ふられちゃったら

桃井すもも

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問題はまたもやダンスの授業で起こった。

「仕方が無いわね。ステファニア嬢、申し訳ないのだけれど、貴女にはまた男性パートをお願い出来るかしら。」

ダンスの教師にそう頼まれて、ステファニアは戸惑った。

ステファニアのクラスの生徒は数が奇数である。女子が一人多いが為に、ステファニアは座席が窓際最後尾の一人席と云う最高ポジションの恩恵に預かっている。

ダンスのレッスンの際には教師が男性パートを受け持っていたから、通常ならそれで授業が滞る事は無かった。

けれども先週、男子生徒の一人が休んだ事から女子があぶれて、仕方ないからとステファニアが男性パートを受け持った。

巷では男装の麗人を主人公とした小説が流行っていた。舞台でも人気小説を題材にした演目が大流行おおはやりであった。

それでステファニアは、ちょっとばかり悪戯心が疼いてしまって、声音もそれらしく変えてみて青年貴族っぽい仕草で令嬢の手を取った。

それが乙女達の心を掴んでしまい、ステファニアは婚約解消したばかりのきずもなんのその、密かに人気が上がっていたのである。ご令嬢達から。

そうして到頭とうとう、それは授業にまで影響を及ぼした。女子が男性パートのステファニアを望んでいる。

「えーっと、それで私の加点はどうなるのでしょう。」

「心配要らないわ。女子が女性パートでしか評価されないだなんてナンセンスよね。貴女の技量は私がきちんと評価しますから、貴女は思いっきりやって頂戴な。」
「!承知致しました。」

授業の評価に影響がないのなら心配要らない。ステファニアは即答した。何となく男性パートに興味を覚えていた。皆様ご存知の通り、ステファニアはやれば出来る子であったから、興味を示したものは大抵トップレベルまで上り詰める。

「「「「きゃあ!」」」」とあちらこちらで悲鳴が起こる。アメリア、貴女まで一緒に叫んでどうしたの?

こうして、王立貴族学園三学年Aクラスに男装してない男装の令嬢が誕生した。


「宜しくお願い致します、エレノア嬢。」

ステファニアが声音を低くして令嬢の手を取れば、

「は、はい、こちらこそ、」
エレノア嬢は頬を染めてステファニアを見上げた。エレノア様、どうしちゃったの、瞳が潤んでいるわよ。

二人が踊り出せば、男子生徒がチラチラこちらを見る。さては貴方、エレノア様が気になるのね。

ステファニアは悪戯心を発揮した。すかざす男子生徒の側まで移動する。緩やかなモーションで何気な~く移動したから、男子生徒は気付かぬ内に直ぐ側にステファニア達がいて驚いた。

見てらっしゃい、これがエレノア様の美しさよ。

ステファニアは、エレノアの背に添えた手でエレノアを誘導する。
エレノアはそこでステファニアにいざなわれるままプロ厶ナードポジションからクローズドポジションへ、そこからゆったりとオーバースウェイで胸を反らせた。
優雅な動きに甘やかな香りが漂って見えたのは気の所為か。クローズドポジションに戻った二人が見つめ合うその姿に、

「「「「「きゃあ~~~!!」」」」」黄色い声が炸裂した。
最後に「ブラボーー!!」と叫んだのは教師である。

どうです、皆様。エレノア様は美しかったでしょう。当然よ。私、彼女が一番美しく見えるポジションを披露したのですもの。

ステファニアは大仕事を終えた後のように清々しい気持ちになった。ご令嬢方の美しさを披露する事の喜び。

エレノア様は控え目な大人しい方だけれど、佇まいが美しくてきっと体感が整っていらっしゃるのだとお見受けしてたのよね。
思った通り、とてもお美しいポーズであったわ。

真っ赤に顔を赤らめる男子生徒を横に、涼しい表情でエレノアに礼をするステファニアなのであった。

こうして、王立貴族学園三学年Aクラスに在籍する男装してない男装の令嬢に、新たな伝説が誕生した。その名も「オーバースウェイの麗人」であった。



「ちょっと、ちょっと、ちょっと!」
「なあに、なあに、なあに?」
「貴女、やり過ぎよ!」
「えー、それ程でも無いわ。」
「だって、貴女、私とは踊らなかったじゃない!」
「ベルが鳴ってしまったのですもの。授業が終わったのだから仕方が無いわ。」
「貴女ってば、とんだ浮気者ね!」
「ぶはっ!」

キーッと悔しがるアメリアを横に、エルリックが大きく吹いた。

ちょっとばかり上背があるだけなのに、何故か乙女達の心を捉えてしまったステファニアに、アメリアが猛烈に焼き餅を焼いている。

「アメリア、貴女の婚約者様は幸せね。」

「何よ!どうしてよ!」

「だって悋気を起こす貴女ってば、とっても可愛いわ。」

「もう!この人誑ひとたらし!覚えてらっしゃい!」

アメリアは、何処の悪役かと思われる台詞を吐いた。

「まあ、確かにあれはやり過ぎだな。」

「ええ?エルリック様までそんな事を言うの?」

「当然だろう。君、多分面倒な縁が増えると思うよ。」

「え?」

「男色家からも縁談が「気持ち悪いこと言わないで!」

エルリックのとんでもない発言に、アメリアがその背中をバシンと叩いた。

「いてぇ、」

思わず漏れたらしいエルリックの砕けた口調が可笑しくて、そこで三人アハアハと笑い出した。なかなか笑いが収まらず、涙が滲む程であった。

こんな馬鹿話しばっかりしてるから、今日も情報収集はゼロであった。
だから、気を抜いていたのかも知れない。

ステファニアが気付かぬところで、世界はちゃんと回っていた。
    



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