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王子との顔合わせは冬の終わりの頃に為された。
ソフィアは後ひと月程で学園の入学を控えていた。
婚約者候補の内、二人の公爵令嬢は王子の一つ年上であったから、既に学園には入学をしている。王子とソフィア、もう一人の候補である侯爵令嬢は同じ年。共に揃って学園へ入学する。
公爵令嬢達の本命は、実のところ第一王子にあった。学園では第一王子は彼女達の一つ年上に当たるから年の頃も申し分ない。
残念ながら、第一王子は隣国の第一王女との婚約が成されたばかり。売約済であったから、それならば仕方が無いと諦めたのであった。
ソフィアともう一人の侯爵家の令嬢は、同い年だけあって面識がある。
親しく付き合う程ではないが、顔を合わせれば言葉を交わす程度に仲は良い。母に連行されるお茶会でも度々会っていたし、穏やかな人柄はそれだけの関わりでも十分知り得た。王子との顔合わせの席で彼女と会って、ソフィアはほっとしたのである。
学園へ入学する前の月での王子との顔合わせであったが、結果を言えば王子とは挨拶以外は一言も言葉を交わしていない。なんなら視線も合わせていない。
公爵令嬢のお姉様方がその場をリードしており、王子もそれに乗っかるようで、何ともいい加減な風に思えたから、ソフィアも初めの緊張が解れてからは、早々に一人頭の中で思考を始めて、どんな会話が為されたかも憶えていなかった。
ソフィアとて流石は侯爵令嬢だけあって、卒なくその場をやり過ごすスキルは持っていた。賢い兄姉に埋もれているが、やる時にはやれる子がソフィアなのであった。
「ソフィア様。」
お土産の焼き菓子を持たされて、邸へ帰る途中で声を掛けられた。
「アナスタシア様。」
同じ婚約者候補となった侯爵家令嬢のアナスタシアであった。
「なってしまいましたわね。」
「ええ、なってしまいましたわね。」
傍から聞いたら何を言っているのだと思われそうであるが、アナスタシアは昨年秋には別の婚約が纏まり掛けていた。王家の唾付けにその婚約は無かった事になっている。
ソフィアにはそんなお話し一つもないから王家の勝手に付き合えるも、彼女にしてみれば、先の婚約こそ望んだ縁だったのではなかろうか。彼は、第一王子の側近候補で侯爵家の令息であった。
ソフィアとアナスタシア。共に同じ年に侯爵家の令嬢として生を受けて、こうして婚約者候補として肩を並べて歩いている。
「いよいよ来月は入学ですわね。」
「いよいよですわね。」
アナスタシアが言葉を掛けてソフィアが答える。
ソフィアは薄らぼんやりした令嬢ではあるが、両親達が思うほどぼんやりとはしていない。利発な兄姉を前に無駄な足掻きはしないが、その分状況を落ち着いて観察し次なる行動を選択する賢明さを持っている。
この下らない出来レースから、両親もこれは仕方が無いと堪忍してくれる頃合いで、婚約者争奪戦から離脱をしたいと願っている。
婚約者は公爵家のお姉様方のどちらかで決まりであろう。年の差一つ位、有って無いもの。辿れば王家の血も引く公爵家であるから縁も深い。
それに、と思う。
最近第二王子の素行に可怪しな点があると噂を聞く。
何でも低位貴族のご令嬢に興味を示しているらしい。しかも彼女、男爵家ご令嬢のアマンダ嬢は、ソフィア達と同い年だと言うから、一緒に学園で学ぶ事になる。
ついこの前婚約者候補に選定されて、もう女性の影がある。何とも馬鹿馬鹿しい話しに、ソフィアは辟易としていたのである。
ソフィアは後ひと月程で学園の入学を控えていた。
婚約者候補の内、二人の公爵令嬢は王子の一つ年上であったから、既に学園には入学をしている。王子とソフィア、もう一人の候補である侯爵令嬢は同じ年。共に揃って学園へ入学する。
公爵令嬢達の本命は、実のところ第一王子にあった。学園では第一王子は彼女達の一つ年上に当たるから年の頃も申し分ない。
残念ながら、第一王子は隣国の第一王女との婚約が成されたばかり。売約済であったから、それならば仕方が無いと諦めたのであった。
ソフィアともう一人の侯爵家の令嬢は、同い年だけあって面識がある。
親しく付き合う程ではないが、顔を合わせれば言葉を交わす程度に仲は良い。母に連行されるお茶会でも度々会っていたし、穏やかな人柄はそれだけの関わりでも十分知り得た。王子との顔合わせの席で彼女と会って、ソフィアはほっとしたのである。
学園へ入学する前の月での王子との顔合わせであったが、結果を言えば王子とは挨拶以外は一言も言葉を交わしていない。なんなら視線も合わせていない。
公爵令嬢のお姉様方がその場をリードしており、王子もそれに乗っかるようで、何ともいい加減な風に思えたから、ソフィアも初めの緊張が解れてからは、早々に一人頭の中で思考を始めて、どんな会話が為されたかも憶えていなかった。
ソフィアとて流石は侯爵令嬢だけあって、卒なくその場をやり過ごすスキルは持っていた。賢い兄姉に埋もれているが、やる時にはやれる子がソフィアなのであった。
「ソフィア様。」
お土産の焼き菓子を持たされて、邸へ帰る途中で声を掛けられた。
「アナスタシア様。」
同じ婚約者候補となった侯爵家令嬢のアナスタシアであった。
「なってしまいましたわね。」
「ええ、なってしまいましたわね。」
傍から聞いたら何を言っているのだと思われそうであるが、アナスタシアは昨年秋には別の婚約が纏まり掛けていた。王家の唾付けにその婚約は無かった事になっている。
ソフィアにはそんなお話し一つもないから王家の勝手に付き合えるも、彼女にしてみれば、先の婚約こそ望んだ縁だったのではなかろうか。彼は、第一王子の側近候補で侯爵家の令息であった。
ソフィアとアナスタシア。共に同じ年に侯爵家の令嬢として生を受けて、こうして婚約者候補として肩を並べて歩いている。
「いよいよ来月は入学ですわね。」
「いよいよですわね。」
アナスタシアが言葉を掛けてソフィアが答える。
ソフィアは薄らぼんやりした令嬢ではあるが、両親達が思うほどぼんやりとはしていない。利発な兄姉を前に無駄な足掻きはしないが、その分状況を落ち着いて観察し次なる行動を選択する賢明さを持っている。
この下らない出来レースから、両親もこれは仕方が無いと堪忍してくれる頃合いで、婚約者争奪戦から離脱をしたいと願っている。
婚約者は公爵家のお姉様方のどちらかで決まりであろう。年の差一つ位、有って無いもの。辿れば王家の血も引く公爵家であるから縁も深い。
それに、と思う。
最近第二王子の素行に可怪しな点があると噂を聞く。
何でも低位貴族のご令嬢に興味を示しているらしい。しかも彼女、男爵家ご令嬢のアマンダ嬢は、ソフィア達と同い年だと言うから、一緒に学園で学ぶ事になる。
ついこの前婚約者候補に選定されて、もう女性の影がある。何とも馬鹿馬鹿しい話しに、ソフィアは辟易としていたのである。
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