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「酷い!いくら私が男爵令嬢だからって、私のリボンを盗むだなんて!」
馬鹿ピンク、今日はどんな言い掛かり?
すっかり呆れ返ったソフィアが無言であるのをいい事に、アマンダが学園の廊下でまくし立てる。
「そのリボンよ!確かにあれは私がルイ様から貰ったリボンよ!」
嘘も堂々と言うなら真に思える不思議。
ソフィアはこの手があったか、次から使わせて貰おうと思った。
「ソフィア嬢、見苦しいぞ!そのリボンをアマンダに返すんだ!」
見苦しいのはお前だ。
「ヘンリー侯爵家令息様。」
「な、なんだ!」
「初めまして。」
「...」
「私がいつそこの令嬢のリボンを盗んだと?」
「貴様が今着けているのが証拠だろう!」
「貴様?」
ソフィアの射るような冷たい視線に令息が口を閉ざす。
「アマンダ様。それは真実?私が貴女のリボンを盗んだと。」
「そうよ!貴女しかいないわ!こんな酷いことをする人なんて!」
五月蝿いピンクだ。
周りには騒ぎに気付いて人だかりが出来ている。
どうするの?アマンダ様。貴女、路頭に迷いたいの?
「お話しは分かりました。」「だったら!」
「けれども私、貴女のリボンなんて盗んでおりませんよ。」
「ほら、そうやって直ぐ私を馬鹿にして!」
ああ、王宮の医局よ、馬鹿に付ける薬を作って下さい大至急。
ソフィアは髪を結わえていたリボンをしゅるりと解いた。淡い金の髪がはらりと零れ落ちる。
それからソフィアはアマンダに近付きリボンを差し出す。
「か、返してくれるのね!でも、ちゃんと謝って!盗んでごめんなさいって今すぐ謝って!」
叫ばないと話せないのかピンク頭。
周りの生徒達にも響(どよめ)きが起こる。真逆本当に盗んだのか?
「一度聞いたなら理解なさい。私は貴女のリボンなど盗んでおりませんよ。欲しいのならこのリボン差し上げましょう。そうまでして欲しいのなら。」
ソフィアはアマンダから視線を宰相家令息に移す。ヘンリーは宰相閣下の次男である。因みに長男は王太子殿下の側近である。
「ヘンリー様、貴方こんな事を仕出かして責任を取れますの?炭鉱労働でも為さりたいのなら止めませんけど。」
周囲に冷気が走る。
教師達まで集まったのに、誰一人声を発する者はいない。紙一枚落としたとして、その音さえ響いて聞こえそうである。
「このリボンは、ルイ王子殿下から頂戴したものです。」
そこで一度ソフィアは周囲を見渡す。
騒ぎに背を向けて駆け出す令息。あれは文官の子息であるから、この騒ぎを自家に知らせるのだろう。
そうして見ていれば、一人また一人と外へ出て行く。これは大事になると判断したなら僥倖。
男爵令嬢が王子の婚約者候補である侯爵令嬢に窃盗の罪を擦り付けようして、そこに噂の取り巻きが加担している。令息は宰相閣下の子息であるが、果たして今後も子息でいられるかどうか。
そこを理解出来た者は、この馬鹿なピンクに惑わされずに、これからも学園での学びに勤しむだろう。
「アマンダ様、ヘンリー様。このリボンは私がルイ王子殿下より頂戴したものです。父が手ずから預かって参りましたの。けれども、有らぬ罪を着せてまで欲しいと仰るのなら、どうぞ差し上げますわ。」
そう言って、ソフィアはひらりとリボンを放った。
ひらりひらり、リボンが落ちて行く。
「貴様!殿下から賜った物を如何する!」
ヘンリーが喚く。まだ喚く元気があるのか。
「ええ、そのリボン、もう二度と見たくはありませんから。」
どうぞ拾えば?とばかりにアマンダを見やれば、顔を赤らめぷるぷると震えている。
さて、次はどんな爆弾発言をするのか。
「そこまでだよ。皆。」
何だ此処までか。
麗しい声に振り返れば、王太子殿下がいらっしゃる。横には宰相閣下の長男が怒りに震えて立っている。
「ヘンリー、君、学び直した方が良いね。暫く別の場所で学べる様に手配しよう。」
そう言って、王太子殿下はソフィアが落としたリボンを拾い、
「はい、ソフィア嬢。君の疑いは晴れたよ。この青い染色は王家の色だ。彼女が常々恥じ入るらしい男爵令嬢の身分でこれを貰い受けるには、それ相応の理由が必要だろうね。」
そう言ってリボンを手渡そうとする。
「有難うございます。けれども私、そのリボンはもう二度と目にしたくはないのです。そこの令嬢に差し上げますわ。」
ソフィアはシトリンの瞳を細めて、鷹揚にそれを拒んだ。
馬鹿ピンク、今日はどんな言い掛かり?
すっかり呆れ返ったソフィアが無言であるのをいい事に、アマンダが学園の廊下でまくし立てる。
「そのリボンよ!確かにあれは私がルイ様から貰ったリボンよ!」
嘘も堂々と言うなら真に思える不思議。
ソフィアはこの手があったか、次から使わせて貰おうと思った。
「ソフィア嬢、見苦しいぞ!そのリボンをアマンダに返すんだ!」
見苦しいのはお前だ。
「ヘンリー侯爵家令息様。」
「な、なんだ!」
「初めまして。」
「...」
「私がいつそこの令嬢のリボンを盗んだと?」
「貴様が今着けているのが証拠だろう!」
「貴様?」
ソフィアの射るような冷たい視線に令息が口を閉ざす。
「アマンダ様。それは真実?私が貴女のリボンを盗んだと。」
「そうよ!貴女しかいないわ!こんな酷いことをする人なんて!」
五月蝿いピンクだ。
周りには騒ぎに気付いて人だかりが出来ている。
どうするの?アマンダ様。貴女、路頭に迷いたいの?
「お話しは分かりました。」「だったら!」
「けれども私、貴女のリボンなんて盗んでおりませんよ。」
「ほら、そうやって直ぐ私を馬鹿にして!」
ああ、王宮の医局よ、馬鹿に付ける薬を作って下さい大至急。
ソフィアは髪を結わえていたリボンをしゅるりと解いた。淡い金の髪がはらりと零れ落ちる。
それからソフィアはアマンダに近付きリボンを差し出す。
「か、返してくれるのね!でも、ちゃんと謝って!盗んでごめんなさいって今すぐ謝って!」
叫ばないと話せないのかピンク頭。
周りの生徒達にも響(どよめ)きが起こる。真逆本当に盗んだのか?
「一度聞いたなら理解なさい。私は貴女のリボンなど盗んでおりませんよ。欲しいのならこのリボン差し上げましょう。そうまでして欲しいのなら。」
ソフィアはアマンダから視線を宰相家令息に移す。ヘンリーは宰相閣下の次男である。因みに長男は王太子殿下の側近である。
「ヘンリー様、貴方こんな事を仕出かして責任を取れますの?炭鉱労働でも為さりたいのなら止めませんけど。」
周囲に冷気が走る。
教師達まで集まったのに、誰一人声を発する者はいない。紙一枚落としたとして、その音さえ響いて聞こえそうである。
「このリボンは、ルイ王子殿下から頂戴したものです。」
そこで一度ソフィアは周囲を見渡す。
騒ぎに背を向けて駆け出す令息。あれは文官の子息であるから、この騒ぎを自家に知らせるのだろう。
そうして見ていれば、一人また一人と外へ出て行く。これは大事になると判断したなら僥倖。
男爵令嬢が王子の婚約者候補である侯爵令嬢に窃盗の罪を擦り付けようして、そこに噂の取り巻きが加担している。令息は宰相閣下の子息であるが、果たして今後も子息でいられるかどうか。
そこを理解出来た者は、この馬鹿なピンクに惑わされずに、これからも学園での学びに勤しむだろう。
「アマンダ様、ヘンリー様。このリボンは私がルイ王子殿下より頂戴したものです。父が手ずから預かって参りましたの。けれども、有らぬ罪を着せてまで欲しいと仰るのなら、どうぞ差し上げますわ。」
そう言って、ソフィアはひらりとリボンを放った。
ひらりひらり、リボンが落ちて行く。
「貴様!殿下から賜った物を如何する!」
ヘンリーが喚く。まだ喚く元気があるのか。
「ええ、そのリボン、もう二度と見たくはありませんから。」
どうぞ拾えば?とばかりにアマンダを見やれば、顔を赤らめぷるぷると震えている。
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「ヘンリー、君、学び直した方が良いね。暫く別の場所で学べる様に手配しよう。」
そう言って、王太子殿下はソフィアが落としたリボンを拾い、
「はい、ソフィア嬢。君の疑いは晴れたよ。この青い染色は王家の色だ。彼女が常々恥じ入るらしい男爵令嬢の身分でこれを貰い受けるには、それ相応の理由が必要だろうね。」
そう言ってリボンを手渡そうとする。
「有難うございます。けれども私、そのリボンはもう二度と目にしたくはないのです。そこの令嬢に差し上げますわ。」
ソフィアはシトリンの瞳を細めて、鷹揚にそれを拒んだ。
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