を頭の中で繰り広げる。
王子が関わらなければ身辺も静かになる筈。やれやれ漸く。と、王子の不在を喜ぶソフィア。
兄も姉達も複雑な表情で見守っている。
そんな家族の様子に、どうしたの?と聞いてみれば、寂しくはないのかと逆に聞かれたので、全く。寧ろそのまま帰って来なくて良いと答えれば、食卓の温度が一気に下がった。様な気がした。
残念ながら、妃教育は続いている。
まあ、王家のお金で国有数の教育者から学べる機会は貴重である。特に外国語!
これさえクリア出来たなら、将来他国に逃げ込む道も開ける。
邪魔者が一匹もいなくなった学園で鬼の集中力を発揮したあとは、邸に戻って妃教育を受ける。全く乙女らしからぬ生活なのに、ソフィアにとっては100点満点、この充実した暮らしをそう評価していた。
これぞ学生。外野の声に惑わされる事なく思いっきり学ぶのよ。
そんな月日が数ヶ月。
当然ながら、ソフィアは王子に文など一度も書いていない。だから当然、王子からも文は届かない。
公爵令嬢のお姉様方は頻繁に文を送っているらしく、返信もきちんとあるらしい。
良いんじゃないかい?そのまま姉さん女房、有りです。
お二人には是非とも頑張って頂いて、ソフィアとアナスタシアを解放して欲しい。
周囲が聞いたなら青くなりそうな事を、お口はチャックで考える。
それともう一つ。
この数ヶ月で変わったことは、ダンスの授業の再開である。
な、な、な、な、なんと!
ローレン王太子殿下自らお相手役を担って下さっている。
もう、この世に思い残す事は無いわね。
金色に烟る髪が窓から差し込む陽の光を受けてきらきらと耀く。こちらを見下ろすロイヤルブルーの瞳の透明度!あの瞳が湖ならば飛び込んで溺れてしまいたい。
見つめ合いターンで視線が外れるのも惜しいとばかりに、殿下の視線を追う。
はあ~素敵。
歌劇の男役に惚れ込む御婦人の気持ちが良く分かる。この国に生まれて幸せだわ。何れこのお方は国王陛下になられる。そうすれば、新年の絵姿も売られるだろうし、絶対毎年購入するわ!
アイドルに憧れる乙女の気分を思う存分堪能するソフィア。
公爵令嬢のお姉様方はもぉーっと凄い。
「殿下、汗が。」なんて言いながら、ハンカチをそっと当てたりして。あれ、絶対洗わないわね。私の分もお願いしたいわ。来週はハンカチ多めに持って来よう。
アナスタシアのみ平常心で稽古に励むのであった。
「あ~、ソフィア。殿下はいつ頃お戻りになるのだ?」
え?どっちの殿下?
最近ではルイ王子殿下よりもローレン王太子殿下との交流の方が頻繁になっていたソフィア。
晩餐の席で父に尋ねられて一瞬迷った。察したらしい兄が「ルイ王子殿下だよ。」ナイスフォローをしてくれた。
知るわけないじゃない、そんな事。第一、文すらやり取りしてないのよ?
言葉に出せず黙する娘に、コイツに聞いても無駄だったと解ったらしい父が、もう半年になるではないか。と八つ当たりめいたことを言ってくる。
「お父様が王宮でお確かめになれば宜しいのでは?」
しれっと返せば、むむむと口籠る。
良いじゃない、帰って来なくて。
ピンク令嬢はあの後暫く、ほっぺ真っ赤令嬢になっていたが、それが紫色に変わる頃に姿を消した。多分、父親と一緒に領地に行ったのね。学園は幾つもあるし、彼女なら何処でも生きられるわね。
そんな事をつらつらと考えたその週末に、ダンスのレッスンのため王城に集まったご令嬢四名。
教師と王太子殿下がいらっしゃるまでの控えの間で、とんでもニュースを聞いてしまった。
流石の父も、今回はうっかり留め置いたなどという事はなく、直ぐ様ソフィアに伝えてきた。
ルイ王子殿下が隣国ヘ留学したらしい。
短期留学であるから、せいぜい数ヶ月のことであろうが、婚約者候補達にはなんの知らせも無く、既に王子が出立した後に王宮からの文にて知らされた。
これから留学するんだ寂しくなるよ、なんて別れの挨拶をされても困るけれど。
あ~、あれね。ピンクとの縁を切り損ねたのね。それでもって、王家に無理やり引き離されたんだわ。
ソフィアは、勝手な妄想を頭の中で繰り広げる。
王子が関わらなければ身辺も静かになる筈。やれやれ漸く。と、王子の不在を喜ぶソフィア。
兄も姉達も複雑な表情で見守っている。
そんな家族の様子に、どうしたの?と聞いてみれば、寂しくはないのかと逆に聞かれたので、全く。寧ろそのまま帰って来なくて良いと答えれば、食卓の温度が一気に下がった。様な気がした。
残念ながら、妃教育は続いている。
まあ、王家のお金で国有数の教育者から学べる機会は貴重である。特に外国語!
これさえクリア出来たなら、将来他国に逃げ込む道も開ける。
邪魔者が一匹もいなくなった学園で鬼の集中力を発揮したあとは、邸に戻って妃教育を受ける。全く乙女らしからぬ生活なのに、ソフィアにとっては100点満点、この充実した暮らしをそう評価していた。
これぞ学生。外野の声に惑わされる事なく思いっきり学ぶのよ。
そんな月日が数ヶ月。
当然ながら、ソフィアは王子に文など一度も書いていない。だから当然、王子からも文は届かない。
公爵令嬢のお姉様方は頻繁に文を送っているらしく、返信もきちんとあるらしい。
良いんじゃないかい?そのまま姉さん女房、有りです。
お二人には是非とも頑張って頂いて、ソフィアとアナスタシアを解放して欲しい。
周囲が聞いたなら青くなりそうな事を、お口はチャックで考える。
それともう一つ。
この数ヶ月で変わったことは、ダンスの授業の再開である。
な、な、な、な、なんと!
ローレン王太子殿下自らお相手役を担って下さっている。
もう、この世に思い残す事は無いわね。
金色に烟る髪が窓から差し込む陽の光を受けてきらきらと耀く。こちらを見下ろすロイヤルブルーの瞳の透明度!あの瞳が湖ならば飛び込んで溺れてしまいたい。
見つめ合いターンで視線が外れるのも惜しいとばかりに、殿下の視線を追う。
はあ~素敵。
歌劇の男役に惚れ込む御婦人の気持ちが良く分かる。この国に生まれて幸せだわ。何れこのお方は国王陛下になられる。そうすれば、新年の絵姿も売られるだろうし、絶対毎年購入するわ!
アイドルに憧れる乙女の気分を思う存分堪能するソフィア。
公爵令嬢のお姉様方はもぉーっと凄い。
「殿下、汗が。」なんて言いながら、ハンカチをそっと当てたりして。あれ、絶対洗わないわね。私の分もお願いしたいわ。来週はハンカチ多めに持って来よう。
アナスタシアのみ平常心で稽古に励むのであった。
「あ~、ソフィア。殿下はいつ頃お戻りになるのだ?」
え?どっちの殿下?
最近ではルイ王子殿下よりもローレン王太子殿下との交流の方が頻繁になっていたソフィア。
晩餐の席で父に尋ねられて一瞬迷った。察したらしい兄が「ルイ王子殿下だよ。」ナイスフォローをしてくれた。
知るわけないじゃない、そんな事。第一、文すらやり取りしてないのよ?
言葉に出せず黙する娘に、コイツに聞いても無駄だったと解ったらしい父が、もう半年になるではないか。と八つ当たりめいたことを言ってくる。
「お父様が王宮でお確かめになれば宜しいのでは?」
しれっと返せば、むむむと口籠る。
良いじゃない、帰って来なくて。
ピンク令嬢はあの後暫く、ほっぺ真っ赤令嬢になっていたが、それが紫色に変わる頃に姿を消した。多分、父親と一緒に領地に行ったのね。学園は幾つもあるし、彼女なら何処でも生きられるわね。
そんな事をつらつらと考えたその週末に、ダンスのレッスンのため王城に集まったご令嬢四名。
教師と王太子殿下がいらっしゃるまでの控えの間で、とんでもニュースを聞いてしまった。
3,380
お気に入りに追加
3,524
あなたにおすすめの小説
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます
神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。
【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。
だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。
「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」
マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。
(そう。そんなに彼女が良かったの)
長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。
何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。
(私は都合のいい道具なの?)
絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。
侍女達が話していたのはここだろうか?
店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。
コッペリアが正直に全て話すと、
「今のあんたにぴったりの物がある」
渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。
「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」
そこで老婆は言葉を切った。
「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」
コッペリアは深く頷いた。
薬を飲んだコッペリアは眠りについた。
そして――。
アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。
「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」
※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)
(2023.2.3)
ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000
※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様
すだもみぢ
恋愛
伯爵令嬢であるカリンは、隣の辺境伯の息子であるデュークが苦手だった。
彼の悪戯にひどく泣かされたことがあったから。
そんな彼が成長し、年の離れたカリンの姉、ヨーランダと付き合い始めてから彼は変わっていく。
ヨーランダは世紀の淑女と呼ばれた女性。
彼女の元でどんどんと洗練され、魅力に満ちていくデュークをカリンは傍らから見ていることしかできなかった。
しかしヨーランダはデュークではなく他の人を選び、結婚してしまう。
それからしばらくして、カリンの元にデュークから結婚の申し込みが届く。
私はお姉さまの代わりでしょうか。
貴方が私に優しくすればするほど悲しくなるし、みじめな気持ちになるのに……。
そう思いつつも、彼を思う気持ちは抑えられなくなっていく。
8/21 MAGI様より表紙イラストを、9/24にはMAGI様の作曲された
この小説のイメージソング「意味のない空」をいただきました。
https://www.youtube.com/watch?v=L6C92gMQ_gE
MAGI様、ありがとうございます!
イメージが広がりますので聞きながらお話を読んでくださると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる