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第6話
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意識が朧げに構築されていく。レイヴンは少しずつ、ほんの僅かずつ我を取り戻していった。
「こんにちは」声がした。
レイヴンは振り返った。
そこに、死んだような表情の巨大な浮遊物がいた。
「うわあっ」レイヴンは叫んで飛び上がり、着地に失敗して本体をしたたかうちつけた。「わああっ」
「何びっくりしてんの」死んだような表情の巨大な浮遊物が見下ろして言った。
「――」レイヴンは息をするのも忘れて声の主をまじまじと見上げた。「――カンジダか」へなへな、と本体の力が抜ける。
「久しぶり」死んだような表情のカンジダは特に感動もなさそうに淡々と言った。「また来てると思わなかった」
「――」レイヴンは少し考えてから「動物たちが、見つかったんだ」と事実を教えた。
「へえー」カンジダの答えはやっぱり特に感動もなさそうだった。
「君はここで何をしてるんだ?」レイヴンは訊ねた。
「私」カンジダは自分自身にさえもさして興味なさそうに答えた。「ただ存在してる」
「──」レイヴンは、近況などを訊ねたことを後悔した。「ああ、そう」
「そういや、見かけたよ」カンジダは不意に言った。
「え」レイヴンはきょとんとした。「何を?」
「あんたんとこの、あのゾウみたいなやつ」
「キオスか?」声が高まる。
「名前知らないけど、鼻長いやつ」
「キオスだ──どこで?」
「水辺」
「どこの?」
「どこかの」
「いつ見た?」
「私が生まれてから、今ここであんたに会うまでの間のどこかで」
「ありがとう。ライオンの排泄物よりは役に立ったよ」
そう、そうだ──キオスは生きている。水も飲んでいる、恐らく草も食べている。つまり、無事だ。そのはずだ。それが判っただけでもいい。水辺を──片っ端から当たって行こう。それしかない。
「今日のさ」カンジダはまた不意に言った。「月」
「月?」レイヴンは訊き返し、空を見上げた。たった一つの月が、今日も輝いている。
「あの半分ほどの大きさになった頃に、来るよ」
「来るって、何が?」
「タイム・クルセイダーズが来る」
「……時間十字軍? ああ何か聞いたことがあるな、地球の」
「正確には時空十字軍だけどね」
「時空十字軍?」
「うん」
「前にここに来た時は、ちらりと名前を聞いただけでよく知らないまま帰ったんだが──何かの、団体か?」
「彼らは絶滅危惧種の動物を保護してるのさ」
「え」レイヴンは驚いた。「ギルドのことか?」
「おたくではそう呼ぶの」
「宇宙各銀河を巡って、あちこちの惑星系で絶滅しかけている種の動物たちを一つがいずつ──さらって行くやつらだろ? ギルドだ。あいつらがやって来るのか? ここ、地球に? どこからそんな情報を?」
「レッパン部隊が言ってた」
「レッパン部隊?」
「レッサーパンダさ」
「レッサーパンダ……ここいら変には棲んでいない種族だね」
「私はあちこちで生まれるからね」
「そうか、しかし、ギルドか……なるべく遭いたくないな」
「どうして」カンジダは訊きたそうにもなく訊いてくる。
「やつらは、絶滅危惧種をピックアップして、異空間に運び保護している」
「うん」
「ただそれには問題があって……」
「どんな」
「捕えられ、異空間に連れ去られた動物たちが、まあ普通にそこで繁殖してくれるならいいんだけど……中には保護区から、逃げ出して野生化してしまうものもいるんだ」
「ああ」カンジダは理解しているのかどうか不明な様子で答えた。「めちゃくちゃな生態系ができあがるね」
「そう」レイヴンは溜息をついた。「もはやそこは保護区ではなく、無法地帯になっているようなものだ。そんな活動家たちと、関わり合いたくもないよ。うちの動物たちに目をつけられても困るし」
「じゃあさっさと帰らなきゃね」
「ああ、そうするよ。じゃあな」
「さよなら」カンジダは特に名残惜しそうにもなく別れを告げた。
レイヴンは、コスを乗せた収容籠を探しに上空へ飛び上がって行った。
「こんにちは」声がした。
レイヴンは振り返った。
そこに、死んだような表情の巨大な浮遊物がいた。
「うわあっ」レイヴンは叫んで飛び上がり、着地に失敗して本体をしたたかうちつけた。「わああっ」
「何びっくりしてんの」死んだような表情の巨大な浮遊物が見下ろして言った。
「――」レイヴンは息をするのも忘れて声の主をまじまじと見上げた。「――カンジダか」へなへな、と本体の力が抜ける。
「久しぶり」死んだような表情のカンジダは特に感動もなさそうに淡々と言った。「また来てると思わなかった」
「――」レイヴンは少し考えてから「動物たちが、見つかったんだ」と事実を教えた。
「へえー」カンジダの答えはやっぱり特に感動もなさそうだった。
「君はここで何をしてるんだ?」レイヴンは訊ねた。
「私」カンジダは自分自身にさえもさして興味なさそうに答えた。「ただ存在してる」
「──」レイヴンは、近況などを訊ねたことを後悔した。「ああ、そう」
「そういや、見かけたよ」カンジダは不意に言った。
「え」レイヴンはきょとんとした。「何を?」
「あんたんとこの、あのゾウみたいなやつ」
「キオスか?」声が高まる。
「名前知らないけど、鼻長いやつ」
「キオスだ──どこで?」
「水辺」
「どこの?」
「どこかの」
「いつ見た?」
「私が生まれてから、今ここであんたに会うまでの間のどこかで」
「ありがとう。ライオンの排泄物よりは役に立ったよ」
そう、そうだ──キオスは生きている。水も飲んでいる、恐らく草も食べている。つまり、無事だ。そのはずだ。それが判っただけでもいい。水辺を──片っ端から当たって行こう。それしかない。
「今日のさ」カンジダはまた不意に言った。「月」
「月?」レイヴンは訊き返し、空を見上げた。たった一つの月が、今日も輝いている。
「あの半分ほどの大きさになった頃に、来るよ」
「来るって、何が?」
「タイム・クルセイダーズが来る」
「……時間十字軍? ああ何か聞いたことがあるな、地球の」
「正確には時空十字軍だけどね」
「時空十字軍?」
「うん」
「前にここに来た時は、ちらりと名前を聞いただけでよく知らないまま帰ったんだが──何かの、団体か?」
「彼らは絶滅危惧種の動物を保護してるのさ」
「え」レイヴンは驚いた。「ギルドのことか?」
「おたくではそう呼ぶの」
「宇宙各銀河を巡って、あちこちの惑星系で絶滅しかけている種の動物たちを一つがいずつ──さらって行くやつらだろ? ギルドだ。あいつらがやって来るのか? ここ、地球に? どこからそんな情報を?」
「レッパン部隊が言ってた」
「レッパン部隊?」
「レッサーパンダさ」
「レッサーパンダ……ここいら変には棲んでいない種族だね」
「私はあちこちで生まれるからね」
「そうか、しかし、ギルドか……なるべく遭いたくないな」
「どうして」カンジダは訊きたそうにもなく訊いてくる。
「やつらは、絶滅危惧種をピックアップして、異空間に運び保護している」
「うん」
「ただそれには問題があって……」
「どんな」
「捕えられ、異空間に連れ去られた動物たちが、まあ普通にそこで繁殖してくれるならいいんだけど……中には保護区から、逃げ出して野生化してしまうものもいるんだ」
「ああ」カンジダは理解しているのかどうか不明な様子で答えた。「めちゃくちゃな生態系ができあがるね」
「そう」レイヴンは溜息をついた。「もはやそこは保護区ではなく、無法地帯になっているようなものだ。そんな活動家たちと、関わり合いたくもないよ。うちの動物たちに目をつけられても困るし」
「じゃあさっさと帰らなきゃね」
「ああ、そうするよ。じゃあな」
「さよなら」カンジダは特に名残惜しそうにもなく別れを告げた。
レイヴンは、コスを乗せた収容籠を探しに上空へ飛び上がって行った。
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