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婚約から一年と半年程が過ぎて、もうすぐ進級するという頃に、気付いてしまった。

広い学園で、そうそうまみえる事など無いのに、幾度もその姿を見るのだから確かなのだろう。
食堂で、放課後の昇降口で、廊下の向こう側で、二人が肩を並べているのを見てしまう。見付けてしまう。
いつからなのか分からなかった。それ位、いつの間にかデズモンドとは学園での接点は無くなっていた。

クラスメイトなのかもしれない。
よく分からない。それまでアナベルは、デズモンドのクラスを訪ねた事が無かった。デズモンドがアナベルのクラスを訪ねる事も無かったが。
だから、互いの交友関係にも疎かった。
それはとりも直さず、婚約してからの互いの日常を殆ど知らないと云う事であった。

胸が苦しい。
これって、どうしたら良いのかしら。

一週間前にアナベルの邸で会った時にも、デズモンドに変わりはなかった。
今まで通り穏やかな会話をして、それからそう、剣技の大会の話が出て、応援しているわと伝えたのだ。
「うん、有難う。」
そう言ってはにかんだ笑顔を思い出す。


「それは赦しがたいわね。だからといってアナベルにデズモンド様を問い詰めろと言うのも酷な話よね。」
「でも、確かな事なのか分からなければ判断出来ないわ。良いわアナベル。私に任せてくれる?」

長女エミリアの言葉に次女アリシアが続く。

暫く迷った末に、アナベルは姉達に相談する事にした。
エミリアは既に学園を卒業しているが、一つ違いのアリシアは一緒に学園へ通っていた。

交友関係の広いアリシアが探ってくれると言うのだから、アナベルは頼みとする事にした。
結果、
「どうやら相愛であるらしいわね。」
苦い顔のアリシアに告げられたのであった。

「デズモンド様と話し合いが必要ね。貴女一人で心細いのであれば、私も同席するわよ。」
エミリアにそう言われて初めて、これは放っておけない事なのだと、アナベルは観念したのであった。



「御免なさい、急に呼び出してしまって。」
アナベルは心底そう思っている。
デズモンドの顔が、来たくて来たのでは無いと書いている様に見えて仕方が無かった。
「いや、気にしないで。急に君から誘われるだなんて珍しいから、ちょっと驚いたけどね。」

デズモンドの表情を探るも、何を思っているのか解らない。
アナベルなりに知ってると思っていたデズモンドなのに。

アナベルは姉達の言葉を受けて観念した。いつまでも逃げてはいられない。デズモンド自身の言葉で聞かなければ。
それをこれからアナベルは、自分自身で確かめなければならない。

執事を通して文を出し、アビンドン伯爵家への訪問を願った。
毎日同じ学園に通っていると云うのに、声を掛けるのは到底無理な事に思えた。
考えてみれば、そこから可怪しいのだ。婚約者であるのに。

これまでデズモンドのクラスを訪ねた事など無かった。今更訪ねたら、どれほど驚かれる事だろう。
だからと言って、令嬢と二人並ぶところに割り込むなんて、それこそアナベルには出来そうに無かった。

クレア嬢は子爵家の令嬢で、やはりデズモンドと同じクラスであった。
アナベルと婚約してから一年後、つまり二年生になってから同じクラスになったらしい。
そう言えば、とアナベルは思い返す。
二年生になってから、互いの邸で会う時に、学園の話をする事が減っていた。
大体が互いの家の話であったり、領地の事が話題であった。

隠していたの?

疑いはあっと云う間に胸の内を染めてしまう。
確かな言葉で聞かなければ、デズモンドの言葉で止めてもらわなければ、広がり続ける真っ黒な影は消せない。

「こんな事を聞いてはどうかと思ったのだけれど、デズモンド様。デズモンド様は何方か心を寄せる方がいらっしゃるの?」
もう、なんて駆け引きが下手なのかしら。もっと上手く切り出せないものか。
アナベルが後悔する間もなく
「だったら?」
デズモンドが答えてしまった。
「え?」
「だったら君はどうするの?」

何処かで信じていたかった。
デズモンド様?貴方、本当にデズモンド様?
だって私の知ってるデズモンド様は、はにかんだ顔がほんの少し赤くなる、私にはそういう顔を見せてくれる人なのだもの。

好戦的と思える程に、そんな強い視線を向けるデズモンドに、アナベルは察してしまった。
ああ、恋が壊れてしまった。
これからこの関係をどうしたら良いのだろう。

「デズモンド様、貴方はどうしたいの?」
だから、やはり聞くしか無かった。

「終わりにしたいと思っているよ。」
そう答えが返って来るのを分かりながら。




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